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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
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エピローグ

「ん、じゃあ行くか」

「え、もう?」


 そんなに時間も経ってないのに、ギルは体を起こそうとしていた。けど、明らかに回復しているとは思えない。上半身を起き上げるだけでも、もたついていた。


「まだどう見ても無理でしょ」

「余裕だっての」


 そう言ってまだふらつきつつ立ち上がった。続いてリアちゃんも立ち上がる。


「私も」


 えぇ?

 ついさっきまで無理そうって言ってたのに。二人の急な行動に私は困惑した。


「な、何で急に?」


 とっさに尋ねた。何かあったのかもしれない。もしかしたら、嬉しそうにしてたのが、勘にさわったのかなんて考えてしまう。


「寒いんだろ? 早く帰ろうぜ」

「寒そうだから。早く帰ろ」


 二人同時に発せられた言葉は、私の考えなど一瞬にして吹き飛ばした。自分達の方が傷付いているのに。その原因は、私が呼び寄せてるからなのに。それでも、二人とも私を気遣ってくれている。


「紗希? どうしたの?」


 魔界というとこからやって来た人間じゃない存在。それでも暖かい優しさを確かに持ってる。

 ギルもリアちゃんも魔界の住人だからって、殺すべき存在なんて私には思えない。他の魔界の住人と比べると、やっぱり変わってる。


「紗希、どうした?」


 目頭が熱くなって、視界が歪みそうになった。


「うぅん、ホントに何でもない」


 ふらつくギルに肩を貸そうかと言ったのに、ギルは堅く断った。やっぱり意地っ張りだった。代わりに黒猫との姿となったリアちゃんが私の肩に乗る。


 長く長く感じられた夜が終りを告げていた。うっすらと光が闇を照らす。


「ありがと……」

「紗希、何か言った?」


 肩に乗っていたリアちゃんには多少聞こえてしまつたらしい。


「何でもないよ」

「お前、さっきからそればっかだな」


 横を行くギルが呆れた表情を見せていた。


「えへへ……」

「何笑ってんだよ」


 今も自分は生きている。そう実感出来ていることも良かったと思うけど、それ以上に二人に感謝してる。


「紗希ホントにどうしたの?」

「何でもないよ」


 同じ言葉を繰り返す。精一杯の笑顔を向けて、この今を大切に思った。


「それより腹減った。帰ったら何かつくれよ」


 ついさっきまでの死闘が嘘のような、緊張感のカケラもないことをギルが言う。


「つくってほしいなら、もっとちゃんと助けてほしんだけど」


 相変わらずギャップの激しいギルに呆れて、私はおどけて言った。


「……気が向いたらな」


 返ってきた言葉は、以前と違っていたように思う。魔界の住人。本来世界が違う者同士だ。それでも、空いていた距離は少し縮まったように感じた。


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