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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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3:メリーの館

 ギィ……と扉が気味の悪い音を出す。中は外とは違って明るかった。最初受けた屋敷の印象は近寄りがたかったが、中の明るさを知ると早くに入り込む。

 三人がくぐると、扉はまた軋む音をあげながら閉まる。風のせいではない。勝手に閉まった。


「……ぅ」

「帰す気はないってことか」

「来た」


 悠長に構えるギルと、少し後悔しそうな私に呼び掛けるのはリアちゃんだった。

 中は赤い絨毯が一面に敷かれ、高級なシャンデリアが屋敷の影を無くすように輝いている。目の前には二階へと続く巨大な階段がある。階段の手前、部屋の中央とも呼べる辺りに、ポゥと何かが浮かんでいた。


「え?」


 みるみるうっすら映っていたものが濃厚に色を持ち始める。廃れた茶色の服を着込む幽霊のようなものだった。魔女がよく被るような帽子を被り、顔は骨のようだった。リアちゃんと変わらない大きさで、足はなく浮いていた。手には火のついていない燭台を持っていた。目から光る蒼い光がユラユラ動き、カタカタと音を出す。


「……ヨウ、コソ……。メリー……のやか……たへ」


 聞き取りにくい、ノイズが混じったような声を出す。部屋が明るいことと、ギルやリアちゃんがそばにいてくれることで、私はこれを目の前にしても平静でいられた。


「さ……テ、お気付きかと思いますがこの館は形だけに過ぎない」


 段々と聞き取りやすくなった。幽霊のようなものは饒舌に言葉を操る。まるで今になって言葉を覚えていくようだ。私たちは何を話すのかを待ってみた。


「いくつも扉が見えるでしょうがそれだけで、全く意味は為さないのです。ほとんどが見せかけです」

「で? 俺たちはやっぱり上を目指せばいいのか? 奇術師」

「……え?」


 発する声は全く違ったから気付かなかった。今喋っているのは、奇術師バマシャフなのか。ギルの問いに、幽霊は笑いを噛み締めて答えた。


「くくっ……、面白い芸でしょう。直接出迎えてもよろしいのですが、なにぶん使えるものは使ってみたくなる性分なのでね」

「小細工はいいんだよ。さっさと出てこい」

「出ていきたいのは山々なのですがね。残念ながら彼女はそれを許さないようだ」

「ふざけんなよ。お前がメリーの命令を聞く理由がないだろ」

「なに。たとえ従っても大差はあるまいよ」

「優子はどこ!?」


 いてもたってもいられない。怖い気持ちを抑えつけて私は尋ねる。


「最上階ですよ。メリー嬢のそばにいるでしょうねぇ」


 ボッと燭台のロウソクに火がともる。その瞬間、輝かしかった部屋が沈む。唯一ロウソクだけが光となったのだ。ついギルの背中に近付く。


「楽しみながら来てください。私も何を使って楽しませるかじっくりと考えていますから」


 ガシャンと幽霊じみたものが崩れ落ちる。急に重力が作用したようだ。暗闇になり音もなくなる。

 優子のところに行くまで長くかかるのかもしれない。早く助けて、一刻も早く此処から離れたいと思った。


「……ケケ」


 甲高い声が一層響いた。再び浮き上がる幽霊……ではなかった。骨のように見えていた部分は肌のようなものが現れる。目はやはり蒼く光り、鼻が高く伸びる。落ちた光には力が戻った。


「……ケ、ケケ……ボクの名前は……グルッキオ」


 足が瞬間的に生えると、ガチャンと地に降り立つ。鈍い光が灯ると、鋸のような大きな剣を両手に携えていた。

 きっとこんな風に邪魔が入るんだろう。すぐに優子のそばまで行けないことに、私は焦燥感を募らせる。何より、こういった事態に、私は何も出来ないのではないかと思ってしまうことに苛立ちを覚えた。


「リリア、お前がやれ」


 ギルが突然言い出す。どういうつもりかは分からない。ギルの性格なら、自分でやりたがると思えるのに。


「どういうつもり?」


 リアちゃんも隠すことない呆れ果てた顔で言い返す。


「この先、実力知ってるほうが動きやすいからな」

「なるほどね」


 リアちゃんは納得したように澄まして了解した後、前に出る。黒い猫は光を帯びてその輪郭を変化させた。


「リアちゃん。気を付けてね」

「分かってる。まかせて」


 金色の髪をなびかせなら歩んでいく。黒いワンピースのような服は猫の姿の象徴のようだ。


「……なに? まずはキミガ、ボクに殺されたいの?」


 人形は陽気に訊いてくる。蒼く光る目は一層輝いていた。裂けた口がこの上なくつり上がる。


「死ぬのは貴方の方だから」


 それに対して、リアちゃんは冷たくあしらう。構えた腕からカマイタチを射出する。グルッキオはそれを真正面から受けて飛ぶ。そのままガシャンと倒れた。


 私は息をついた。とりあえずあっけなく終わった。勝負にさえならなかったのだ。


「……ケケ、舐められたもんだ。どこから刻んでほしいんだい?」

「……!?」


 そう思えたはずなのに、即座に起き上がったグルッキオは、傷一つないようだった。

 真正面からまともに喰らったかのように見えたけど、実はそうではなく、手に携えた鋸で受け止めていたことが分かる。少し欠けた鋸を持ち直していた。


 これくらいでは決しないのか。グルッキオは、素早い動きでリアちゃんへと距離を詰めた。

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