2ch創芸戦投稿作品 「金曜の夜の束縛は、少し強めでも大丈夫と彼女は囁く」と「エウレカ」
自分が書いたものの制作過程
2ch創作文芸板でときどき行われる競作祭り。
かっては「2ch文章 アリの穴」と言う投稿サイトを作品投稿場所にして何度も行われ、現在はアリの穴の閉鎖により新たに作られた「文芸部」というサイトに場所を移して行われています。
競作祭り自体は、開催が幹事により告げられ、テーマ決定、枚数決定、投稿開始日、感想期間、結果発表、合評と言った流れで進み、順位が付けられたり付かなかったりします。
今回行われたのは「創芸戦」と言う祭りの名前で、参加者が二つのグループ分けられ、そこで勝ち上がった人が決勝ラウンドに進むというちょっと変則的な競作祭りでした。
わたしがそこに投稿した作品を書き上げる過程を書いていきたいともいます。
一回戦
お題は 「それだけは言わないで欲しかったっ!」 です。
まず、難しいと感じました。
セリフじゃあないかと。
まずはグーグルで「それだけは言わないで欲しかったっ!」 を検索してみました。
そこに現れた検索結果をコピペして、テキストエディタに移します。
ぞれを、ざっと眺めて、キーワード的な文言を拾っていきます。
それでできたシノプシスがこれです。
「子供が子供である事が許されない世界は良い世界ではない」
なぜそうなったかと言えば、親として子供に言ってはいけない言葉みたいなものが多数掲載されているサイトに辿り着いたからでした。
そして出来上がった作品が、これ
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・ 金曜の夜の束縛は、少し強めでも大丈夫と彼女は囁く
かって男子であるならば、30にもなって独身であると、親戚一同や職場の上司などから、アイツは性的不能なのではないかとか、同性愛者ではないのかと囁かれた時代もあったが今は昔の話である。
まわりを見回してみれば、30どころか40を越えても独身である者は少なくなく、その中でも、たった一度でさえ夫婦の契りをかわした事がないと言う猛者も多い。
私自身も42の大厄を迎えた今に至るまで、たった一度も結婚をした事はなく、悠々自適の独身ライフを送っているのであるけれど、自分とは全く正反対に、二度、三度と結婚と離婚を繰り返す猛者も知り合いにいるのだが、ぜったいに某かの問題がそいつにあるのだろうと言う事は、平和な日常生活を送っていく為にあえて言った事は無いのである。
もちろん若い頃はそれなりに、幸せな家族という存在に憧れた時代もあったのだが、何かを得るためには、何かを失わなければならないと言う現実問題に直面するたびに、私は解決すべき様々な諸問題を一切合切先送りする事にした事で、いま現在の私が置かれた状況というものが存在するに至るのであった。
そう、孤独である。
だからと言って寂しがり屋のウサギちゃんのように、孤独に耐えきれなくて死んでしまうと言う事はもちろん無い。
長い年月に渡って孤独に蝕まれた私の心は、結果オーライで一人の時間に打ち勝ち、独りぼっちのプレッシャーをものともしない強靱な心を持ち合わせる事が出来るようになったのであった。
「そうは言っても、その姿じゃ何の説得力も無いんですけどね」
身に付けたのは白いブリーフ一枚に、たるんだ脂身をキリキリと締め付ける荒縄のみ。
そんな雄弁に語った私の姿をスマホのカメラ機能で撮影しながら、出張SM倶楽部「旭陽楼」のTUMUGI女王様は微笑みながら言うのである。
もちろん股間を踏みつける赤いハイヒールが履かれた踵に、その笑顔のような優しさの如き手加減はない。
出張SM倶楽部「旭陽楼」は地元では安心、安全、低料金で知られた老舗の出張SM倶楽部である。
いつもは私が責めるM女VIPコース・120分・30000円を依頼していたのだけれども、今日に限ってはいつもと違う刺激を求めてしまったのか自分でも解らないのだが、S女王様VIPコースを頼んでしまった私であった。
S女王様VIPコースはS系最上級のコースであるだけあってなかなかハードであった。
私のような初心者には向かないと言っておこう。
そう思った時に一瞬、呼吸が止まって走馬燈が見えたのは、華麗なTUMUGI女王様の前蹴りが股間に決まったからであると気が付くまで、私はしばらく床の上を涙目で無様にのたうち回る事となった。
「……子供を、子供を産めなくなります。私はこう見えても子供は大好きなのです。だから、タマタマは勘弁して下さい、TUMUGI 女王様」
「いいですか、子供は一人で作れませんし、老い先短い人生です。むしろあなたの好きは性的な意味で別の所にあるように思えてなりません。だから半田ごてで焼き切ってしまいましょう」
プレイグッズが詰まっていると思えるバックから、TUMUGI女王様は手早く半田ごてを取り出すと、コンセントに刺したのだった。
「初心者の私には過ぎるプレイです。私はもっとソフトな方向でお願いしたいのです」
「正式な料金をいただいている以上は、職務として私はやり遂げねばなりません。イヤよ、イヤよも好きのうち。押すな、押すなは押せの合図なのです。それに誰にだって最初はあるのです。そうやって人は大人になっていくのですよ。灰は灰に、塵は塵に」
正直言えば、命の危険さえも感じ始めた私だった。
荒縄が肌に食い込み、跡が残ってしまって日常生活に支障が出ると私は訴えるのだけれども、そもそもそんな程度の事で失うものなど最初から持っていないでしょうとTUMUGI女王様は言い、金曜の夜の束縛は、少し強めでも月曜日の朝までには消えるから大丈夫と言うのであった。
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>> 「子供が子供である事が許されない世界は良い世界ではない」
ほとんど反映されていません。
なぜそうなった。
書いている途中で「親が子供に言ってはいけない言葉を言われ続けて大人になったらどうなるか?と言う方向にシフトしていったからです。
競作祭り第一回戦のテーマである「それだけは言わないで欲しかったっ!」 と言う言葉は一度もでてきませんが、物語のラストで「それだけは言わないで欲しかったっ!」と主人公は思っていると感じてくれるのではないかと思ったからです。
書き始めるに当たって森見登美彦さんの「有頂天家族」を読んだ上で書いているので、文体にちょっと影響を受けております。
一回戦敗退により、二回戦への出場は無くなりましたが、プロットが出来ていたので、参考作として投稿するために書いた作品
お題 「え! あの時のアレって、お前だったの?」
わけ解りません。
でも、意外な事にプロットがすぐにできました。
以下プロット
ヒロインは死んで、三途の川を渡っている。
実は前にも死にかけた事があり、その時は移植で助かった。
そのおかげで、長く生きられなかったはずの人生を、ほんの少しだけども、長く生きる事が出来て、結婚して、子供が生まれ、その子供の記憶に残るくらいは長生きする事が出来たので、未練はあっても幸せな人生であったとは思えるようになっていた。
三途の川を渡る船の扇動をしている若い男は、死んだ跡の世界での生活を終え、この後に生まれ変わって現世に行くという。
その前に、自分が事故で死んだあと、臓器を移植した相手であるヒロインがどんな人生を送ったのか知りたかったのだという。
「え! あの時の心臓って、あなたのだったの?」
今回は、お題を作中に入れる事にしました。
書く上で気を付けたのは、「死」「心臓」「移植」をテーマにした既存の作品に似すぎないようにすることです。
アニメ「Angel Beats!」とか
小説、アニメ、実写映画化もされている「半分の月がのぼる空」とか。
ですから、ヒロインは30歳くらいで、結婚もしていて、子供も産んでいて、学園ものでもありませんし、病気の彼女を支えた恋人(後の夫)も出てきません。
それで書いた作品がこちら
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・エウレカ
あなたはしにました。
わたしの今の状況を昔のRPG風に言うならば、まさにそんな感じだと思う。
生まれつき心臓に重い病気を抱えていたわたしは、小さな頃から何度も手術を繰り返してきた。
中学生になった頃には、もう移植しかないと主治医に伝えられ、臓器の提供をいつ止まるか解らない心臓を抱えながら待ち続ける日々。
ほんの数秒先には死んでいるかも知れないと言う不安は心を押し潰し、介護をしている両親や、主治医の先生に当たり散らしていた。
心臓の不調から来る他の疾患や、心の不安定さはさらに体を蝕み、自分でもそう長くないという事に気が付いた時には、全てがどうでも良くなっていた。
死にたくはないけれど、苦しい日々から解き放たれるならば、それはそれで悪くないかもしれない。
そんな諦めの境地にやっと達した時に、わたしに合う臓器提供者が現れたのだった。
詳しい説明はなかったけれど、二十代の男性で交通事故に遭い、脳死状態になったのだという。
移植手術を受けられたわたしは奇跡的に命を長らえて、普通とは言えないまでも長かった入院生活を終えて、学校に通い始め、就職をし、結婚して子供まで産む事が出来た。
それは、たとえ移植手術をしていたとしても、わたしの体には充分な負担だったようで、長らえた命も子供が小学校に入学したのを見届けた頃に終える事となったのだけれども。
愛する夫や子供と別れるのは哀しい事だけど、本来ならば終わっていた命をここまで長く繋いで来れたおかげで、夫や子供と共に生きる事が出来たと思えば、それほど悪くない人生だったと言えるのではないだろうかとも考える事ができた。
薄暗い世界の中で小さな小舟に乗って三途の川と思われる川を渡っていく。
振り返れば、わたしがやって来た後方に目映い街の灯が見えた。
「幸せな人生でしたか?」
若い男性の船頭が舵を取りながらわたしに聞いてきた。
「ええ、とても幸せな人生でした」
わたしはそう笑顔で言えたと思う。
「そうですか。それは良かった。僕の心臓があなたに渡って本当に良かったと思います」
「え!! あの時の心臓って、あなたのだったんですか?」
「えぇ。僕はもう新しい命に生まれ変わる事が決まっているんですが、あなたがやって来ると知り、三途の川を渡る時の船頭をさせてもらったんですよ。だって、気になるじゃないですか。僕の心臓でどんな人生を送る事ができたのかなって」
船頭は笑いながらそう言った。
「エウレカ、エウレカです。あなたのおかげで良い人生を送る事ができました」
わたしはそう言ったのでした。
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文体はよしもとばなな風を目指していました。
よしもとばなな風文体は、流れるように読めて語感もいいので普段から使っているのですが、近ごろはよしもとばなな作品を読んでいないので、怪しい感じです。
エウレカの言葉の意味は知っている人も多いでしょうが「わたしは見つけた」だったはずです。
作中で心臓を提供してくれた人の遺族に感謝を伝えに行きたかったみたいなエピソードも入れるべきでしたが、眠たくて入りませんでした。