表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
56/271

1:つかの間の休息

 夜も更けてきて、そろそろ睡眠に入ろうかという時間。なのに、私の部屋はまだ眠る気配が全く漂わない。

黙々とギルとリアちゃんは私の漫画を読んでいた。両親ともども既に帰ってきてるから、静かにしているのはこの上なく有り難い。だけど、時刻はもう一時を過ぎている。


「そろそろ寝たいんだけど……」


 私は訴えた。寝る準備はもう出来ていて、ベッドの上に座り込む。


「あぁ……」


 ギルは空返事で返す。まるで聞いてなかった。気が抜けているのかゴロンと横に寝転がっている。数日前の死闘による負傷は、ギルもリアちゃんもすっかり傷が癒えていた。今ではこうやって、のほほんと過ごしている。


「ギルがいたら寝にくいし」


 外見、ギルは私と年齢の変わらないように見える。どうしてもその意識は拭えない。同年代の男の子のいる場所で普通に寝るなんてのは、どうしても抵抗がある。


「じゃあ私も寝る」


 興味深々に漫画を読んでいたはずのリアちゃんが、そう言って、ベッドに潜り込む。布団の中に入ろうとしていた。

「って、一緒に寝るの?」

「ダメかな……」


 トロンとした上目遣いで懇願する。今にもバタッと倒れそうな、幼い少女を追い出すのは気が引けた。というか可愛いから問題ない。

 あれ?

 外見はそうだけど、実際はどうだろう。魔界の住人ということを考えると分からない。


「そういえばリアちゃんって何歳?」

「え?」


 一瞬だけ目を開いて、唐突な私の質問に驚いたが、すぐに目をショボショボさせた。


「むぅ。女の子にそんなことは聞いちゃ駄目。紗希も嫌でしょ」

「……あ、うん」


 この言動が既に幼い少女とかけ離れていた。


「でも私たちの基準からすると、人間でいう子供だから」

「あ、そうなんだ」


 やっぱり幼いらしい。


「ねぇ、じゃあギルは?」

「ん? あぁ……と」


 視線を漫画から天井へと移して、何かをギルは考えていた。


「秘密」


 考えるのを放棄したようで、今度は仰向けに転がり、漫画を高く掲げた。


「教えてくれてもいいじゃない、ケチ」

「誰がケチだ。他のことなら答えてやる」


 ケチと何気無しに言ったのが気に障ったのかもしれない。何処か気のない返事だったのが一変した。ギルは断ったわけだが、これが逆に私にとっては好都合かもしれない。


「そ。じゃあ何で処刑人なんてやってんの」


 前にもした質問をぶつけた。ギルは寝転んだまま私を一瞥し、すぐに視線を漫画へと戻した。そしてため息混じりに言う。


「またそれか。それは前に言ったはずだ」

「答えてないよ。誰かを探してるって言っただけでしょ。処刑人をやってる理由にはなってないし」

「何でだよ。こっちの世界に来てる可能性があるから処刑人やってんだ」


 それは理由になるのか。別に処刑人なんかやらなくても、こっちの世界には魔界の住人は普通に来てるし。あまり関係ないんじゃないかと思う。


「もともと魔界の住人って奴は、こっちの世界に来ること禁じられてる。本当はむやみやたらには来れねぇんだ。まぁいわゆる抜け道があるんだが、処刑人は役目がある分堂々と来れるし、執行者とも戦うことは少ない。本当ならな」

「そ、そうなんだ」


 ついこないだ執行者と戦ったことを考えるに、ギルの場合は例外なのかもしれない。クランツと名乗った執行者とは何かしらの因縁があるみたいだった。

 そうなると、処刑人ではないリアちゃんも抜け道を通って来たんだろうか。

 静か過ぎるくらいにおとなしかったリアちゃんに話を振ってみた。視線を向けると、心地好い寝息を立てて寝ていた。


「あれ、疲れてたのかな」


 あまりにもぐっすり眠りこけるリアちゃんを見ていると、そう思えた。シーツをグッと掴み、枕を半分占領している。眠ってしまったのならと、私は布団をかぶせた。ん~、寝顔を見る限り、普段以上に子供のように思える。

 リアちゃんの寝顔を見ていると、私も眠たくなって欠伸が出る。これまで夜中も起きてたときがあったから、まだ疲れが残ってるかもしれない。


「じゃあそろそろ行く。何かあったら呼べ」


 読み終わったであろう漫画を私に差し出し、ギルは窓へと近付く。


「やっぱり屋根にいるの?」

「あ? そりゃそうだろ。近くにいなきゃ奴らが来た時、行動が遅れるからな」

「そうだよね」

「……何が言いたいんだ? それに寝辛いと言ったのは紗希だろ」


 それもそうだけど。外に追い出すみたいでどうにも気持が落ち着かない。


「ちょっと待って」

「あぁ」


 ならせめてと、毛布を引っ張り出して、ギルに手渡す。


「何だこれ?」

「毛布だけど? 寒くなるかもしれないし」

「あー、あー」


 とギルは一人で何かを納得したようだ。私の差し出した毛布は受け取ることなく言った。


「いらね。気にしなくても寒くねぇからよ。人間とはそもそも体の出来が違うからな」

「ほんとに?」


 迷うことなく発した質問に、ギルは呆気にとられたような表情をしていた。その表情が少し可笑しかった。


「嘘じゃねぇよ。嘘ついても仕方ないだろ」

「いやいや、ギルってけっこう意地っ張りだし」

 

 戻した表情がまた崩れる。唖然としたのか間があった。


「……わぁったよ。借りれば満足か?」

「うん。はい」


 ギルは無造作に毛布を手にとり、窓をくぐり抜けて行った。私は鍵はせず、窓を閉めるだけに留め、リアちゃんのいるベッドに潜った。


「んっ……」


 隣のリアちゃんが呟く。何か寝言を言うのかと思って少しの間待っていた。けどそれ以降は何もなく、もぞっと寝返りをうっただけだった。

 ホントに子供みたい。そう思って私も目を閉じる。明日は遅れるわけにはいかない。早く起きようと眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ