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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
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4:執行者Ⅱ

「ふぅ」


 どうしようもなく溜め息が出てしまう。一触即発な朝食を終え、私は時間が許す限り片付けをしていた。

 猫形態となったリアちゃんは食卓の椅子の上で寝息を立てていた。

 ギルも同じく椅子に座り、アイスコーヒーを飲んでいる。


「あのさギル」

「何だ?」

「前から思ってたんだけど、どうして処刑人なんてやってるの?」


 コト、とコップを置く音が聞こえた。


「何でそんなことを訊くんだ?」

「え? えっと……」


 不意に私のほうが質問される。何で急に訊きたくなったか。それはやはり昨夜に会った……あ、暗かったけど一応今日の朝だっけ。いやそれはどっちでもいいんだけど。とりあえず、あの白い銃を持つ男が理由と言えた。


「あいつか……」


 私はまだ何も答えていない。けど、ギルは察したようだ。


「それはつまり、俺のことを殺すべきだと言ってたことだな」

「うん……」


 ギルは察しが良すぎる。的確過ぎて、私には何も言えなかった。私の食器を洗う音だけが嫌に響いているように思えた。


「俺が処刑人をやってる理由は……」


 私は静かに聞く。その続きを待った。


「……ある奴を、探してるんだ」

「え? そ、それって誰なの?」


 ギルが誰を探しているのか。単純に気になる。けどそれ以上に、ギルの表情に陰りが見えたのが気になった。


「……それは教えねぇ」


 ギルは重い口を開いて、それだけを言葉にした。その後沈黙が続く。重い空気になってしまったので、私は慌てて言葉を探した。


「で、でも、それなら別に処刑人になる必要はないんじゃないの?」

「魔界の住人は一応、こっちの世界に来ることを禁じられてるからな。処刑人だったら名目上免除されるし、面倒もなくなるんだよ」

「そ、そうなんだ」

「だからまぁ、別にしたくてしてるわけじゃねえな」

「そっか」


 したくてしてるわけじゃない。

 それを聞けただけでも良かったと思う。ただ何かを殺したくて、ただ何かを壊したくて、『処刑人』をやっているわけじゃないと分かったから。


「んじゃ俺は帰るぞ。紗希もそろそろ時間だろ?」

「あ、うん。そうだね」


 リアちゃんは、冊子のある小さな窓から出るように言ってあるから、このまま寝かせといて大丈夫だった。

 二階の私の部屋の窓を除いて、戸締まりをしてから私は学校へと向かった。



§



 屋根から屋根を翔び進む。紗希の朝食を食べた後、ギルはどこかへと向かう。


「止まれ」


 何処からか声がする。ギルにはすぐに分かった。あいつだ。速度を緩めることなく、無視しようとするギルの前に男は颯爽と現れる。


「朝っぱらから何の用だ」


 後ろからギルと同じように駆けて追い付いてきたのだろう。ギルは面倒そうに言った。間違いなく白い銃を持つ男だ。


「殺し合いに来たのか?」


 フン、と男は笑う。そしてギルに近付いていく。


「こんな明るいうちから殺り合えば、互いにまずいだろう」

「なら、何しに来た?」

「忠告……いや命令だ。あの娘に近付くな」

「……紗希のことか」

「ああ、そうだ。お前の存在はあの娘には重すぎる」


 男はギルとの距離を詰めた。いつでも攻撃に移れる範囲だ。男は射抜くように鋭い眼光でギルを見据える。


「いずれあの娘は潰れるぞ」

「うるせぇよ。誰がてめぇの言うことなんか聞くか」

「従うつもりはなしか。ならその前に、貴様を殺す。近いうちに必ずだ」


 その一言を最後に、男はこの場を離れた。残ったギルは、舌打ちをするだけだった。



§



「う~……」


 やっぱ眠い。今までは遅刻してたけど、その分眠れていたからかもしれない。最近はとても授業が眠たい。

 前の方に座る優子を見ると、うつ伏せになっている。明らかに寝ていた。

 それにつられて、いっそのこと眠ろうとすると、後ろからの呼び掛けがあった。背中に当たるものを感じ、後ろを振り向く。加奈がいた。どうやらシャープペンシルで突いていたみたいだ。


「紗希、この時間は起きてないと」

「だって眠いんだもん」

「このままいくと、もうすぐ紗希が当てられるんだから」

「え、答え教えて」

「じゃあ神崎、次読んでくれ」


 もう来た。全然聞いてなかったから何処を読むのかわからない。


「ほらここだ」


 右隣に座る安藤から指摘があった。自分の教科書を指差し、ここからだと教えてくれる。ほれと教科書まで渡してくれたようだ。ひとまず時間短縮のため、素直に借りることにした。


「ありがと」


 小さくお礼を言って。


「あ、紗希、それ違……!」


 ある程度読んでいると、周りが一層異質な雰囲気に包まれていると気付く。


(え、あれ……?)


「え~とまぁなんだな神崎。その今は英語じゃなくて古典の時間なんだが……」


 瞬間、ドッと周りが笑い声をあげた。当然私は顔が熱い。


「授業はちゃんと聞いてくれ、頼むから」

「す、すいません。気を付けます」


 眠気なんか一気に吹っ飛んでしまうくらい恥ずかしい。またやられた。そう思うが時はすでに遅い。今の私には、隣にいる元凶をひたすら睨むことしか出来なかった。

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