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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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4:メリーの館 後編Ⅱ

 右腕を構える。ユラリとギルが歪む。ただ、実際はそう見えるだけだった。ギルを中心に、部屋の温度が急上昇していた。


 ドクン―。


 鼓動に似たものが鳴り響く。それは呼び出す予兆。本来扱うには荷が重いはずのものを、代償を用いて扱う。


 ドクン―。


「とっておきだからな。一瞬で終わらせるぞ」


 走る。何物をも燃やす黒い炎は、ギルの周りを駆け巡る。炎が走った跡が不気味に造られた。右手に纏う黒炎はみるみる形が大きくなる。酸素を極限まで吸い込んでいた。そのせいもあるだろうか。その強大な存在は部屋の一室だというのに風のような流れを巻き起こしていた。


「………」

「どうした。ビビったのか」

「それはそうだロウ。だが何よりも、ソレをワガモノにしたい」


 ビリビリとその存在を感じる。その荒ぶる炎を前にして鎧の浮遊体は欲した。恐れも確かにあるのだろうが、欲望がいささか勝っているのだろう。


「へぇ。こいつを奪おうってのか?」


 臨戦体勢に入ったギルだったが、思わぬ反応を見せた相手に興味を見い出し、一度黒き炎を解く。


「その通りダ。ただ、その能力だけではナイがナ」


 乗り移った人間が前に跳ぶ。浮遊体が跳んだと言ったほうが正確かもしれない。操られた人間が拳を前につき出せば、それを補うようにして本体の巨大な拳が先天する。


「もうそいつは見飽きた」

「……!?」


 ギルは実に巧妙に避わす。黒炎を撃てば勝てる自信はあった。が、闇雲に使うことは躊躇われる。ゆえに死角をついて急所を狙い、能力の使用頻度を出来るだけ抑える。


「それデ、躱したツモリか!」


 具現化された巨躯の腕をかいくぐった。が、ギルの目の前に正気でない人間が現れる。


「ちっ……」


 先程までと比べ物にならない速さで人間が動かされる。微妙なほどの差ではあるが、鎧と人間が別の行動を取った。それが、ギルの行動を超える重要な要素となった。


「ハハハッ! お前ニハ捕らラレエナイ」

「そうでもないだろ?」


 操作されているとはいえ、肉体は人間であるならこの黒い炎には耐えられない。一瞬にして飲み込まれる。ギルは人間に対して炎を撃ち込んだ。


「どうした? 自ら楯になるなんてな」


 だが実際、人間は飲み込まれなかった。鎧を擬装した本体が前に出たのである。もし人間であったなら触れれば、いや触れることは出来ないだろうが、殺すには十分事足りた。しかし、鎧の方が庇った為に人間はなお健在である。

 ギルは操られた人間を狙った為、黒炎の本来の力をさほど込めなかった。とはいえ、まさかまともに黒炎を喰らって耐えるとは思わない。冷静を繕うギルだが、内心驚愕していた。


「何……、切札のソレが、キカないと分かればオマエも諦めるダロ?」


 さらに鎧の存在が不安定になりつつよろめく。明らかに弱っている。ギルとしては腑に落ちない。黒炎が無効であると見せるわけでもなく、余裕をみせる意味もない。何故わざわざ出てきたのか。


「……!?」


 本体は驚いたようだった。スピードにもだが、そんなものは後付けに過ぎない。ギルが攻め立てる。狙いが本体じゃない。人間のほうだったのが本体を強張らせた。 真っ直ぐに駆けるギルに当然のように本体の拳が迫る。ギルは右に避け、そのまま走った。今度は払うように左手を振るう。それもギルには当たらない。確信したギルの迷いなき動きは、もはや止められるものではなかった。


「操らねぇのか?」


 最後の確認をする。ギルは直接に相手に問うた。何も返せはしない。ただその判別しにくい表情からでも、苦渋が滲み出ているくらいだ。


「本体は確かにお前だが、操る媒体がいないとまずいようだな」


 操られる人間は能力が飛躍的に上がっていた。その能力をもってギルから離れる。最大の譲歩だった。せめて人間は。そんな意思が透けて見える行動だ。しかしそんな足掻きも、数秒ほど時間を延ばしただけだ。ギルは容赦なく後方に飛び上がった人間の肉体に腕を差し込む。


「グ、ァ……」


 その瞬間、不安定な本体が歪みを見せる。それと同時に黒い炎が牙を向く。人間など跡さえ残らない。完全なる消滅だった。そして叫ぶ。媒体が消えたのと同様に、霊体である鎧の奴も一緒に消えた。


「急がねぇと」


 倒した相手を特に気にかけることはなく、ギルはすぐさま次へと向かう。

「……!?」


 その時、ギルに異変が起こった。体がうまく動かせない。


「……許サナイ。今度……ハ……お前に……乗リ移ル……」


 頭の芯に声が響く。紛れもない。奴だ。力はなくなり消えたものかと思ったがそうではないらしい。本体が最初から狙っていたことが、今実現になろうとしている。強大な力を持つギルを乗っ取り、操り、黒炎を我がものにしようと企む。


「……ぐ、ぅ……」


 頭痛が激しい。視界が揺らぐ。よろめいて、ギルは壁に手をついた。最後まで鬱陶しい存在である。


「ハ、ハハはははぁァァ……! イイゾ。コレで俺ハ……!」

 

 酔い知れる。欲したものを手に入れ、まるで餓鬼のように弾けて喜びを上げた。


「……っ」


 自我を保とうとするギル。が、その抵抗の動きも静かになってゆく。


「コレで、手品師如きに、遅れはトラないぃ……」


 ギルが入ってきた扉を開き廊下に出る。向かうはバマシャフのいる場所。ギルの体を使い、鎧の霊体はゆっくりと歩を進めた。

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