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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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1:つかの間の休息Ⅸ

「ふ、ふふふふ、あは、あははははは……。決めたわ。貴方も、私のものにしてあげる」


 割れた箇所を抑えつつも、高々に歓喜の声を上げる。その言葉が合図だとでも言うのか、フラフラと、ギルと紗希を取り囲む者が現れた。


「……え!?」


 ギルもまさかとは思ったが、紗希はそれ以上に驚愕したことだろう。魔界の住人の援軍だと思った。が、それは間違いだ。それは考えていたのに比べると、酷く弱い。比べるのが馬鹿らしくなる。それは、紗希と同じ人間だった。


「殺さないかわりに、飼ってたってわけか」

「そうよ。ただ殺すより、こっちのほうが有効的よね」


 周りで急に止まっていた人間も、群がり始める。不安定な動きではあったが、確実に距離を縮める。


「ギ、ギル……!?」


 紗希のところにもゾロゾロと集まってくる。どうすればいいのか混乱し、対処できない紗希は泣きそうな声をあげた。

 ギルはその俊敏さで紗希のもとへと動いた。楯となるように、ギルは紗希の前に立つ。ギルが割り込んで来たとしても、関係なく支配下に置かれる人間たちは向かってきた。


「が、ぁ……!?」


 前に出てきたチンピラ風の男を殴る。操られ、意思を持っていない人間が、初めて奇声めいた声をあげた。普通の人間だったならば、それで終わっただろう。再起不能となり、動くこともままならない。だが、今はメリーの人形だ。すぐにまた、歩み始める。


「効いてねぇのか!」


 バキッと、ギルは手に力を込める。拳を臨戦態勢とあんる。それで紗希は察した。邪魔な者は排除する。ギルが人間を殺そうとしているのか。


「ギルダメ! 殺すのは……」


 紗希はギルの左腕を差し引いて止めに入った。その行動にギルは驚かされる。


「何言ってやがる。殺らなきゃ殺られるかもしれねぇんだぞ」

「で、でも……!?」


 紗希は食い下がらない。その間も、メリーの配下である人間は近付いてくる。


「ち……。分かった。殺さないから離せ。死ぬぞ!」

「う……、ぜ、絶対だからね」


 紗希は半信半疑ではあるが、掴んだギルの腕をゆっくりと解放する。少し緩んだところでギルは駆ける。向かいくる者を躊躇なく殴った。


 ギルは本当に殺さなかった。ただ行動不能にさせることを目的とし、殺気は抑えられている。が、凄まじい動きで、圧倒したのは変わりなかった。


「っ……」


 メリーには優雅と思わせるほど、心に余裕があった。しかし、ギルの怯むことのない戦いを感じ取り、メリーも顔を曇らせ始める。人形とはいえ、表情を伺うことが出来る。


「……!?」

「こんな奴ら殺さなくても、操ってる奴がいるなら、そいつを殺ればいいだけだからな!」


 そしてメリーは瞳孔さえ開いた。それはたった一瞬。ただ一瞬、見逃しただけだ。人間どもを悉く吹き飛ばしたのち、黒き処刑人は瞬間的に此処にいる。地の上で戦っていたギルが、刹那のうちに、空に位置するメリーの目の前にいる。


「……ぁ!」


 勢いにまかせ、首を掴む。寸尺に大きな違いがあり、首元を狙いやすい位置となっていたからだ。メリーはそのまま落下し、地に叩きつける。


「ぐ、ぅ……」

「終わりだ。これ以上人形と遊ぶ趣味はねぇ」


 ギルがメリーを押さえ付けている状態。あとはとどめを刺すだけだ。構えて右腕を突けば良かった。


「……っ!?」


 突然、構えたギルの体が飛ぶ。それは、ギルの意思に関係なく吹き飛ばされた。




「ちっ!」


 あと少しで殺すことが出来た。それを邪魔され、ギルは今まで以上に舌打ちする。地を滑りながら何が起きたのか判断する。感じ取れた邪気を辿り、目線は遥か上に向いていた。遅れてメリーも紗希も、何が起きたのか、つられて目を向けた。


「大丈夫かな、マドモアゼル」


 急に現れた男はそうメリーに告げる。男はスーツを着こなしている。全身黒色で、同色のハットを被り、先の長い靴を履く。銀色の蝶ネクタイが輝いていた。そんな、一目では何者なのか分からない男は、横になっていた。寝転がっているわけはもちろんない。そびえる建物の壁を地とするかのように直立していて、紗希たちから見れば横向きになっているのだ。

 格好も立ち位置も奇妙な男は、手で押さえていたハットを手にとる。


「バ、バマシャフ!?」


 メリーが倒れた身を半分起こしながら、男の名を口にした。


「ご機嫌麗しゅう、メリー嬢。いささかやられているようだがどうしたことか」

「うるさい! 油断しただけよ」

「油断? おかしなことを言う。そんなもの言い訳にもならない。それが私たち魔界の、絶対のルールだったはずだが?」

「……っ!?」


 メリーは二の句を告げないでいた。ただ噛み締めるだけで大人しくなってしまう。


「お前……!」


 今度はギルが驚く番であった。存在は知り得ていたのか、ギルは信じられないといった風だ。


「ふふ。こうして黒に会えるとは……。今日は中々運が良い。しかも、もう一人美しいお嬢さんがいるとはね」


 そう言って、切り揃えた口髭の男は紗希に顔を向ける。フッと失笑したあと、バマシャフはスタスタと降りてくる。普通に歩いているのだが、横向きに直立で歩いている。紗希にとっては、異様としか思えない光景だった。

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