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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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3:メリーの館Ⅶ

 実に容易く殺した。リリアが追い詰める時間は何だったのかと思えるほどあっさりとしたものだ。

 瞬時に相手をバラすギルの迅走しんそう十九閃じゅうきゅうせんが、リリアのときと同じ様にグルッキオを切断した。切断のついでに、ギルは心臓部と言える繭を掴み取る。

 弱点が露呈されたグルッキオだが、ギルのスピードについていけないのだから、対処しようもなかった。ギルは躊躇せず、そのまま繭を握り潰した。取り返そうとする間もなく、グルッキオは消えた。圧倒的だった。もう過去に受けた傷は癒えたといえる。ようやく、ギルに本来の力が戻りつつあった。


 ギルは室内を調べまわすが何もない。紗希を落とした床は開かなかった。


(黒猫もついてるし大丈夫か)


 グルッキオとの戦いで、ギルはリリアを評価していた。奇術師であるバマシャフが相手となるとまずいだろうが、奴が下にいることはない。もしそれクラスの奴が下にいたとしても、リリアなら回避することも出来るとギルは考える。


 一階にも部屋のいくつかの扉があるが、それらは意味を為さないと見抜く。跳躍して一気に二階へと登った。

 適当に通路に出る。グルッキオのように何かが待ち構えるのかと思ったが、それはないらしい。ギルからすれば拍子抜けである。

 ただより上へ行くための階段がない。普通なら破壊して行くことも可能だが、屋敷に対しての破壊は無効化されることは確認済みである。虱潰し(しらみつぶし)に探すしかなかった。

 ふと殺気に満ちた扉に気付く。向いて右に位置する扉からは垂れ流すように感じられる。それは道標であるとギルは解釈した。警戒なく扉を開ける。何があっても対処できる自信の表れだった。


 部屋のなかはとにかく広かった。壁にかけられた人物画。暖炉。高価な家具。部屋を飾るたぐいが設置されているなか、何者かが部屋の中央に立っていた。


(……人間か?)


 メリーが連れ去った人間の一人だろう。茶色いモヒカン風の髪の男。ロゴの入ったTシャツにカーゴパンツと、遊びに行くであろう軽装である。正気を失っているのか、目は虚でぐったりとしている。


「……ハ、キハハ……ハハハハ……」


 乾いた喉で声を絞り出すようだ。何をされたのか分からないが、人間としての精神は犯されている。

 ギルは部屋を見回す。しかし、やはりいるのはこの男だけだ。おかしい。この人間に、部屋に入る前に感じ取れた殺気は出せないはずだ。

 ならば、あれは何が出した?


「こノオレだヨ」


 男が口にした。とてもまともとは言えないが、確かに言葉が聞き取れる。ギルの心理を読んだかのような、正確な一言だった。


「やっぱお前か」

「ああ。そうだトモ。オマエヲ待っていた」


 軋む腕を伸ばしギルに指先を向ける。震えてしまう腕をすぐに下ろした。


「お前も俺が狙いのようだな」

「いかニモ。だがカンチガイはヨクないな。コロス気は全くナイ」


 男がフワリと飛び上がる。が、体勢が異常だ。背を丸く曲げ、手足はダラリと伸びきっている。何かに引っ張られている風貌だ。


「ただの人間じゃねぇな」


 覆い被さるように降り来る男に、ギルは拳を振るう。相手に先制を許さない、瞬時に腹部に打ち込むものだった。そしてそのまま吹き飛ぶ。


「で? これで終わりか?」


 哀れに転がる男にギルは吐き捨てる。


「ハハハハ……」


 ビクンと反応して起き上がる。大きく背を後ろに曲げて不安定だ。そして人間の、普通の行動ではない。


「危ないナア。油断シタ」

「油断じゃねぇよ。お前が弱いんだ」

「まだキメつけるのはハヤクないか?」


 男は右腕を振り挙げる。すると、交わった形で壁にかかっている、二本のうち一本の剣が浮いた。


「ポルターガイストか」

「ハハ……違うナ」


 剣が振り下ろされる。単純な一閃だ。ギルが易々喰らうわけもない。敵もそれだけの力量は予測済みだった。単独の剣を向かわせた後、男自らも追従する。ギルが左に避わしたところに追い討ちをかける。だが、予測済みなのはギルも同様である。奇妙な体術で仕掛けられる足技をギルは後退してさらに避わす。


「……っ!?」


 確かに避けたはずだった。ギルは男の蹴りが、自分の目の前を通り過ぎる光景を目にした。しかしその瞬間、ギルは思いもよらない強い衝撃をその顔に受けた。宙に浮いた体を転じて、すぐさま態勢を整える。


「……何だ?」

「ハハ……どうした。オドロいた顔ヲして。オレの能力が気にナルか」


(ポルターガイストの能力じゃないのか)


 立ち上がったばかりのギルに先ほどの剣が迫る。ギルはそれを視認することなく破壊した。


「マダマダ元気だな。どうヤラ時間ヲ食いソウだ」

「んな心配すんな。たいしてとらせねえよ」

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