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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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4.メリーの館 後編Ⅵ

「ふふ」


 メリーは笑いを溢す。いや、抑える気など毛頭ないだろう。何しろ、思惑通り執行者はメリーを殺すことに失敗したのだから。


「その能力があったな」

 

 クランツが撃ち抜いた瞬間、メリーは得意のポルターガイストの能力で防護の傘を自分の前へと呼び寄せ、銀の弾丸を回避した。


「それに、いくら剣を駄目にしても無駄」


 メリーの手元にまたもや別の新たな剣が呼び起こされる。


「まだまだあるわよ。その前に、貴重な銃弾がなくなるかもね」

「どこまで貯蓄してるか知らんが、確かにその確率が高いだろうな」

「あら、意外ね。素直に敗けを認めるなんて。でも私は、素直な人が好きよ?」


 再び生み出した剣を仕込み、形だけはれっきとした『傘』を作る。


「勘違いするな。敗けを認めたわけじゃない。貴様程度なら……尚更だ」


 きっぱりとクランツは言い放つ。メリーはこれまでにないほど、感情を表情に出す。それほどメリーは心外だった。そしてそれは強い殺意へと姿を変える。


「……気が変わったわ。少し遊んであげるだけのつもりだったけど、人形にするのも生ぬるい。貴方はきっちりと殺してあげる」

「好きにしろ。結果は変わらない」

「それじゃあ、そうさせてもらうわ」


 メリーがパチンと指を鳴らす。途端に、部屋を覆いつくす程の剣が浮かび上がる。数を増やしただけの単純な手だが、十分な効果がみられる。避ける隙間が見当たらないのだ。


「これだけの攻撃を防ぐことはできないでしょう? どれだけ強い武器を持とうが、私たちには敵わない。これが、人間と魔界の住人の能力の違いよ」


 これらが放たれる前にメリーを倒さなけばならなくなった。クランツはまだ視界に留めるメリーを狙い撃つ。


「ふふ……。油断ならないわね」


 メリーに届く前に、準備を整え指令を待つ剣数本に遮られわずかだけ外れる。メリーの顔のすぐ横を通り過ぎただけに終わった。


「でも万策つきたんじゃないかしら」

「確かに厄介だが、そう問題じゃない」


 この追い詰められた状況下においても、今なお態度を改めない執行者にメリーは焦燥を覚える。


「強がりもそこまでいくと、惨めになるわよ」


 右手を差し向け、合図を送る。標的を狙えという抹殺の指令。それに従い、法則なく剣は舞った。

 身を翻し初撃を避わす。その到着地点に別の剣が降り注ぐ。常に動き続けることを強制させられる。体力ばかりが奪われていく。それに、避け続けることも必ず可能ではない。


「……っ!」


 足をかすめ、肩に刺さる。しかしそれを気にしている暇はない。顔面に迫るのを辛うじて弾丸で相殺する。そしてまた背後から狙われる。執行者といえど全方位に気配りするのは難しい。

「銀色の閃光シルバー・レイ

「……!?」


 光る銃口で真っ直ぐにメリーを狙う。剣が迫っているが構わず、先程のように弾かれることもいとわない。まるでレーザー砲のように撃ち抜かれた光は、目の前の障害を破壊する。

 メリーはとっさに、近くの剣を楯代わりに引き寄せる。しかし意味がなかった。さらに防護能力を持つ傘を広げ、楯とするがこれもまた意味がなかった。


「あぁあぁあっ!」


 命中したメリーは叫ぶ。魔界の住人にとって、クランツの弾丸は激薬以上に匹敵する。それを腹部にまともに受けた。とても耐えられるものではない。メリーが怯んだことにより、クランツに襲いかかる剣たちは動きを止め、一斉に落下する。


「……ぁっ、ハァ、ハァあ……くっ、……こんな……」


 メリーは床に倒れ這いつくばる。血は出ないものの、その砕けた体が瀕死であると感じさせる。

 その様をクランツは冷たい視線で見下ろす。ポタリ、ポタリッと肩や足から血が滴り落ちる。それすらも厭わない様子で、クランツは動けないメリーのもとへと歩み寄った。


「はっ、……こ……来ないで!?」

「……無様だな。調子に乗って大掛りな動きをするからそうなる。自分だけが高みの見物を決めようとして、一人でいたのも逆に仇になった」

「ハァ……ァ……」


 まだ終わっていない。まだ負けてない。メリーの持つ誇らしいプライドが諦めることを許さない。敵が油断したところを突こうとタイミングを見計らっていた。クランツはまだ進み寄る。


「死ね」


 最後になるだろう。メリーへ銃口を向ける。


「……っあぁあっ!」


 クランツはメリーの伸ばされた手を踏みつけた。そこからグリグリと刷り潰すように痛めつける。


「最後の手段だったか? 手の動きで操っていたのは既に割れている。能力を使いすぎたのも、敗因に含まれたな」

「……ははっ」

「……!?」


 もう最後の策もついえた。なのに、ふと溢れたのは歓喜の震え。クランツが不思議に思ったのも当然だった。


「あはははははっあははははははははははっ…あはっ、あはははははははは!?」


 地に伏せったまま、顔だけを上げ笑う。壊れたように、ただ繰り返す。大きく開かれた瞳。裂けるように緩ませた口。これから殺される者の姿ではない。

 言うなれば、……狂った―



「あはっ。私だけが……死ぬ? 無理だわ。どうせなら、共倒れといきましょう!?」

「……っ!?」

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