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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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2:異変Ⅳ

 それが昨日。そして今日。優子が帰っていないとだけ知っている加奈は気にしていたことだと思う。無闇に騒がれないように場所も選んだのだ。でも、話すわけにはいかない。これ以上巻き込むわけにはいかなかった。


「ごめん。何も……」

「そっか。別に紗希が悪いわけじゃないんだし、謝らなくてもいいじゃない」


 そうじゃない。私が巻き込んだんだ。謝っても謝りきれないと思うけど、今はどうしようもなかった。話せない代わりに私はまた謝った。

「ごめん……」

「……ふぅ。もう、紗希がそんな元気なくしたら、悪い方にしか考えられなくなるでしょ」


 そう言って加奈は励ましてくる。加奈は、やっぱり強かった。


 チャイムが鳴ってしまったのを合図に、私達はトイレから出て教室に向かう。担任の先生がまだ来てないこともあり、遅刻扱いにはならなかった。原因はおそらく分かってる。

 五分くらい経った後、担任が顔を出してクラスに報告した。井上が昨日家に帰ってないそうだ。と。

 皆、信じられないといった風の反応を示す。少しでも優子を知っていれば、連絡なしに家に帰らない娘かどうか分かるはずだった。それは、去年から優子を知っているらしい担任も一緒のようで、もし連絡があったらすぐ教えてほしいということでホームルームが終わった。


「神崎何か知ってるか?」と、庵藤が尋ねてくる。

「……ううん。何も」


 私はそうとしか答えられない。庵藤は少し黙ったあとに言った。


「そっか。あぁ、一限は移動教室だな」


 それ以上は何も言わなかった。


「サキリ~ン! ゆうゆうどうしたの? 何か知ってる?」


 今度はいつもの様に、狭山が絡んできた。相変わらず妙ちくりんな名前で人のことを呼んでいる。けど、わざわざ指摘する気分じゃなかった。


「ううん、知らない」

「あ……。え、えっと……そんなに落ち込まなくても、多分すぐに……もがっ」


 奇妙な声をあげたので顔を上げてみる。すると、庵藤に片手で口を抑えられていた。


「いいから一人にしとけ。お前はまたいらんこと言うからな」


 と、掴んだまま教室の端まで引っ張っていった。多分、狭山の席に向かったのだろう。

 他にもクラスの娘たちが来た。励ましてくれてるのだと思う。そんなに私は顔に出ているのだろうか。


「ありがと……ごめんね」


 お礼を言って、やっぱり私は謝った。そして移動教室に向かった。



 授業なんか頭に入らず、時間だけが過ぎる。放課後を迎え帰宅した。部屋に入ると、リアちゃんがベットに腰を下ろして待ち構えていた。


「おかえり紗希。さっそくだけど、そろそろ説明して欲しい」


 私は少し後ずさった。いつもと違う雰囲気。殺気こそないが、それに片寄る殺伐としたものがあった。


「朝から何かおかしいから。何かあったよね?」


 見通されてる。学校の皆にもそうだし、リアちゃんにも。そんなに、分かっちゃうもんなのかな。


「別に何にもないよ」

「嘘。ならどうしてそんなに泣きそうな顔してるの?」

「……っ!?」


 まいった。朝からそうだったのかもしれない。これじゃあ、誰も誤魔化せるはずがなかった。


「紗希。私になら言えるよね。それとも私じゃ駄目? 言って。力になるから」


 何かが弾けそうになる。心の中で蓋していたものが、今になってこらえられなくなった。けっこうきつかったんだと今になって思う。私は、駆け寄ってリアちゃんに抱きついた。


「うぁ、あぁあ……っああぁ、あああぁぁぁ……」


 何も言わない。そのままベッドに倒れそうになるけど、リアちゃんが踏みとどまってくれる。自然におさまるまで、リアちゃんは待ってくれた。



 何とか気を落ち付けた後、私は一通り話した。不思議と肩の荷が下りたように、心が軽くなる。そんな気が、少しだけしたのだ。一段落すると、リアちゃんが口を開く。


「そう。なら、今夜にでも来るかも」


 と、リアちゃんが先読みした。本当に来るかどうかはもちろん分からない。でも、可能性はかなり高いとのことだ。


「わざわざ出向いて敵情視察。出直すとなった途端、紗希の友達を拐った。次への行動が早過ぎる。きっとせっかちな性格なんだと思う」


 というのが根拠らしい。言われてみればそうなのかもしれない。今夜にでも来るのだろうか。そう言われると、自分の部屋とはいえ身構えしてしまう。

 今日もまた両親は遅い。けどかえって好都合だった。

 電話が叫ぶように鳴る。携帯ではなく、家の電話にかかってきていた。

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