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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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2:異変Ⅴ

 ビクッと体を震わせる。静まり返った家の中で響いている。


「来たのかな」


 出来ればこのまま出ずに関わらないでいたい。でも、優子を助けたい一心でリビングに向かう。鳴り続ける電話を前に少し戸惑ってしまうが、意を決して受話器に手を伸ばした。

 後ろにはリアちゃんが居てくれている。大丈夫だと自分に言い聞かせ、私は声を発した。


「……もしもし?」

「紗希? 出るの遅いじゃない」


 ……。拍子抜けした。へなへなとその場にへたり込む。後ろでリアちゃんは呆気にとられてた。電話の相手はお母さんだった。


「今日もちょっと遅くなりそうだから。冷蔵庫におかずあるからそれ食べて。あと、洗濯物もお願いね」

「うん。わかった」


 いつもと同じ様に振る舞って電話を終える。高鳴った鼓動が無駄に思える。全くもって心臓に悪い。


「ひぅっ!?」


 すると、今度は二階のほうから物音が聞こえてきた。気のせいとは思えない大きな音がして自分でも奇妙な声を出したと思う。


「来た」


 と、リアちゃんが呟く。リアちゃんも緊張しているのか、冷淡な呟きだった。

 階段を上る前に、リアちゃんによるアドバイスから、慣れない武装をする。護身用のために手にオタマを持った。自分でもこれはどうなのかと疑問を持つが、あまりに即興すぎたためや、リアちゃんがないよりはマシだし十分だと言うためとりあえず良しとしよう。


 やっとの思いで階段を上る。二階の床が見え始めて分かった。どうやら物音や気配の元は私の部屋かららしい。やっぱり私を狙ったのかも。


「紗希。部屋の外に誘き寄せるからトドメ差して」

「え、えぇ!?」


 部屋の何かには聞こえないように小声で驚く。私がやるの?


「それはちょっと……」


 無理なんじゃないかなぁと続くはずだったところで、リアちゃんは迷うことなく部屋のドアをノックする。


「出てきた瞬間」


 不意打ちを狙うらしい。心の準備がいるのだけど、早くもドアのノブが回された。


「えいっ!」


 振りかぶって上から下に落とす。それからは何も起きない。私はおそるおそる目を開いた。


「え!? ギル!??」

「何やってんだ?」

「むぅ」


 そこにはギルがいた。私の振ったオタマを見事に掴み避わしていた。幸い怒ってはいないようだ。もし怒ってたらすぐさまアイアンクローが飛んでくる気がする。


「腕試しか?」


 けど代わりに不思議で仕方ないらしく、素朴な疑問を投げつけてくる。私の返事を待っているようだけど、まさかメリーの類と間違えたとは言えない。


「……えと、そんなとこ。かな」


 仕方なく、ギルが言ってくれた考えに便乗することにした。自分が何やっているのか改めて考えると多分滑稽で顔が熱くなる。


「紗希には向いてねぇんだからおとなしくしとけよ。あと腹減った」

「まぁ、私もまだだからいいけど」


 遅めの夕食を支度しようと下に降りようとする。そして、ジャンプしてきた黒猫姿のリアちゃんを胸に抱く。


「リアちゃん。本当は分かっててやらせたでしょ」


 オタマを振り下ろした時、むぅと唸っていたのを聞き逃さなかった。多分だけど、ギルと知ってて狙ったんじゃないかと思う。確かにギルとは仲が良くないけど。


「まさか。気付かなかった」

「むぅ……」


 今度は私が唸る番だ。あまりにしれっと言うもんだから、明らかに嘘ではある。けどここまでとなると、これはこれで問題だった。



 手早くでいいと、珍しく妥協するギルに従って、そばでも作る。本当に手抜きだった。


「そういや、さっき来てたぜ。こんなのが」


 そばを前にして、ギルが何かを取り出す。封がされた手紙のようだ。丁寧に閉じてあったが、紙自体は薄汚れていた。閉じてあったものの、一度開けてまた閉じたのだろう。


「中身は招待状だ。誰からかは……分かるな?」

「メリー……」

「差出人はな。使い魔がここまで持ってきてた。一応殺したがそれはどうでもいい。要は誘い込む準備が出来たってことだろうよ」


 本当に招待状が来た。ギルから受け取って、リアちゃんと一緒に確認する。


『拝啓 薫風の候

このたび私達の屋敷でささやかな小宴を開くことになりました。つきましては紗希様にご臨席賜りますようご案内申し上げます。


是非付き添いの方もご参加お願いします。


メインゲストは貴方様方ですから』


 随分と凝った文章だ。その後は、屋敷への行き先が記されていた。電車か車が必要になる距離だ。多少山を登ることになりそうだった。


 ギルは読み終えたであろうことを見計らって口にする。


「今回紗希は気にする必要はねぇ。俺一人で……」

「私も、連れてって」


 ギルの言葉を遮るように言った私の言葉に、ギルは酷く驚いた表情を見せた。

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