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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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1:つかの間の休息ⅩⅠ

「っ……!?」


 ふらつく足を何とか制御し、倒れることをギルは拒否した。


「ふは、ははははははははははっ! 処刑人と称される貴方が何をしている。人間の楯になるなど、馬鹿馬鹿しい」

「勘違いすんな。お前ごとき、これくらいハンデがあったほうがちょうどいいんだよ」


 ピクッと、不吉でいて愉快な笑いを止める。勘に触ったらしい。


「ほう……。傲慢な態度もそのへんにしたらどうかね。過信は身を滅ぼすことになる」

「そうかよ。じゃあ、これを見てもまだそう思うか?」


 ドクン――と、鼓動が跳ね上がる。張り詰める空気は、明らかにそれの予兆であった。喉が熱い。身体中の水分が一気に蒸発でもしてしまいそうだと紗希は感じた。分かっている。一度目にしたのだ。紗希は分かってた。ギルの見せた力のいしずえ。全てを呑み込む邪炎だ。ギルはそれを、右腕に纏うように召喚した。


「……!?」


 バマシャフは一転して喉を鳴らす。宙にいるメリーも僅かに後退した。あれがどれだけのものか、ある程度理解したのかもしれない。

 おそらく敵も、これを喰らえば、いやこれに喰われれば、ひとたまりもない。でも、これは使ってはいけない代物だ。


「その技は貴様の体に負担をかけるからな」


 紗希は執行者の言葉を思い出す。ただでさえボロボロの体でこれ以上その技を使うというのか。


「ギル! それは……」

「離れてろ。邪魔だ」


 一向に耳を貸さないギル。でもそれは本人が一番分かっているはずだ。禁じ手であること。そしてこの状況では、無理にでも使役しなければ殺られるであろうことも。


「仕切り直し……ということでどうかね?」


 バマシャフが唐突に提案した。とっさにギルは敵二人を見据える。


「メリー嬢」

「……そうね。えぇ、いいわよ。私は元々、戦うつもりはなかったのだし」


 急にどういうつもりなのか分からない。でもこれは願ってもない提案だと紗希は思った。


「どういう、つもりだ!?」


 けれどギルはそうではないらしい。退くと述べたバマシャフに怒声をあげる。対してバマシャフは冷静に返した。


「なに…。私は殺人快楽者ではないのでね。それだけの技量があるなら、場を改めればさらに楽しめるだろうと思ったまでだ」


 そう告げた頃には、バマシャフもメリーも高く昇る。ギルの跳躍力をもってしても届かない距離にまで到達していた。仮に何かを踏み台にしても、その距離と相手では二人に届かない。


「……」


 引き上げるという提案。否認したい気持ちで一杯のギルも、諦めて黒炎を消した。


「急かずとも、すぐに時期は来ますよ」

「奇術師。てめぇ、必ず殺すからな」


 鋭い殺気に満ちた視線で、バマシャフに宣告する。自分にに向けられたものではないのに、紗希はゾクッと背筋を凍らせた。まだ余裕はあったのかもしれない。

 身が震える言葉の対象であるバマシャフは、実に涼しげに返した。


「ふふ、良い殺意へんじですよ」


「全く、好戦的すぎて嫌になるわ。戦うのはいいけど、殺すのはなしよ。私のものにするんだから」

「まぁ、善処するとしましょう」

「あと紗希もね。次までを楽しみに待っていなさい。と言っても、紗希の方が会いたがるでしょうけど……」

「え……!?」


(私が会いたがる?)


 どういう事なのか。ギルとリリアは別にして、紗希の気持ちは、今も「魔界の住人」には関わりたくないというものだ。自ら進んで関わろうなんて、思うはずがない。

 紅い光も闇に溶け込みそうな暗い空に、人形と奇術師の二人は消えようとする。メリーの勘違いなのかも分からない。あまりに不可解すぎて、次の瞬間、紗希は自分でも驚きつつも尋ねていた。


「待って。それって、どういう意味……?」


 視線だけ振り向かせ、メリーはクスッとイタズラっぽく笑った。


「そんなに気にしなくても、早いうちに分かるわ」


 その言葉を最後に二人は消えた。赤黒い空に取り入るように、ごくごく自然に闇と同化したのである。




§




「……どういう事?」


 呟いてみたが、その問いに答えが出せる者はもういない。いなくなってしまった。


「知るかよ。次殺ればいい」


 きびすを返して、そのままギルは歩いていく。


「ま、待って。手当てするから」

「いらねぇよ。すぐに治る」

「でも……!」


 ボタボタと血は止まっていない。平気そうな顔をしているつもりか知らないけど、ほっとける傷じゃない。何より、せめて手当てくらいしないと私の居心地が悪い。

ギルは何を思ったのか、ピタリと動きを止め、私を見据える。無言で見られると、何か怒っているようなんだけど。ギルはそのまま歩いて近付いてくる。


「な、何よ?」

「お前、また邪魔したよな?」

「え……」


 やっと開かれたギルの言葉で危機を悟る。一難去ってまた一難だ。怒ってる。口元が緩んでるけど、これは間違いなく怒ってる。


「で、でも……それは、ギルが負けそうだったからで……」

「あぁ? 俺が、誰に負けるって?」

「いひゃい、いひゃい。なんへもにゃい……」


 左頬と右頬をつねられる。手加減出来てないから痛くて仕方がない。何か来る。手が来ると分かっていても対処出来ないから困りものだ。


「いいか。次から止めんな。俺は……処刑人だからな」


 そう言って、あっさり飛び去った。大きく跳んで駆けてるだけなのだが、飛んでいるように見えるほど速かった。涙目でそれを眺める。


「むぅ。じゃあ無傷で勝てばいいのに」


 既に居もしない相手に悪態をつく。居ないからこそ出来る発言だ。何より、お互い生きていて口に出来る言葉だった。

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