3:メリーの館Ⅹ
「きゃ!」
腕を掴まれる。私は必死にそれを引き剥がした。だが、すぐにまた掴まれる。茉莉も同じ状況だった。
「離して!」
既に取り囲まれている。私はとっさに、壁際の暖炉に立て掛けるようにあった灰掻き棒で応戦した。先が一番小さく扱いやすいものだ。必死でそれを振り回す。バキッと偶然当たってくれた。他の人間にも当てようと振るう。何発か当たると、怯んでくれたようで後退し始める。それは全体に影響し、包囲網が緩む。マリに取り巻く連中に対しても威嚇し、茉莉を解放させた。
「あ、ありがと」
今しかないと思い、一気に駆け抜ける。
「今のうち!」
叫ぶ私だったが、私より遥かに判断力に長けた茉莉はいち早く把握していた。
「分かってる」
ただただ懸命に振り回す。そうして道を開いていく私のすぐあとを茉莉が走っていた。前方が開けると、次の扉が見える。とりあえずあそこに駆け込んで鍵を掛ければ、また時間が稼げるはずだ。
「オォオ……ォオ……」
再び唸る声が聞こえる。
「え?」
前方は開けたが、後ろに回った人たちが走ってきていた。どうやら後方に回ると速度が上がるようだ。おそらく、時間稼ぎに適応しているのだと思う。しかし、今此処で時間を潰しているわけにはいかない。振り切る為にさらに足に力を入れた。
掴まれそうになるまで追い付かれると、私がまた灰掻き棒で威嚇する。茉莉を先に行かせて私が後方に回り、距離を取らせた。
「急いで!」
不思議と棒を振り回せば、反撃をしてこない。これは貴重な好機となる。背を向けた方、向かうべき扉から茉莉の呼ぶ声が聞こえた。タイミングを見計り、 私はまた走り出す。そうして振り向いた瞬間、バタンと音がした。
「え?」
扉が閉まった。何故か分からない。また追い付かれるかもしれない背後など気にせず、扉の前まで一直線に辿り着く。
「茉莉! 開けて!」
横に伸びたノブを動かそうとしたが動かず、叩いてみる。
「それが、開けたいんだけど! 勝手に閉まって、鍵がかかったようにビクともしないの!」
「オォ……ォ……オ……」
メリーの配下になった人達が向かってくる。開かない扉。逃げ道がない。
へたり込む。悲鳴をあげて最後の抵抗をする。何の意味もない拒絶の意思を訴えた。
「……あ……れ?」
瞑ってしまった目をゆっくりと開く。何も起きなかったのだ。見れば、向かってきてたはずの人達は皆倒れてた。私は何もしてないはずだ。どういうわけかよく分からなかった。
「開いた」
茉莉が扉を開けることに成功したようだ。
「大丈夫だったの?」
「あ、うん。これ……どういうこと?」
「メリーに何かあったのかも」
私は立ち上がってさらに訊いた。
「何かって……」
「それは……分からないけど」
私たちには、今何が起きているのか分からない。分からないが、良い方に転んでいる。運に等しいが、何とか凌いだ。ギルとリアちゃんが気掛かりとなる。合流すべく、私たちは先を急ぐことにした。