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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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3:メリーの館Ⅳ

「ケケケケケケ!?」


 と、窮地である筈のグルッキオが、これまでにない高らかな笑い声をあげる。笑っていることなど構わず、リリアは残すところ頭部のみとなったグルッキオに、カマイタチを撃つ。腕を振るい、三日月の形をした風の刃を放つ。避わそうと旋回するグルッキオはまっ二つに分断される。


「ギゲェッ!?……なんてね」

「……!?」


 分断したはずの頭部は、また元に戻っていた。それだけではなく、粉々に砕いた左腕がリリアの顔を覆う。


「なっ!」


 左腕も再生していたのだ。そのままリリアを床に叩き付ける。


「くぅっ……」


 リリアが右手に風を纏う。風の太刀エア・ブレイドで斬り棄てようとした。すると今度は、同様に再生した右腕がリリアの右肩を押さえる。これでは腕が挙げられなかった。リリアは左手で風の太刀を出すことは出来ない。倒れたまま余った左手で引き剥がそうとするが、リリアの純粋な力では負けてしまっていた。


「この……」

「ケケ、ケケケケ! ボクの体は最初から切断されても意味がないよ」


 リリアは視線をグルッキオに移す。グルッキオは腕だけを無くした状態で立っていた。リリアを押さえ込む腕も、うまいこと機能出来るよう腕の接着を調節していたようだ。


「そろそろ終わりにしようか」


 グルッキオの口から小さな丸鋸まるのこが射出される。近づく必要がある毒針では危険だと用心したのかもしれない。


「……そう」


 対してリリアは酷く落ち着いていた。押さえ付けられ脱出もままならない上に、二枚の丸鋸が迫っているこの状況下でだ。リリアは渾身の風爆リジェクトを撃つ。邪魔な腕二本も丸鋸も吹き飛ばすつもりで放つ。腕だけでは、発動の邪魔をするには不足だった。事実障害あるものは撥ね退ける。

 しかし、丸鋸は破壊されそのままだが、グルッキオの腕は何度でも再生し、また本体に戻ることが出来る。


「中々しぶといね。おとなしく殺らればいいものを」


 素早く立ち上がり体勢を整えるリリアに、グルッキオは憎々しく吐き捨てる。


「その言葉、そっくりそのまま返す。もう終わりだけど」

「終わりだって? ケケケケケ! 諦めたのかな」

「すぐに分かる」


 腕を大きく振るい、リリアはカマイタチを放つ。それは、とても大きい三日月型の衝撃波となっていた。


「馬鹿正直すぎる。こんなものすぐに……!!?」


 ただ真っ直ぐに迫る真空の刃。グルッキオのスピードをもってすれば、躱すのは容易い。が、カマイタチは迫るだけでは終わらない。グルッキオがかわすのを見越し、リリアは人指し指と中指を伸ばした手付きで、十字を切る。


「散」


 大きな大きな刃は拡散する。躱したと確信していたグルッキオは、直接その千に匹敵するような刃を受ける。体はまたもバラバラとなってしまう。


「無駄無駄」


 しかし、いくら斬り刻もうともグルッキオは死なない。何回でも繋げることが可能だ。


「これでも?」

「……!?」


 リリアは手にしているものを見せびらかす。微かだか確かに鼓動していたそれは……白い繭のような球体だった。リリアの手に渡り初めて今、うっすらとグルッキオの分断したパーツ全てに、糸みたいなものが伸びていたことが視える。グルッキオはそれを目にして血走る。一気に青ざめた。


「……お、おお……お前……、そ、それ、い、いい、いつの間に……」

「ついさっき。気付かなかった? まぁ速すぎて残像でも見えたのかもしれないけど」

「や、やめろ……返せ……。そ、それを、返せぇ!」

「リアちゃん……」


 紗希が心細くリリアの名を呼んだ。リリアは分かっていたとすぐさま応える。

「うん分かってる。……グルッキオ、これは返してあげる」


 放り投げて返される繭を、グルッキオは夢中で掴み取る。グルッキオの手に戻ると繭は体内へと沈んでいった。


「な、なぜ……?」

「一度態度が豹変したから。その心臓とも言える繭が殺られそうになったからでしょ?」


 疑問の意図ははき違えていたが、弱点がバレた要因は間違っていない。何も返さずとも、図星であるとグルッキオの表情が物語っていた。


「勝負はついたはず。私たちは先にすすませてもらうから」


 そうしてリリアは紗希とギルのもとへと戻る。


「お、お前……トドメをささないつもりか?」

「うん」


 リリアが戻るその途中、ギルは信じられないといった表情で迎えた。紗希が何かを言おうとするが、先にギルに阻まれる。


「何のつもりだ?」

「悪い?」

「あぁ。情けのつもりか知らないが、無闇にかけると自分が死ぬことになるぞ」

「ケケケケケケ……!」


 グルッキオの腕が飛ぶ。自ら切り離し射出したものだ。それは一直線にリリアには向かわず、紗希を襲う。


「せ、せめて一人」


 苦し紛れの一撃。リリアが止めるより早く、ギルが飛来した腕を掴む。


「だからこうなんだよ。悪あがきをするからな」

「……む」


 特に慌てることもなく、冷静に事を進める二人に、グルッキオの苛立ちは頂点に達する。グルッキオはもう一本の腕を真横の壁に飛ばした。一見ただの壁だが、カチッと凹む。


「え、うそ……」


 作動するスイッチだったのだろう。紗希が位置する床がなくなる。つまり、紗希には支える地がなくなり落ちるしかない。


「きゃああああ!」

「紗希!?」


 ギルとリリアが走る。リリアは後を追って落ちる。ギルは掴んでいたグルッキオの腕から、さらに射出された手に妨害を受けて遅れを取った。その間に、開いた床が再び閉じてしまう。


「ちっ」


 全く考えになかった不意打ちをまともに顔に受ける。壁にまで叩き付けられ、怒気の篭った舌打ちをした。


「ケケケケケ!」

「やってくれるな。人形の分際で」


 ギルを吹き飛ばした腕は既にグルッキオの元へと帰る。


「このボクを、甘く見るからだよ」

「あぁそうかよ。じゃあもう、殺していいな」


 殺気を込めてギルは告げる。次の瞬間にはもう、グルッキオの跡形は何一つ、残っていなかった。

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