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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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3:メリーの館Ⅴ

「うぅ……ん……」


 目が覚める。そこはとても薄暗かった。何でこんなとこにいるのかしばし考える。


「紗希起きた?」


 と声をかけられて驚いた。でもすぐにリアちゃんだと分かる。


「落とされちゃったんだけど、分かる?」

「あ、うん。そうだったね」


 そうだ。落とされたんだ。まさか床がスッポリ消えるなんて思わなかったから何も出来なかった。冷静になっても、何も出来なかった気がしないでもないけど。


「あ、もしかしてリアちゃんが助けてくれたの」


 落とされたわりには全く怪我がないことに気付く。


「ま、まぁ」


 顔を赤くして照れるリアちゃんは可愛かった。つい抱きついてお礼を言う。


「ちょっと、紗希」

「えへへ。ありがとう」

「えと、それは嬉しいんだけど。今はそんな場合じゃなくて……」


 リアちゃんがゴニョゴニョと小声になりながらも訴える事実に、私は改めてハッとなる。


「……はぅ…なんかさっそく足手まといになったかな。ギルと合流したいようでしたくない」


 私は合流出来た時、ギルがどれだけ怒るのだろうかと考える。いや、恐ろしくてこれ以上考えるのはやめた。


「それもあるけど、脱出出来るかどうかが問題」

「た、確かに……」


 見回してみると、出口があるのか怪しく思える。地下なのだろうか。幸い灯された火がある為少しは見える。洞窟を思わせる薄暗い空間は、出られないと訴えかけるようだ。とはいえ実際動いてみないことには分からないし、諦めるはずがない。優子を絶対助けないと。


「とりあえず進んでみようか」


 壁づたいに進む。リアちゃんの後ろに私が続いた。

 ひんやりと冷たい。手から伝わる壁はゴツゴツしていた。地面も同じようになっているようで、さっきまでの豪華な部屋とは雲泥の差だ。ピチョンと水が垂れている音さえ聞こえる。いったい此処がどの辺なのか皆目見当がつかない。


「紗希」


 と、前を注意しながら進むリアちゃんが呼ぶ。


「どうしたの?」

「気を付けて。何か来る」


 私も注意して前を見定める。暗くて見えにくいのは変わらないが、足音が聞こえてきた。それが大きくなってくる。


「た、助けてくれ」


 助けを求めて現れたのは、ヨレヨレの紺色スーツを着たサラリーマン風の男性だった。同じく紺のネクタイもヨレヨレで、少しお腹が出ている体型である。ただ酷く蒼白で顔色は悪い。私より大きい体の持ち主なのに、妙に怯えていて小さく見えてしまう。そのせいもあり、自分より年上なのは間違いないが、何歳くらいなのかも分からなかった。


「出口……出口は何処だ?」


 すがりつくように、震える声で訴えるのは出口の所在。私たちも探していることを伝えると、一気に勢いが消えた。


「くそっ。何でこんなことに」

「あの、何か分かることありますか?」


 ここが何処になるのか、他に何か気付いたことがあるのか尋ねた。


「知るか。全く分からないんだよ」

「そういう言い方はないんじゃない?」


 吠える男にリアちゃんが食ってかかる。私は何とかリアちゃんを押しとどめた。


「何処から来たのかも分かりませんか?」


 可能性としてはメリーだと思う。この人も、優子のように連れ去られたのかもしれない。


「あぁ」

「あの、他にも連れて来られた人もいるんですか」

「そうだな。何人かいた」

「じゃ、じゃあ私と同じくらいの女の子がいませんでした?」

「いや、俺は見てないな」

「そう……ですか」


 もしかしたら優子の所への行き方が分かるかと思ったんだけど、そこまで甘くはないらしい。あの奇術師の言葉を信じるならば、最上階へ行かなきゃいけない。やはりまずは此処を出るのが最優先だろう。


「誰かを助けに来たのか?」

「あ、はい」


 座り込んでいた男の人が立ち上がりながら問う。段々冷静さを取り戻したようだ。


「馬鹿だなあんた」

「な、何で」

「どれだけ大事な奴かは知らないが、もういないぞ」

「う、嘘言わないでください!?」


 つい声を荒げる。リアちゃんもこの人も驚いたようだ。男の人は目を逸らして続ける。


「嘘じゃないさ。此処に来た人間はほとんどが、既に正気を失っている。仮に此処から出ても、もう元の生活に戻れないんじゃないのか。そんな風に思えたよ」


 私は言葉を失う。何も考えが浮かばない。否定するべきだ。まだ優子がそうだとは分からないはずだ。なのに、言い返すべき言葉が次々に消え失せてしまう。


「そん、そんなの……」


 うろたえる。やはり、もしもの場合を、思い付くかぎりの最悪の場合を、頭の中で描いてしまった。


「でも、それはまだ治せるかもしれない」


 リアちゃんが簡単に述べる。反射的に振り向くと、リアちゃんは私に微笑みかけた。まるで大丈夫だと囁くかのように。

 私は早くも諦めかけたといのに。それをあっさりと、リアちゃんが立ち直らせてくれる。小さな女の子が今は、いや今も、とても大きく力強く映った。


「確かに、戻らないとは限らないが」

「それに、まだ無事の可能性だってある」

「そう、だよね」

「いずれにしても、まずは此処から出ないといけないけどね」


 リアちゃんを先導に、私達は出口を求めて、さらに歩を進めることにした。

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