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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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1:つかの間の休息Ⅲ

「あ、来たよ」


 もう既に、二人は待ち合わせにしていた駅前の時計塔の下に来ていて、ここだと手を振って示してくれていた。


「ふぅ。危なかった」


 遅刻ではないけれど、余裕があったわけじゃなかった。ギリギリセーフってところだ。だから加奈の一言には驚いた。


「紗希、五分遅刻」


 白のインナーに紺の襟付きシャツ。下は薄めのジーンズと、シンプルながらも大人っぽい雰囲気の加奈に、ビシっと指差しで注意されてしまう。


「え、えぇ!」

「あはは。うそうそ。加奈がからかってるだけだよ。正確には二分前」


 優子が手をヒラヒラさせて撤回する。薄いグレーのインナー。クリーム色のパーカーに短パンと、今日も優子は、動きやすさ優先と見える。


「もぅ加奈。心臓に悪い」

「だって、コロコロ表情変わる紗希って可愛いもの」


 加奈の一言に少しながら顔が紅潮してしまう。


「赤くなる紗希も可愛い」

「も、もう。からかわないでよ」

「あはは。ごめんごめん。んじゃ行こうか」

「最初はどこ行く?」


 具体的にまだ決めていなかったはずだから、何気無い一言だと思う。けど、優子と加奈はもう決めていたようだった。


「それはもちろん……」


 二人の息はピッタリだ。でもまぁ、それぞれ違う場所を示すだろうと思っていた。


「紗希ちゃん改造計画~♪」


 あれ、最後までピッタリだ。まぁ私は決めてなかったし、多数決的にみても二人に賛同し……ん?


「……え? 今なんて?」

「だから、まずは可愛い紗希ちゃんををもっと可愛くするの」


 実に楽しげに優子が語る。しかも何で今日に限ってちゃん付けなんだろう。


「ね~」


 二人してね~って合わせてる。妙にテンションが高い。


「いやでも、ほら今日は二人とも買いたいものあるって言ってたじゃない。ね」

「もちろん買うよ。でもやっぱこれが今日のメインだし」

「え、いつ?」


 いつからそんなのがメインイベントに。全く聞いてないんだけど。


「紗希に行ったら来ないかもしれないから黙っておいたの」


 嬉々として語る優子。そりゃ来ないよ。玩具にされるの分かってるし。


「んじゃ出発~」

「ちょ、ちょっと待って」


 抜群な二人のチームワークを前に為す術もなく、ズルズルと連れてかれてしまった。




「ねぇ、あのさ。服返してほしいんだけど」


 カーテン越しに私は小声で頼んでみる。


「ダ~メ。まずはそれを着てくれないと」


 全国に店舗がある、規模の大きめな服屋に入ると、文字通りにすぐさま更衣室に放り込まれたのだ。あっさり服を脱がされ、更衣室から出るに出られない状態だ。仕方なく、二人が持ってくる服を着る羽目になった。


「こんなヒラヒラなの、私着たことないんだけど」


 着替え終わって二人を呼ぶ。二人が最初に持ってきた服は、よく見つけたものだと感心出来た。妙にスースーして、肌をくすぐる。ヒラヒラしたワンピースに似たような服だ。色はピンクがメインで、こんなのを着ていると明らかに目立ってしまうと思う。


「うん。可愛い。あ、でもこの服ならツインテールにした方がいいかもね」


 そう言って加奈は、実に慣れた手つきで私の髪でツインテールを作っていく。ツインテールって……。


「あ、確かに」


 優子が感心したように頷く。うぅ……。こんなの恥ずかしいよ。


「次着たんだけど」


 半ば諦めと開き直りが混じってくる。


「元気なスポーツ少女っぽくしてみました」


 優子が得意気に言う。今度は動きやすい袖のないシャツに、短いジーンズの半ズボン。まではまだいいんだけど、シャツが小さすぎてお腹が見えてしまう。


「ちょっとこれ小さいんだけど」

「それそういう服だから。おへそを見せるのがポイントだからね」

「……」


 は、恥ずかしすぎる。なんとか見えないように引っ張ってみるけど、到底届きそうにない。


「ポニーテールのにしたほうがもっといいかも」


 加奈は批評家になったつもりか、じっくりと見定めしていた。そして私の髪はまた手際良く、後ろ髪を括られてしまう。


「ねぇ、もうそろそろこれで終わりに……ってあれ? 二人ともどうしたの?」


 何回か似たような着替えが続く。私が更衣室のカーテンの奥から顔を出すと、優子も加奈も頭を腕を組んで、何やら考え込んでいた。


「いや~。紗希が可愛すぎて、何か自分の女の子としてのプライドが……」

「そうね。なんかもうズタズタというか……、紗希の可愛さが憎いというかね」


 えぇ……!?

 ここまでやらせて私にどうしろと!?



 結局のところ、無難にカジュアル服だけ買ったのだ。時計を見れば、まだ二時間ほどしか立っていないものの、私はもう既にクタクタであった。


「それじゃ次はあれ行こうか」


 加奈が指差す方向を見てみる。……あ、あれは下着専門店!?


「え、ちょ、嘘でしょ」

「久々だからとことん行かないとね」

「いや、今日はもうちょっと……」


 やばい。この調子でいかれると正直たまったものじゃなかった。自分の行く末に身の危険を感じさせる。けど、二人の暴走はピークに達していたようだ。


「紗希早く」

「ほらほら」


 加奈がにこやかに私の右手を引いていく。反対の左手は優子が引いていた。


 はぁぅぁあ……。

 助けを呼ぶ声は虚しく響く。悲しくも、それは誰にも届かなかったようだ。

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