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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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1:つかの間の休息XⅡ

「紗希!」


 と、私を呼ぶのは黒猫姿のリアちゃんだった。タッと軽やかに着地した。呼吸が激しく、多少怪我をしている。


「ど、どうしたのそれ」

「え、何でもないけど。紗希の方こそ無事?」

「大丈夫。この通り何ともないよ」


 笑ってみせて、本当に何でもないと表現する。それで安心したのか、リアちゃんはフゥと息をつく。


「ごめん。結界とか、操られた人間とかに邪魔されて遅れた」


 そして、今度は申し訳なさそうに謝罪した。


「うん。ありがと」


 刻まれた傷が物語っている。必死になってくれたんだと分かる。しっかりとそれは伝わってきた。

 すると、周りに倒れている人が次第に起き始める。ギルが倒した人たちだ。


「あ、れ……?」


 皆呆けるだけだった。記憶が錯乱してるのか、どうしてこんなところで倒れているのか分からない様子だ。それでも意識を取り戻し、それ以外特に異常はなさそうで安心する。それに伴ったように、周りの異質な空気も正常に戻ったように感じた。


「薄まった結界も無くなったみたい」

「え、じゃあ全部元通りでいいのかな」

「今回は大丈夫だと思うけど」


 リアちゃんも既に察していた。現れた魔界の住人は、逃げ仰せてしまったこと。そして、いずれまた来るだろうことも。


「あいつは来たの?」

「あいつ……って、ギル? 一応助けてくれて……でも怒って帰っちゃった」


 苦笑いをしてみる。怒ったのは他ならぬ私のせいだからだ。けどリアちゃんには、そんなことはどうでもいいみたい。


「紗希が無事ならいい……ってそれどうしたの?」

「え!?」


 猫姿のリアちゃんを抱いてみると、首の傷のことに気付いたようだ。メリーにナイフを突き付けられた時のものだ。


「あ、ちょっとね」

「痛い? ごめん。私が来てたら」


 自分が来てたら怪我なんかさせなかったのに。という意味らしい。すぐに気付いたり、リアちゃんが本当に心配してくれていることが分かる。嬉しくもあり、少しだけ、何だか逆に申し訳なくも思ってしまう。


「ありがと。これくらい、全然大丈夫だから。そろそろ帰ろうか」

「うん」


 そうしてようやく帰路を辿っていった。ギルも怪我しちゃったけど、減らず口を言ってたくらいだから多分大丈夫だと思う。操られてた人もたいした怪我はない。ギルに殴られた跡が残ってる人は不敏だけど。街も特に壊れることもなく、今回はうまく収拾がついたと思う。


 そう思いたい。


 そう思うことで、私は頭に残ったメリーの言葉を忘れようと努める。とても無視出来そうにない、意味深な言葉だ。


「紗希の方が会いたがるでしょうけど……」


 そして、何故なのかと尋ねて返ってきた答えだ。


「そんなに気にしなくても、早いうちに分かるわ」


 この上なく不吉なものだと、私の警鐘が告げる。これから良くないことが起きると。


「―き、紗希ってば!」

「あ、ごめん。何?」


 気になって考え込んでいたせいか。リアちゃんの呼び掛けに気付いてなかったらしい。


「む……。さっきから呼んでるのに」

「あ、うん。何?」

「何か気にしてるみたいだったから、気にしてもしょうがないって言おうと思って。もしあいつに何か言われたのなら、余計気にする必要はないと思う」

「……うん。そうだね」


 恐らくリアちゃんは、私がギルに何か言われたのだと思ったようだ。実際にはギルではなく、メリーに言われたことではあるが、今のままどれだけ考えても分からない。リアちゃんの言う通り、気にしても仕方がないのは一緒だ。あの夜から、起こる出来事は突然で、考える暇もない。


「さ、お互い手当てしないといけないし、早く帰ろっか」

「ん……」


 そう短く答えて、リアちゃんは体を私の肩に預ける。

大丈夫。何もない。気にしても仕方がないと。私は自分に言い聞かせながら帰路に着いた。


 でも、メリーの言葉の意味が分かるのは、思った以上にすぐのことになる。

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