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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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4.メリーの館 後編Ⅴ

 目で追うのも厳しいほどの速度で、本や椅子が旋回している。その中心に執行者、クランツがいる。そして上方で操ってるメリーはまた、クスクスと微笑む。


「……っ!?」


 複数ある家具類を見極め、クランツは上手いこと避ける。次の動きを考えた行動でもあった。


「これだけの数をこのスピードで操るやつは初めてだな」


 死角をついて真上から椅子が降り注ぐ。クランツはいとも簡単に察し、銃口を上へと向ける。椅子は方向転換する余裕がなかった。破壊されバラバラになって床に落ちる。クランツはそれをも避わして見せた。飛び回り螺旋を描くことによって、この驚異的なスピードをメリーは維持している。全ての飛来物を破壊してメリーの攻撃をクランツは強制的に終了させた。


「俺にこんなもの効かない。諦めろ……!?」


 いつの間にだったのか。クランツはポルターガイストの能力に対処しながらもメリーの行動を見逃さなかった。だが、対処し終えた瞬間、メリーは消えていた。


 何処に行ったのか。見失った事実には納得出来ないが、メリーの所在を探るのが先だった。


「……私、メリー」

「……!?」


 ねっとりとした声。姿は見えず、近くにいるはずもないのに、耳元で囁くようなメリーの声だ。執行者と呼ばれる者には相応しくないだろう悪寒が走った。



「今……貴方の後ろにいるの」


 メリーがいたのはクランツの背後。クランツは何故気付けなかったのかと悪態を付く。能力か何かかと思うが詮索は後回しにした。

 本来、以前のような万全の状態なら対抗出来た筈だ。だが、メリーは今や腕を失っている右方から攻め立てる。いつの間にかメリーが携える西洋の剣。それを横なぎに振るった。


「……ちっ!」

「……!?」


 すぐに互いに距離を取った。背後を取るメリーは追い討ちをかけるべきだが、そうもいかない。クランツがそれを阻止した。左手に握った銃を、右の脇から撃ったのだ。メリーの剣閃が先手を取ったため、多少的は外れた。しかし、用心深いメリーに警戒心を植え付けることには成功した。


「油断ならないわね」

「残念。外したか」


 苦し紛れに撃ったようなものだが、クランツは強気を装う。すぐにメリーと対面した。メリーはその長く美しい金髪を銃弾に汚されたと執行者を睨んでいた。


「私はメリー。貴方なんかに遅れはとらないわ」


 手にした西洋風の剣を消した。正確には仕舞ったと言っていい。そして今度は、桃色の可愛らしく修飾を成した傘を取り出す。布の部分が小さい日傘である。メリーのお気に入りの武器だった。


「くだらない」


 わざわざ剣から傘に持ち替えた意味がクランツには理解出来ない。いや理解しようともしない。先ほど後ろを取られたのは油断だ。離れているなら銃を持つ自分に利が有る。そう考え、クランツは傘を取り出した瞬間に、メリーに向かって二発ほど撃つ。


「ふふっ、お馬鹿さん」

「……!?」


 クスクスとそう嘲るのをクランツは聞き逃さなかった。しかしクランツが驚いたのはそんなことじゃない。撃ち込んだ銃弾は弾かれた。メリーが前方に向けて傘を開いた。ただそれに、対魔界の住人用の神器が無効化されたのだ。


「何だそれは」


 クランツも興味を抱くしかなかった。メリーはその反応が、可笑しくてたまらないといった様子をあえて曝け出す。


「クスクス。私のお気に入りなの。万能でいい子よ」


 それだけ言ってメリーは先ほどと同じように回り込む。その様子を今度はクランツは捉えていた。全く同じで背後を取る。クランツは即座にきびすを返し、銀色の弾丸を撃つ。傘で防ぐ隙は与えないつもりだった。


「…!?」


 が、防ぐ云々の前に弾丸は素通りとなった。メリーは既にそこにいなかった。


「私はメリー。今貴方の右隣にいるの……」



 銃は既にあらぬ方向を向けている。クランツに先ほどのような不意打ちは出来ない。メリーはそのお気に入りの傘を向ける。防護として機能を発揮するものなら、攻撃力はない。しかし、スッとメリーは持ち手を握り、引き抜く。


(仕込み……!)


 抜き出たのは剣。傘に仕込んでいたものだ。それをクランツへと刃先を向けた。不意を突かれたが、的の小さい刃先を見切るの容易い。首を傾けることで避ける。メリーは続けざまに討つ。付け入る隙がないほど剣先が乱舞する。クランツは後退しながら避わしていった。


「わざわざ抜いたのは失敗だったな」


 クランツは狙いをつけ、刀身に銃口を打ち付ける。即座に零距離で射撃した。成す術なく剣は折れた。衝撃で飛んだ刃は、クルクルと回転して床に刺さる。仕込みの剣まで防護の能力は付与されていなかったのだ。それを有する傘の布部分も、仕込みを晒したときに放ったままで離れて転がっている。


「どうする? そろそろ死ぬか?」


 今度はただ宙に浮いたまま、何も抵抗しないメリーに言葉を、いや殺気を向ける。そしてメリーは笑った。裂けそうなほどに、口角を釣り上げた。


「……思ってる? 本当に? これで終わりと? だったら貴方は、ピエロ同然ね」


 次の瞬間には銃声が高々と響いた。クランツは何も感じない。何か手立てがあるなら勝手にすればいい。あったとしても全て排除するだけ。殺すべき魔界の住人に対して、何を言われようと奮起することなど有り得ない。


 ただ……黒き処刑人を除いて。

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