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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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2:異変Ⅵ

「お願い」

「無理だな」


 驚いたものの、即答だった。そばをすすりながら目を閉じていた。何だか魔界の住人ということを忘れそうな光景である。リアちゃんも賢明に箸を動かしていた。


「今回囮としては使う必要がない。向こうから誘ってやがるからな。だいたいお前が来ても邪魔になるだけだ」

「確かに……そうだけど」


 邪魔になると言われれば本当にそうでしかない。でも退くわけにはいかない。友達が巻き込まれたこと、私が行かなきゃいけないこと、私に来るようにとも言われたことをギルに話した。


「そりゃ大変だな。だが俺には関係がない。囮にならない以上紗希を連れていくメリットがねぇんだ」

「む……」


 断固として意見を変えようとしないギルを見据える。頑固なギルの気を変えないといけないらしい。


「ギルは自信がないから。勝つのも紗希を守るのも」


 ギルと睨み合うような空間のなか、リアちゃんが口を開いた。


「あぁ? 今なんつった?」

「負けるかもと思ってるからでしょ? じゃなきゃ紗希を連れていっても支障はないもの」


 明らかな敵意に似たものを発し、リアちゃんを睨みつけるギル。一触即発の状態だった。


「上等だよ。紗希もついてきても構わねぇ」

「ほんと?」

「その代わり邪魔だけはすんな」

「……ぅ」

「何でそこで口ごもるんだお前は」


 そう言われても、出来る自信はあまりなかったりする。


「ギ、ギルが無傷で勝つなら大丈夫」


 そう言うと、予想外だったのかギルは驚いた。そしてさっきまでとは一変する。


「当たり前だ、んなこと」


 害していた気分は吹き飛んだように無くなっていた。現れたのは、照れているのか微妙に顔をそらすギル。ギルにもリアちゃんにも気付かれないように私は顔を緩ませていた。


 ご飯を平らげたあとは、お父さんたちが帰ってきてもいいように三人とも私の部屋にいる。

 そして、我ながら遅いけどようやく気付いた。以前やられたギルの傷が癒えていたのだ。相変わらず人間とは違う回復力だと思う。


「治ったの?」

「あぁ、医者に見せた」


 疑問を口にすると、返ってきたのは単調の言葉。医者に見せたらしいのだが。……医者?


「医者って、人間に見せたの?」

「いや違う。魔界にも一応医者はいるんだよ。そいつにな」


 それは初耳だった。行ったことはもちろんないのだけれど、何となく殺伐としたものを想像していたから、お医者さんの存在は正直意外だった。

 ベッドに座る私の膝の上で、黒猫姿のリアちゃんが怪訝そうな声をあげた。


「医者って……まさか」

「あぁ、そのまさかだな」


 ギルだけじゃなくリアちゃんも知っているみたいだ。でも、けっこう苦手なのか。二人とも渋い顔をしていた。


「よく分かんないけど、だから治ったの?」

「あいつは腕だけは確かだからな」


 気のせいか腕だけと強調したように思える。少し気になるけれど、今は優子の方が心配だった。


「大丈夫。きっと助けるから」


 心を読まれたのかリアちゃんがそう微笑みかけるように言った。


「うん……。ありがとう」


 それが今はとても力強く思えて、とても心強かった。


 早いほうがいいと、私を含め三人とも意見が一致したため今から赴くことになった。


 ただその前に、私には一つやることがある。事情は話さないでと十分に念を推して、加奈にアリバイの証人を求めた。もちろんお母さんたちを誤魔化すためである。本当のことを濁しながらであるのと、優子が行方知らずになったことで、加奈は拒否した。仕方ないとは思う。


「紗希何考えてるのよ! 私はそんなの絶対承諾しないから!」


 電話越しだというのに、感情を剥き出しにして、怒ってる顔が浮かぶようだった。


「せめて理由を言って!」


 私は少し迷った結果、答えることにした。


「優子のことと関係があるの」

「……そう。なら余計に認めない」

「……私の、せいかもしれないと言っても?」


 電話の向こうで息を呑むのが感じ取れた。そして恐る恐ると言った風に言葉を紡ぐ。


「……それ、本当なの?」

「多分」

「……どうして、そうなるのよ」


 そこから先は言えない。何も言えない。黙ったままでいると、加奈が話し始める。


「もしね、私が認めないとしても、紗希は構わず何かするんだよね」

「えっと……多分」

「ううん、絶対そう。紗希ってここぞって時は頑固だもんね」


 そう言われても自覚はないから、自分ではいまいち分からない。


「約束して。必ず、ちゃんと無事に戻ってくるって」

「……約束するよ」

「分かった……。それなら、あとはまかせて。約束破ったら、絶対許さないからね」

「うん。分かってる」


 何とか加奈に了承してもらった。詳しい事情も話せなかったけど、守れるか分からない約束だったけど。いつか、正直に話せる日が来たら。その時は話すから。

 ありがとうとだけ言って、私はそっと電話を切る。


「行くか」

「うん」

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