表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
63/271

1:つかの間の休息Ⅷ

 ふふっと笑いを溢したあと、メリーはフワリと身を浮かばせた。そしてスカートの端を両手でつまむ。時が静止した異常な街並みの中、メリーは深くお辞儀をした。礼儀正しく振る舞った姿は、まるで高貴な人間だった。


「光栄ね。私を知っているなんて。まさか手のうちまでご存知なのかしら」

「いや。所詮魔界で飛び交うもんだ。手のうちを晒しているくらいなら、お前はとっくに死んでるはずだからな。知ってるのは、人形という姿形と、消し去るということだけだ」


 相手の力量も分からない。それは知っているよりも、明らかに分が悪い。そのはずなのに、ギルは笑っている。余裕だと叩き付けているようだ。一方、メリーも笑みを絶やすことがない。もしかしたらメリーは、ギルの力量を知っているのかもしれない。あの黒い炎のことも。


「ふぅん。それは良かったわ。まだまだ殺されるなんてまっぴら。もちろん殺すことも嫌だけど」

「珍しい奴だな。自分以外の敵を搾取することを楽しむ奴が大半だというのにな」

「そうね。野蛮なものたちが多くて困るわ。処刑人の貴方はどっちかしらね」


 口元に手をもってきて上品に笑いを溢す。愉快に笑っているその姿だけでは、悪意は感じられない。殺すつもりがないなら、何をしに来たんだろう。


「殺すのが目的じゃないなら、何しに来た?」


 ギルも同じ疑問を持っていたらしい。依然両手とも、ズボンのポケットに手を入れたままで、余裕を見せてはいたが、気にくわなさそうだ。メリーはそれにしれっと答えた。


「別の目的のため。今回はそのための敵情視察ってやつかしら。騒がれている紗希って人間と、処刑人に会いにね」

「つまり戦う気はないってことか」

「そうね。今回はこのまま帰り……」


 メリーが言い終わらない内に、ギルが消える。


「このまま逃がすと思うのかよ」

「……!?」




§




 ギルは背後から仕掛ける。首を狙った。が、貫いた手は空中をさ迷っただけだった。ギルが外したのだ。


「なんて好戦的。少しは落ち着いたら?」


 メリーは、見上げるほどの高さにまで浮上していた。手にはピンクの傘が握られている。メリーの大きさに合わせた小さい傘だ。柄が長いのと対比して、布の部分はさらに小さい。雨をしのぐものではなく、強い日射しを遮るものだろう。


「ふふっ、それともご希望通り遊んであげようかしら」


 メリーがパチンと指を鳴らした。すると、空に光がいくつか見えた。紗希は何なのか、目を細めて確かようとする。徐々にそれは、はっきりと見え始める。


「……!?」


 降ってきたのは雨でもなければ、雪でもない。刃物だ。各種それぞれ形が違う。槍のように長いものもあれば、ナイフのようなものもある。


(1、2、3、4、5……13か)


 それらを正確に確認し、剣の標的となっているギルは避わす。12本を正確に避わし切る。最後の長い剣は、避けて安全を図ったあと、手中に納めて大きく上から下に振り下ろす。地面で叩き折った。そして空にいるメリーに笑いかけた。


「終わりか?」

「素敵。でも貴方の攻撃は私には届かない。勝てるわけ……」


 ギルは登りつめる。地を蹴った跳躍力でも相当なものだが、メリーはさらに上にいた。ギルは電灯を踏み台にさらに跳ぶ。


「誰が、届かないだと?」


 メリーの高さを超え、上からの攻撃。伸ばした腕をなぎ払う。


「危ないじゃない。まともに受けることは無理そうね」

「ちっ……」


 高度を下げることでメリーは攻撃を避けていた。そのままある程度まで急行下し、落下するギルに急上昇して襲う。もちろんギルも大勢を整える。落下のスピードを味方につけて構えた。交わった瞬間、ギルの体勢が崩れた。


「ギル!?」


 紗希が叫ぶ。安否を確かめようとたまらず落下点に近付いた。ギルは最低限の体勢を保ち、足で着地する。が、胸には斬りつけられた痕がはっきりと現れていた。


「だ……大丈夫……?」

「バカみたい。飛行できる私に空中戦で勝てるわけ……」


 そう感想を漏らすメリーの言葉が途切れた。どうしたというのか、動きが止まったのだ。


「うそ……」


 やっと開いた口で呟いた。概要は、メリーがギルに向き直したとき、紗希にも理解出来た。顔の頬あたりに、切り傷があった。いや切り傷と呼べるものではない。割れたような感じで、血は流れていない。


「おしいな。かすった程度か」


 受けた傷は、比べるまでもなくギルの方が重い。だが、強がりなのかは定かではないが、ギルのほうが優勢のような物言いだ。


「……甘く見すぎていたかしら。まさか私が傷をつけられる、なんて!?」


 先ほどまでの余裕の笑みが失せていた。目をつけた人間である紗希が、逃げるなんてことがないように、最低限の注意は配っていた。しかし、それも今は無くなった。

 メリーは牙を向けた処刑人を視界に留め、大きく見開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ