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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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3:メリーの館Ⅲ

「しまっ……」


 反応したのは意識だけ。体まで動かす頃には、腕を掴まれた。首を掴まれかけたところを、何とか腕を差し出し防いだ結果だった。スピードに乗せた腕はリリアを地に叩き付ける。そしてその直後、グルッキオ本体が向かう。


「アァァアアァアア!?」


 グルッキオの口から鋭い針が伸びる。紗希には見えてないだろうが、針からはポタポタと黒い液が染み出ていた。


「……くぅっ」


 動きたいのだが、どうしたことか一本だけの腕に掴まれてるだけで動きが取れない。床と密着して硬直状態に遭う。腕だけという不確かな存在のくせにとても力強かった。


「死んじゃえよ! こいつで苦しみながらさぁー!」


 毒か。リリアはすぐに察する。が、察したところでこのまま喰らっては意味がない。


風爆リジェクト


 リリアが力を解放する。リリアを中心として、台風のような風が周りへと発せられる。ただの風ではなく、触れたものを切り裂いた。掴んで離さない腕も、直接毒針を刺しに来るグルッキオも、まとめて裂いた。比べて距離があったこともあり、ギルは紗希を連れて難無く回避していた。


「危ねぇな。もっと考えて使え」


 ギルが悪態をつく。皮肉以外の何物でもなかった。


「煩い。紗希は大丈夫?」


 とっさのことだから、考える余裕があまりなかったリリアは、反論が苦くなる。紗希も危険に晒すことになってしまい、心配になった。


「うん大丈夫……けど」


 と、紗希はギルを睨む。


「もう少しやりようがあるんじゃないの?」


 助かったのはギルのおかげではあるが、素直に礼を言う気にはならなかった。それは、いい加減な扱いをされたからである。猫を拾うように、服の背中の部分を掴まれ引っ張られたのだ。已然掴まれたまま抗議する。


「助けてやったんだろうが」

「でも、もう少し方法ってもんがあるでしょ……」


 ストンと足から下ろされる。


「とりあえず無事なら良かった。それよりまだ下がってて」

「……あ」


 リリアの一言を聞いて、紗希もまだ終わりではないことを知る。見れば、さらに細かくバラけたグルッキオが浮かび上がっていた。頭部から首。肘からの右腕。肩からの左腕。胸。二つほどに分かれた腹部。腹部から右膝まで。右膝からさらにつま先まで。左足。八つほどのパーツへと変貌していた。


「ケ、ケケ、ケケケケケケ!?」


 独特な笑いを上げて飛び回り始める。全てが最高速度を保った。リリアの周りをグルグルと旋回する。リリアは佇んだあと、静かに口を開いた。


「馬鹿みたい。こんなの、もう一回やれば……」


 と、もう一度風爆リジェクトを放とうとする。流石のリリアも八つ同時には見切れない。出来て半分くらいだろう。だが、リリアの周り一帯が攻撃の範囲内とするならば、どれだけ速く動こうが関係はない。ギルは避けることが出来るようだが、グルッキオが無理なのは既に分かっていた。しかし、グルッキオもそう易々とはいかない。


「……!?」

「馬鹿はお前だよ」


 リリアが怯む。放出しようとした時、右斜め上方向からグルッキオの左足が迫った。危うく足だけの蹴りを喰らうところだった。代わりに風爆リジェクトは不発に終わる。

 そして次の瞬間には、背後からグルッキオの頭部が襲う。もちろん毒の染みた針を口から覗かせていた。


「隙を与えなければいいんだよ!」


 背後からとはいえ、リリアはいち早く気配を察知する。刺さるかと思われる瞬間には高く飛び上がり、バック宙の要領で避けた。


「ギィ……」


 グルッキオはとどめを刺せたと思ったのだろう。それが、実際はそうはならず、歯ぎしりに似たうめき声をあげる。恨めしく振り向く頃には、リリアは着地を終え後を追う。


「くそっ!」


 高速で動いているとはいえ、リリアの動きもグルッキオのそれに匹敵する。さらに頭部だけで後ろを取られたとなると分は悪すぎた。グルッキオは感じ取る。対抗するために振り向こうとすれば、その間に差を詰められるだろうことに。だから、頭部以外のパーツを向かわせることにした。


「……!?」

「ケケケケ! ボクの包囲網を突破できる?」


 頭部以外のパーツが飛び交う。リリアに目掛けて一斉に襲う。もちろん全てが違うパターンを取っていた。


「邪魔」


 風掌壁フォースと風の太刀エア・ブレイドを巧みに使い、多種多様の動きを見せる七つのパーツを粉砕した。それは予想を越える力だった。だが、スピードが上がったわけでも能力に研きがかかったわけでもない。相手の動きに慣れただけだった。


「隙を与えないんじゃなかったの?」

「ギギィ!」


 七つのパーツは全て叩き落とされ、まともに浮遊するのは頭部のみ。リリアは皮肉めいた言葉をぶつけ、さらにグルッキオを追い詰める。

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