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10 弁償

 雑貨店に依頼をして丁度一週間。私は店を訪れた。相変わらず繁盛している。

 カウンターまで行き、にっこりと口を開く。


「ごきげんよう。先週注文したシーランス家のフィリアですわ」

「ああ、少々お待ちください。―---―-こちらでよろしいですか?ご確認ください」


 店員が奥から箱を持ってきて目の前で品物が広げられる。それぞれの品物に合わせて裏や内部に彫られたり似た色の糸で刺繍されたりしている。全てにシーランス家の略紋章が目立たない位置に、しかし見ればそれだと分かるように丁寧に付けられている。


「良い腕ですわね」

「そうですか!手を抜かないと評判の職人に頼んだかいがありました!」

「わたくしの友人たちにも、この店をぜひ紹介しますわ」

「ありがとうございます!」


 全てが注文した通りになっていることを確認すると、褒めてヨイショする。正直、注文してお金を払ったのだからそれだけの出来は当然だと思うのだが、この店員にはシーランス家のフィリアに良い印象を持たせるべきなのでリップサービスだ。

 店員がプレゼント用の包装をして前払いの残りのお金をサラが支払った。




♢♦♢




「そこの貴女、少しよろしいかしら」

「っ!は、はいぃ!」


 廊下を歩く生徒に声をかけると、振り返った生徒が私を見るとギョッとして数歩後ずさりした。


 私の容姿は姉に似ているからその気持ちも分からなくないのだが、マナーの授業を受けているはずなのにその態度とは…。この人は習うだけ無駄ではないだろうか。


 微笑をキープし、眉を寄せないようにする。

 今は取り巻き(お友達)を連れていない。私の下の者の前で、私がたかが平民に、私が何かしたわけでもないのに謝罪するような姿を見せつける趣味はない。

 しかし、姉が平民をいじめていることは周知されている。だからこそ、妹の私は歩み寄ったという噂にはなってほしいので、密室に呼び出すのではなく人目のある場所を選んだ。視界の隅で他の生徒の足が止まったのを確認する。


「わたくしはフィリア・シーランス。レイリア・シーランスの妹ですわ」

「あ!レイリア様の妹君が今年入学したと…」

「ええ、わたくし今年から入学しましたわ。それで、お姉さまがあなたのハンカチを無くしてしまったと知って、申し訳なく思っていましたの。シーランス家の者として、弁償させて頂きますわ」


 私はハンカチの入った紙袋を差し出した。以前雑貨店で買った物の一つだ。既に相手が新しいのを買っていようがそれは関係ない。弁償として渡すのが大事なのだ。


「え、え、えぇ~!いらな、いや、結構です!ハンカチ一枚ぐらいどうってことないんでっ!むしろこっちこそレイリア様を不快にして申し訳ありません!」

「わたくしはあなたとお姉さまの間に何があったのか、詳しいことは知りませんわ。けれどお姉さまがあなたのハンカチを無くしてしまったのは事実なんでしょう?」


 大体手紙で知ってるけど。目立ったからいじめられて、ハンカチをズタズタにされたんだよね。


 わたわたと両手を横に振ったかと思えば、今度は頭を激しく何度も下げだした。


 ヘッドバンキングか。

 接して分かったよ。納得だ。これは、うざく目立つ。たまぁにいるよね。言動の全てが相手をイライラさせるの。


「大したことは何もありません!ホント、大丈夫なんで」

「けれど、あなたが受け取ってくれないと、このハンカチの持ち主がいなくなってしまうわ」

「いやいや…」

「せっかく街に出向いて買ってきたのに」


 良いから早く受け取って!野次馬ができ始めてるじゃない!


「いやいやいや…」

「ちゃんと渡せるように包装もしましたのに」


 店員が。


 悲しそうに、ちらりと相手を見る。


「いやいやいやいや…」

「やはり、妹のわたくしだから受け取ってもらえませんのね。お姉さまにあなたに渡すように言って参りますわ」

「妹君から喜んで受け取りますぅぅ~!」


 初めから素直に受け取れ。


「良かったわ。それではわたくしは失礼させて頂きますわ」


 早足にならないように速やかにその場を離れる。

 急いでいると気づかれたら、(やま)しいことがあるんだとそこにいたくない理由を野次馬が勝手に想像する。ただでさえ姉がマイナスを生んでいるのだから、私はその針を慎重にゼロに動かさなくてはならない。人とは誰かのすることを良いことではなく、悪いようにとらえるものだと思う。


 素直に受け取らないから思ったよりも時間がかかったが、あのうざい、えぇと、うざ子でいいか、うざ子に姉のしたことに関して、大したことは何もないと言わせることができたのは良かった。弁償物も皆の前で渡せたし。




♢♦♢




 自室に戻り、箱から手紙を一通取り出すと燃やした。箱の中には手紙がたくさん残っており、同じ数の包装された物が机に置かれている。

 ため息が漏れそうになるのを押し殺し、ゆっくりと呼吸した。傍から見ればただの深呼吸だ。


 こんなことをまだ何回もやらないといけないと思うと、気がめいる。他の被害者が素直なことを祈るしかない。これはパフォーマンスであり、釣りでもあるのだから。


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