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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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4.メリーの館 後編Ⅲ

 まだ得体の知れない敵がまだいるが、そんなことは知ったことではない。急いで紗希が通っていった扉を探るが全く開く様子はない。

 最大限の風をかき集め、一気に吹き飛ばす。


「っ……!」

「ギュル……」


 背後からやられる。敵は容赦なく刃を向ける。邪魔な奴だ。先に倒すかと振り向けば、既に敵はもう距離を取る。この暗闇では消えたといっていい。


 今だ気配は十分感じられる。それがざわざわと滲むようにあるものだがら、何処にいるのか見当がつかない。 それさえ出来れば簡単なのにとリリアは苛立つ。

 紗希と別れるにはいかなかった。彼女はれっきとした人間だ。一人ではすぐに殺されてもおかしくない。早く、一秒でも早く合流するべきだった。それには、目の前の敵を瞬殺する勢いが必要だろう。


「……ギュルル」


 時間がない。ヒットアンドアウェイを繰り返すこいつに合わせてる場合じゃない。リリアは誘い込む。再び紗希がくぐった扉を破壊するために、風を呼び集める……振りをした。


(来た!)


 隠しきれない未熟な気配と殺気を頼りに、集めた風のエネルギーを敵に撃ち込む。


「……!?」


 が、いない。正確に察知した。いないはずがない。リリアは疑った。実際、リリアは目測を誤らせていない。ただ一つの過ちは、敵のスピードを甘くみたことだ。確かに撃つタイミング、方向は正確だった。ただ、敵はそこから動いたのだ。そしてただ動いたわけじゃない。


「……っく」


 リリアの攻撃を避わし逆に攻撃を入れる。リリアの予想を遥かに越えた。


「グギュ!」


 殺気を感じたリリアはこの場を脱する。さらなる追撃が来る。ガキンッと金属音が鳴り響いた。リリアが自分より速い敵から逃げられたのは、猫の姿となったからだ。人間と同じ姿よりも速く動くことが出来る。ただ、姿を変えていた分、遅れた。


「時間がないっていうのに!」


 リリアは自分の不甲斐無さを呪った。早く勝つのが絶対。それが今、自分は逃走している。それも足をやられた。人間の時より速いだろうが、普段より半減しているだろう。


「グギュルル……」


 追い掛けてきているようだ。自分の縄張りを荒らす者は殺すことにしているのか、諦める様子はない。攻撃しては退く戦法のくせに、獲物を逃がすつもりがないのは、今のリリアには邪魔なことこの上ない。


 リリアは考える。有効な攻撃の手が防がれつつある。スピードが上がる猫の姿だが、攻撃の手段、威力が極端になくなる。時間をかけている暇はない。焦燥が彼女の判断を鈍らす。


 まだ不利な点はある。この狭い空間だった。本来リリアは遠距離戦が得意なタイプである。スピードある動きで敵を避わし、自分に有利な距離をとって風で狩るのが常套手段だ。しかし、ここではとても距離が取れない。逆に相手は、その驚異的なスピードで敵を近距離で殺しにかかる。今のリリアにとって一番最悪な場所と相手だった。



「リリア」


 ふと呼ばれる声が聞こえた気がした。リリアには分かる。歯をくいしばった。


「こんな、時にまで、出てくるな……」

「……分かるか。所詮半端なお前は何も出来ない」


 頭に響く。ねっとりと絡み付く声。


「違う……。紗希は……私が」


 弾けた。瞬間、何かが変わる。いや変わったのは一つだけ、攻撃力でも、スピードでも、能力でもない。ただ純粋な殺気。


「……ギュ、……ル」


 その異様な殺気を敵も感じる。そして恐怖を感じさせた。

 風が走る。乱れのない一筋の流れ。ぶしゅうぅうぅ…と、赤いか分からない血が吹き出す。人間の時に比べれば弱い風を纏っただけの、爪による攻撃だった。


「ギ……、ギュギュッ……!」


 六つの赤い光は鈍くなる。戸惑い守り手に回る。完全に捉えなかった故か。守りに入ると、酷く弱かった。リリアの駆け巡るような動きに翻弄される。僅差であるスピードで、致命傷はなく、なかなか決め手がない。しかし徐々にだが確実に、リリアは追い詰めていく。


「あぁぁあぁ!」

「ギュ……!?」


 リリアの殺気が最高値に達し、再び飛びかかる。敵は、勝ち目が薄いと判断したのか、かする程度で退いていった。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 相当離れたのか、気配は完全に消えていた。少し我を見失うほど興奮したリリアは、自分を落ち着かせた。


「……っ。急がないと。紗希、待ってて」


 紗希が通った隠し通路からは随分離れてしまった。もうどの辺りか正確につかめない。片っ端から通路を探すしかなかった。

 迅速さが要求される。猫の姿のまま、リリアは風に乗って駆け抜けた。

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