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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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1:つかの間の休息Ⅵ

「えぇ?」


 優子と同時に驚きの声をあげてしまった。英語ならまだしも、いや英語でも私は多分読まない。なのに、フランス語の本を読んだというのか。


「そ、そんなに驚かなくても。そんなに私が本を読むのが珍しい?」


 少したじろいだ後、加奈はむぅと顔をしかめていた。


「いやそっちじゃなくて、加奈ってフランス語読めるの?」

「えっとまぁ、少しなら……」

「ふはぁ~」


 優子と共に感嘆した声を漏らす。加奈が頭が良いのは知ってた。特に英語なんてめっぽう強い。困った箇所が浮上してきたら、優子も私も加奈を頼るくらいだ。まさかフランス語も解読できるなんて……。こんな身近に天才がいたとは。


「……て、天才は言い過ぎじゃない?」


 こっちのほうが珍しかった。赤くほてる頬を掻いて、視線を外していた。明らかに照れている。唐突に、パシャッという音が鳴った。まるでカメラのシャッター音である。いやまさにそれだった。


「……!?」

「加奈の珍しい照れてる顔収納~」


 優子が携帯を片手に笑っていた。携帯のカメラでさっきの加奈を撮ったことは一目瞭然だ。


「な、ちょっ、消しなさいよそれ」


 加奈は慌てて優子の携帯に手を伸ばす。優子も俊敏な加奈の手の動きに慌てて、携帯を懐で守った。


「ダメだよ。ベストショットだし。ね、紗希」

「まぁ、確かにベストだったしね~」

「紗希がそんなこと言うなんて」


 何故かショックを受けていた。今日の加奈は少し面白いかも。


「加奈も反応可愛いよね」


 なんて、携帯に撮ったピクチャを見ながら言ってみる。


「むぐ……」


 と加奈は唸っていた。



 本屋を出た後は目的を失ってしまう。


「どうしようか」


 と、歩きながら相談する。再び服屋に行こうと案が出されたが、私は却下した。当然である。


「あ、そういえば猫はどうしてる?」


 優子がふと尋ねる。動物好きの彼女としては、けっこう気にかけていたのかもしれない。


「う~ん、朝の時は寝てるみたいだったけど」


 さすがにもう起きてるだろうと思う。もしかしたら冊子のついた窓から外に出ているかもしれない。


「じゃあ今から紗希の家に行こっか。あの子がどんな調子か気になるし」

「う~ん、そうね」


 加奈も同意を示す。


「でも今はいないと思うけど。すぐ外出する子だから。また帰ってくるけど」


 ということにしておこう。


「やっぱ外のほうがいいのかなぁ。猫は家にいるものだとばかり思ってたけど」


 優子が空を仰いで思索している。その横で加奈が応えた。


「元野良だったから、自由の良さを知ってるのかもね。でも久々に紗希の家に行ってみたいかな」

「そんな久々だっけ。二週間前くらいにも来たんじゃない?」

「それは十分久々ですよ紗希さん。紗希さんの家は飽きないですからねぇ」


 妙な敬語混じりで優子が言う。にやりと口元を緩ませながら。飽きないってのは素直に喜んでいいのか、何とも分からない。


「……むぅ」

「じゃ目的地も決まったし行こうか」

「あぁいや、やっぱそれは……」


 と、危うくに流されそうになったところをなんとか押しとどめた。考えれば、神出鬼没なギルが家にいるかもしれないし、途中から来るかもしれない。


「え、何で?」

「部屋がちょっと片付けないといけないことになってるから」

「ふ~ん、私は気にしないけど。むしろ荒らしたいし」


 こ、この娘は……。さっきの可愛い反応は何処行ったのか。加奈はサラッととんでもないことを言う。


「私も気にしないけど」


 と優子も同調していた。けど、私の都合上そうはいかないのだ。仕方なく代替案を提示してみる。


「んじゃ代わりにカラオケでもどう?」

「え? 今から?」


 加奈が驚く。意外だったのかもしれない。


「今からでも歌えるって。久々でしょ」

「賛成」と優子。

「ここから遠いのに?」

「あ、えっと、最近近くにできたみたい」


 優子が携帯を見ながら検索していた。この行動力は見習うところだと思う。それを聞くと、加奈も了承してくれたようだ。


「そうなの? ならまぁいいかな」


 本当に久々だと思う。カラオケもそうだけど、ふと今日を振り返って思った。今までの日常に、まだ私がいることを実感出来た気がしたのだ。


 歩いてみて十分ほど経った頃、カラオケに行き着いた。新しくできただけあってか、けっこう大きい。いつの間にかここにもあったのかと思うほどだ。一階に雑貨屋、二階にカラオケという造りになっていて、私達は階段を登り始める。上がってみると、カウンターが見えた。中は外から見たよりもさらに大きく思えた。奥行きの分が加算されたとみる。キョロキョロと私が見回している間に、加奈は慣れたように店員に声をかけていた。


「加奈って来たことあるの?」

「ここはないわよ。けどどこも一緒だしね」


 堂々とした立ち振る舞いに感嘆する。私は慣れたところでないと、こうはいかないと思う。


「あれ、優子は?」

「え? さぁ……」


 気付いた頃には、優子が何処かに消えていた。

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