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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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3:メリーの館Ⅸ

「あの、さっきはありがとうございました」

「助けたこと? 気にしないで、ただの気まぐれだし」


 人の死について何も感じていない様子の彼女は、本当に軽い感じだった。


「あと敬語はいらないわよ。私嫌いだし。呼ぶときも呼び捨てでいいから」

「はい……あ、うん…」


 よく分からない。いつまた敵に出くわすとも限らない、緊迫した状況のはずなのにどうもそんな様子がなかった。茉莉は遭遇しないとでも思っているのだろうか。階段を登る時も、彼女は遠慮なくどんどん進む。それは走る速度ではなく、そこに躊躇するものは何もないという確信の差だった。


「もう少し、慎重に進んだほうが……」

「ん? 大丈夫。ここらへんは何もいないわ。間取りとかけっこう把握してるから安全よ」


 どうやら伊達に長くいないらしい。その辺は心強いが、それでももしも敵と遭遇してしまったことを考えると私は気が気でない。だが、今はそうも言ってられないのも確かだ。私もリアちゃんの元へ急ぐため、強く速く足を伸ばした。

 登り着いた先には扉があった。軋んだ木製の扉だった。随分使われていないのか、埃まみれだった。重く、開けるのに苦労した扉の先は、暗く乱雑した部屋だった。


「ここも何もいないから安心して」


 そう言って茉莉は明かりを灯した。入ってきた扉付近にスイッチがあったらしい。本当に熟知している。


「それで、合流したいんだけど」


 私はリアちゃんが気がかりだった。実際追い詰められていた場面だったのだ。最初にはぐれてしまったギルも気になる。息も切れ切れに私は尋ねた。


「そうだったわね。この扉の先よ。そうすれば上にも下にも行くことができる」


 茉莉は一つの扉を指し示す。私はお礼を言って駆ける。ノブに手をかけたその時、茉莉がすぐ後ろにいた。


「私も行くわ。もしかしたら私も逃げられるかもしれないし、何か役に立てると思う」

「うん、分かった。お願い」


 心強く思いながらノブを回した。絶対に助けると誓いながら。


 長い廊下に出た。ずぅっと同じ風景が続く。私たちはただ走っていた。


「あらら、これまずいかも」

「何が?」


 少し前を走る茉莉がそっと呟く。


「私が知ってる道じゃなくなってる」

「それ、どういうこと?」

「メリーね。この館はあいつの思うがままに形を変える。つまり……」

「つまり……?」


 背後でガコンッと音がした。振り向くと、壁が開き人が現れた。普通の人間じゃない。メリーの配下となった人間である。それが、廊下を埋めるほどの数だ。

「やっぱり……」


 納得したように振る舞う茉莉。私は苦渋に満ちた。

「こんなに」

「おぉおぉぉ……」


 唸りながら迫ってくる。止まっている場合じゃない。私たちは再び走り出した。

 スピードが上がったのを確認したためか、後ろの人たちも走り出す。


「ちょっ、なんか早くない?」


 言っても仕方ないのだが、不満を口にする。


「メリーも焦ってるのかもね。早い動きがとれる上位の操り人形は近くにおいてるみたいだし」


 逃走を開始して少し走ると、先端に扉が見えてきた。


「早く」


 急いで扉に手をかけ、次の部屋に滑り込む。そして扉を閉めた。幸運なことに、この扉には鍵が取りつけられている。鍵をかけて隔てた。


「……!?」


 安心したのも束の間だった。さらに先へ進もうとするが、それは容易ではない。既にこの部屋には、配下となった人間たちで溢れていた。


「そんな……」

「うまいこと構造を変えたみたいね…」


 廊下にいた数どころではない。囲むようにじりじりと距離を縮めてきた。ドンッドンッと戸を激しく叩いている。廊下の人たちも追い付いたらしい。扉一枚あるとはいえ、後ろも封鎖された。


「これはもう終わりかな」


 茉莉が諦めたように呟いた。


「諦めちゃだめ。走って!」


 今度は私が茉莉の手を引く。驚いた茉莉だが、すぐにあとをついてくる。


「おぉ…ぉおぉ…」


 うめきながら迫る軍勢。部屋の中心は既に入り込む隙間がない。右へと駆け抜け、壁づたいに一気に走る。廊下の人たちとは違うのか、走ってくることはないが、私達を行かせまいとして包囲してくる。


 スピードで言えば断然こちらが速いが、数と一部屋という状況でやはり分が悪かった。すぐさま前方を防がれた。

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