5 経過
夕食を食べ終え、令嬢達と別れて私は寮へ戻った。
自室前に着くと扉が開いた。自動ドアではない。サラとリタだった。
「「お帰りなさいませ、フィリアお嬢様」」
「ただ今戻りました」
え、どうして分かったの?どこから見てたの?気配?気配を察知したの?
鞄を渡し風呂場へ直行する。ドレスを脱がせてもらい、三分の二まで湯が張られた猫足のバスタブに入り二人に身を任せた。
精油が垂らしてあるようで、良い香りに体から力が抜けた。
「ご報告致します。部屋の変更は責任者に了承が取れ、この部屋の約二倍の広さになります。部屋を確認したところ、しばらく使われていなかったようで痛みがあり、リフォームが必要な状態でした。リフォームには三日掛かるようですが、いかがいたしますか?」
「ご苦労様。リフォームは頼んで良いわ。すぐに取り掛かるように取り計らって。リタの方はどうでしたの?」
「はい。シーランス家から家具が届くのに、一週間ほど掛かるそうです。お手紙は先ほど届きましたので、机の上に置いてあります」
「分かったわ、ご苦労様。それでは、リフォームの監督はあなたたち二人で交代でするように。それと家具が届いたらすぐに使えるように、部屋の間取りに合わせて家具の配置を考えておいて頂戴」
「「かしこましました、フィリアお嬢様」」
さすが侍女、プロですね!この世界の文明水準だと、連絡一つでも大変だったろうに。
これだから有能な人材を使って贅沢もできる立場って、手放したくないんだよ!
それにしても、手紙は早めに必要だったから今日中に届いたのは良いことだけど、手紙を分けて鳩を複数羽使ったのだろうか。シーランス家からヴィストロ学園までの距離だと、早馬ではもう少し遅くなる気がする。
「そろそろお時間です」
風呂から上がると昼に来ていたドレスとは違う、少しゆったりとしたドレスに着替えさせられる。湯上りなので外套を1枚羽織り、人目を憚りながら保健室へ向かった。
♢♦♢
恒例のごとくサラとリタにまた脱がされ、下着一枚でヴェルノの手当てを受ける。
恥ずかしいからと手当てを疎かにすることはできない。令嬢の体に傷が残ったなどとあっては学園の問題になるし、何より私の将来に影響する。傷一つない綺麗な体が当たり前だという風潮の中で、自分の価値を下げるなんてとんでもない。
腫れは既に退いているが、擦り傷や内出血、痣は治すのにまだまだ掛かりそうだ。
「学園生活は順調か?」
昨日のように呼吸を落ち着け、宙を見ていたのに、ヴェルノが話しかけてきたので、擦り込まれたマナーで反射的に顔を見てしまう。
有難いことに、ヴェルノは患部を診ているので視線は重ならない。
「はい、皆様が善くして下さるので、支障なくやっていけそうですわ」
「今朝食堂で何かあったようだが」
「あら、何があったんでしょうか」
えー、あのこと?私が行く前の三角関係っぽいあの現場の方が問題じゃない?
「その場にお前もいたと聞いている」
「さあ?わたくしは友人やお姉さまにお会いしたので、お話ししたりご挨拶をしたりしましたが…。やはり特に何もありませんでしたわ。何かのお間違えでしょう」
手当てしながら質問するのって、触れている状態の方が相手の反応が分かりやすいから?策士だなぁ、おい。
でも残念でした!疚しいことはないから、そんなことで心拍数は上がりませんよ!
「どなたが仰っていましたか?」
「そんなことを聞いてどうする?」
「間違ったことを噂しているようですので、訂正しなければなりませんでしょう?」
釘を刺すついでに誰があなたに情報を流すのか、知っておいた方が良いと思って!
「そんな必要はない。私が直接訂正しておこう」
「そうですか。よろしくお願いします」
人との交流は推奨されるべきなのにぃ。