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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
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4:執行者Ⅲ

 授業が終わると、もちろん元凶、もとい庵藤に問い正した。


「どうしてあんなことしたの?」


 腕を組み、席に座る庵藤の前に立つ。


「いや暇だったし」

「暇だったじゃない! おかげですごく恥ずかしかったんだから!」

「ていうか、普通引っ掛からないから」


 思い出したのか、また笑いだした。


「う、うるさい! まず謝れ!」

「サキリン? 大声出してどうしたんだ?」


 私が大声をあげていたからなのか。狭山が尋ねてきた。真顔で訊いているし、どうやら本当に知らないようだ。さっきの時間、寝ていたのかもしれない。けどだからといって、教えるはずもない。


「別に。何でもない」

「いやさっきの時間のことなんだが……」

「ちょっと……」


 庵藤を制止することも叶わず、狭山にも知られることになってしまった。こいつも馬鹿にするのかと思いきや、顔をうつ向かせ、親指を立てた右手をまっすぐ私に示した。わけが分からない。


「……!?」


 狭山が顔をあげると、ぶわっと涙を流していた。ますますわけが分からないんだけど。


「さすがサキリン。たまに見せるそのおっちょこちょいが可愛い」

「……!?」

「くそ~、ちゃんと起きとけば良かった。あわよくばビデオカメラにでもその光景を……っ!?」


 普通の反応よりたちが悪かった。とりあえずすねめがけて、蹴っ飛ばすことにした。




「う~」

「よしよし、紗希は可愛いね」

「……むぅ」


 机にもたれかかっていると、加奈が前から頭を撫でながらそんなことを言う。今はそう言われても、褒められてる気がしない。


「馬鹿にしてる?」

「別に馬鹿になんかしてないけど。純粋に可愛いと思ってる。それは置いといて、今回は寝惚けてた紗希も少し悪かったわね」


 確かにその通りだ。ちゃんと判断できていれば、こんなことも起きなかったかもしれない。


「まぁもちろん、庵藤が九十九%悪いんだけど」


 そう言って、加奈は隣の庵藤を見据えた。習って私も視線を移す。


「親切に教えてやったんだが?」

「嘘だったでしょ。これ以上やるなら私も黙ってないけど?」


 気のせいか、加奈が怒っているように思える。庵藤も多少驚いてしまったみたいだ。


「あ、えと……加奈?」

「紗希~。さっき寝ちゃったよ~。あとでノート写させて~」


 前の席のはずの優子が、後ろから抱きついてきた。場の雰囲気を読んでほしいのだけど。


「分かった分かった。もう少し自重してやるよ」


 わ、加奈が庵藤を言いくるめた。こんな光景は初めて見たと思う。


「紗希聞いてる~?」

「え、あ、ゴメン。ノートだよね。あとで貸したげる」

「やた~」


 はしゃぐように喜ぶ優子は、子供みたいだった。後ろの優子に気が向いていると、加奈に呼ばれる。何だろうと前に向き直す。


「な、何?」


 途端に、鼻先をぐいっと人指し指で向けられる。


「紗希も、ちゃんとしっかりしてないとね」


 呆れたように加奈が忠告をする。


「あ……うん」


 私はただ返事するだけになってしまった。


「よし」


 けど、にっこり笑う加奈は、お姉さんみたいで頼もしかった。





 放課後になる。特にこれといって変わり映えたことはなかった。優子は部活へ向かい、加奈も今日も残らなきゃいけないみたいだった。


「う~ん……」


 何だか寂しいようなそんな気がする。やっぱり一人より二人、二人より三人である。そういえば、最近は三人で遊びに行っていないし。今度の休日に誘ってみようかと考える。


 その時だった。私は家に向かって真っ直ぐに歩いていた。その帰路の途中、私の前に予想だにしない人物が現れた。


「……!?」

「神崎紗希だな」


 無愛想気味なのは、白い銃を持つあの男だ。恐竜のような怪物に襲われていた時に助けてくれた。けど、リアちゃんにもギルにも強い敵意を見せていて、ギルは殺すべき存在だと言った男。私はそうは思っていないだけに、この人を信用していいのか分からなかった。結果的に助けてくれたのは間違いないが、敵味方の区別がいまいちつけれなかった。


「話がある」


 男はそう言った。あまりに突然の出来事。だけど……。この人は私の知らないことを知っている。

出来るだけ平静を装い、話だけでも聴こうと私は思った。黙って私はコクッとうなづく。


「でもその前に、貴方の素性を教えて」


 何の反応もなく、男はただ黙って私を見ていた。だがそれもすぐのことで、ゆっくりと口を開く。


「俺は、執行者と呼ばれている」

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