1:つかの間の休息Ⅴ
レストランをあとにした私たちは、延びに延びた、本来のメインに移行する。優子は音楽CDを、加奈は本を希望とのことだ。
「まずはCDに買いに」
「最初は本屋。本屋の方が近いわよ」
「え~?」
しかし、何故かどっちを先に行くかで揉めていた。正直私はどっちからでもいいんだけど。
「近いって、そんなに変わらないと思うんだけど」
「多少の違いでも、近いほうを優先するほうが合理的なの」
「む、むぅ……。そんなの関係ないよ。私は買いたいもの決めてるからすぐに終わるし」
「私だって決めてるもの。早いのは私も同じ」
先程までのチームワークは何処へ行ったのか謎だった。一向に話が先に進みそうもない。仕方ないと私は二人をなだめることにした。
「まぁまぁ、ここはジャンケンでもして」
二人の間に割り込んだのがいけなかったのか、優子は同意を求めてきた。
「むぅ、紗希もそう思うよね」
「え、え~と……」
「紗希も本屋でしょ」
どうやら私に意見が託されたようだ。適当にどちらかを言えばいい。なんて安易なことはなかった。優子が訴える。
「CD屋って紗希なら言ってくれるよね。言わなかったら笑い死にの刑」
そ、そんな。また加奈の目は訴えていた。
「紗希も本屋でしょ。違うとか言ったら、紗希の恥ずかしい秘密バラすわよ」
……ひ、秘密って何?
いつの間に握られてたの?
いやいや、そんな秘密はない。多分。
「りょ、両方あるとこに行けば……」
本とCDが一緒に売っている店に行けばと私は提案する。優子はなるほどと。加奈はまぁいいけど。と妥協してくれた。笑い死にの刑もなく、秘密も守れて息をつく。そんな秘密ないと思うんだけど。
両方置いてあるとこに行き着く。ここはどちらかと言えば、本がメインである。つまりは、音楽CDも売っている本屋が正しい。入り口から見て、左に行けば一階の、雑誌や小説や難しい本等がおいてあるコーナーとなっている。真っ直ぐ行けばエスカレーターに乗ることになる。二階が漫画コミックスと音楽CDのコーナーとなっていた。
「先に本見に行くわよ」
「先にCDだよね」
「えぇ!?」
入ってすぐ、エスカレーターの前でまた意見が分かれた。
「紗希はどっち?」
さらにはまた私に意見が託される。にこやかな二人の笑顔が、先程の暗示を思わせる。
「りょ、両方いけば……」
「どうやって?」
はうぅ。加奈が買いたい本は、一階にあるらしい。どうやら両方は階が違うから無理のようだった。どうしようかと悩む。悩んで悩んで悩んだ。
「え~と、え~と……」
頭を抱えて、混乱する。
「あはは、紗希もさすがにお手上げみたいだし、ジャンケンで決めよっか」
「まあ、私は別に二階が先でもいいけどね」
「え……」
初めてからかわれていることがわかった。これはもう怒るしかないと思う。
「あ、あのね!」
「じゃ二階から行こっか」
「紗希どうしたの?」
何事もなかったようにあっけらかんと尋ねてきた。あっけなく怒気が削がれる。素の表情で訊いてくる優子には釈然としないが、無理に怒ることもない。
「別に、何でもない」
そっけなく、優子よりも先に二階へ向かった。
優子が決めてあったというのは、今人気ある男性グループのシングルだった。それも最近出たばっかりの新作だ。
「へ~、もう出したんだ」
私も知ってる。このグループは今人気上昇中のアーティストだ。老若を問わない女性に人気があり、特に、女子学生くらいに人気らしい。まぁもちろん私も興味はあるわけで、アルバムも持っている。
「紗希も買うの?」
「え、いや今日はいいかな。今月厳しいし」
「今度貸したげるね」
「うん、ありがとう」
そして今度は一階へと戻る。加奈が求める本があるか散策するのだ。いったいどんな本だろうか。そう思索した後、加奈に聞いてみた。
「それでどんな本なの?」
「恋愛小説だけど?」
加奈は何気なく答える。訊いてみて意外だった。加奈が言う本は、私や優子も読めそうな小説だった。
「でもそれ知らないけど」
あっさり見つけてしまったのだけど、全然見たことなものだ。随分古いのか、表紙などを見ても、最近のではないことがすぐに分かる。優子も知らないようだった。
「まぁけっこう古いかもね。図書室にもあったくらいだし」
「え? それじゃあ借りたほうがいいんじゃないの?」
疑問に思った私は訊いていた。それとも借りるだけには収まらないほど、面白いのだろうか。
「面白いといえば面白いわよ。図書室でちょっとだけ読んでみたけど。でも図書室にあったのは、フランス語で書いてあったし」