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デュラハン先生の臨海学校

作者: 石動なつめ

 青い海、白い砂浜。

 夏と言えばまず浮かんでくるであろうこのキーワードに胸を躍らせ、白雲中学校の二年生達はバスに乗り、とある海へとやって来た。

 このバスの目的は臨海学校である。


 白雲中学校は周りを山にばかり囲まれた田舎の中学校だ。

 生まれてこのかた、川はあれども海などテレビの向こうでしか見た事のない中学生達のテンションはとても高い。


「うひょー! 海だー! 水着のおねーさんとアバンチュールだー!」

「ばっかおまえ、火遊びって言った方がかっこいいだろー」

「やったー! 水着の美女と火遊びだー!」

「まったく男子ったらしょうがないわねー。 どうせなら水着のイケメンがいいよねー」

「えっわたし、水着のおじさまがいい」

「クラゲ……クラゲが出る……」


 バスに乗っている間も生徒達は元気だった。

 きゃいきゃいわあわあ騒ぎながら、海に着いたら何をするかで盛り上がっていたのだ。

 そんな彼らを、担任の先生であるデュラハンの杉田先生が微笑ましく見守っていた。


 デュラハンというものをご存じだろうか。

 簡単に説明すれば、頭を脇に抱えた首なし騎士である。

 いわゆるアンデッドモンスターというものの一種だ。


 この世界には、いわゆるファンタジーの世界の住人達が存在する。

 彼らは何年か前に、この世界とは別の異世界から引っ越してきたのだ。

 何でも彼らの世界が消滅の危機に瀕していたらしい。

 もちろん最初こそお互いに戸惑っていたものの、今ではすっかりと馴染んでいた。


「はいはい皆さん、元気なのは良い事ですが、そろそろ降りる準備をして下さいね」

「はーい!」


 杉田先生の言葉に生徒達は素直に頷く。

 良い子達だ。

 すると、杉田先生の言葉通り、間もなくバスが止まった。

 はやる気持ちを抑えながら、前の人を押さないように気を付けてバスを降りる。

 そんな生徒達の目の前には、青々とした海が広がっていた。


 ザザン、ザザン。


 波の音が生徒達の耳へ寄せては引き、寄せては引き。

 音と一緒に潮の香りもぶわりと広がる。


「…………」


 生徒達の目が、太陽の光を受けた水面のようにキラキラと輝く。

 はじめての海だ。さぞ心も踊るだろう。

 生徒達は感動に震えていた。

 生まれたこのかた十年と数年。

 はじめて見た海である。


「うーーーーみーーーー!」


 生徒達はずらりと横に並んで、海に向かって叫ぶ。

 うちの子達はかわいいなぁと杉田先生は思った。


 ひとしきり感動を叫んだ彼らは、杉田先生の指示の元、早速水着に着替えて砂浜へと向かう。

 しゃり、しゃりと、砂独特の柔らかく、温かい感触が足に伝わってくる。

 はじめはおっかなびっくりだった子達も、すぐに慣れ、きゃいきゃいと跳ねまわっていた。


「はいはい、それでは皆さん、準備体操をしましょうねー」

「杉田先生は鎧のままなんですかー?」

「ええ、残念ながら先生はカナヅチなのです」


 水着の生徒達の前で、一人だけ重そうな鎧を着た杉田先生はしょんぼりと肩を落とした。

 そう、杉田先生はカナヅチなのだ。

 もう一つの理由を言えば、鎧を脱げば子供達が怖がるかもしれないとも思ったからだ。

 デュラハンとは首なし騎士であり、もともとは人間だ。

 その人間が何らかの原因で命を落とし、デュラハンとして蘇ったのだ。

 太陽こそ克服しているものの、その首の断面は、ちょっと言葉にしにくい状態になっている。

 だから鎧を脱げない。

 この状態で海に入ったら、カナヅチである事も合わさって、確実に沈む。


「せんせー元気出せよー。貝殻拾ってきてやるからさー」

「えーナマコの方がいいわよねーせんせー」

「クラゲ……クラゲの方がいい……」


 そんな杉田先生を心配して生徒達はわいわいと話し掛けた。

 生徒達の優しさにジーンと心を打たれ、少し鼻をすすりながら杉田先生はうんうんと頷くと、揃って準備体操を始める。

 いっちにーさんしーにーにっさんしー。

 そうして準備体操を終えると、海で遊ぶ際の注意事項諸々の説明を受けて生徒達が海へと駆け出した。

 その時だ。


 海から巨大なクラゲが現れたのだ!

 

 恐らく三階建てのマンションくらいの高さがあるクラゲだ。

 そんな大クラゲが言葉通り海の中から『ひょっこり』と現れたのである。

 生徒達は息を呑んだ。

 杉田先生も息を呑んだ。

 その前で、クラゲはその半透明な触手を動かし始めたのだ。

 生徒達はごくりと唾を飲みこみ、ぶるぶると震え出す。

 

 その、次の瞬間。


「うわー! クラゲかっこいー!」

「すげー大きいなー!」

「これがアバンチュールかー!」

「クラゲもありね」

「ありよね」

「クラゲ……クラゲが出た……」


 先生と生徒達は揃って歓声を上げた。

 笑顔である。

 クラゲもまた生徒達に向かって手を振っている。


 あのクラゲはこの海岸名物の大クラゲ、白田さんである。

 言わずもがな、この世界の生き物ではない。

 白田さんも異世界から引っ越してきた一人(一匹?)なのだ。

 大クラゲの白田さんは子供好きで有名で、子供達と遊ぶために自身の触手のトゲや毒を全て抜いて捨てて処理した徹底ぶりである。


 生徒達はきゃいきゃいと海へ飛び込むと、白田さんの所へと泳いでいった。

 そうして白田さんに持ち上げて貰ったり、頭の上をつるつると滑らせて貰ったりと、楽しそうに遊んでいる。

 白田さんは大人気だ。

 その様子を微笑ましく見守りながら、ちょっぴりと寂しそうにしている杉田先生の下へ、一人の生徒がやって来た。

 

「先生……小さいクラゲ……あげる……」

「あ、ありがとう!」


 杉田先生は喜びの涙を流した。

 生徒から渡された小さいクラゲは杉田先生を励ますように触手を伸ばしている。

 ちょっとチクチクしたが、杉田先生は気にならなかった。


「臨海学校、楽しいですね」


 杉田先生は生徒達を見守りながらそう言った。

 臨海学校は二泊三日。

 明日はどんな楽しい事があるだろうか。

 白雲中学校の臨海学校は、まだまだ始まったばかりである。

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