表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
37/271

3:黒猫ⅩⅦ

「サキ、ごめんね」


 リリアがか弱い声で、途切れ途切れに謝っていた。銃の男が去った後、ぱたりとリリアが倒れそうになったところを私が何とか支える。力が入っていなくて、今にも地に伏せてしまいそうだ。しゃべったらダメという私の注意も構わず、リリアは続けた。


「私が、この街に来なかったら、サキはこんな目に……遭わなかったかも、しれない……から」

「どうして、そう思うの?」


 私は訊いた。どういうわけか、本当に皆目見当もつけられなかったから。


「最初、すぐに分かった。サキが……魔界の住人に狙われている人間だって。だから、私じゃなくて、サキに目が行くように、サキの周りをうろいついてたの」

「……そうだったの」


 これで分かった。再度会ったのは偶然じゃなかったんだ。さらに、リリアは続けた。


「でも、サキは私を助けようとしてくれて、なのに私は、サキが襲われるように……仕向けたから」

「でも、貴方だって助けてくれたよ?」

「必死になって、助けてもらえて……嬉しかったから。だから、サキを……」


 そう言ってリリアは目を閉じる。がくんと、一気に力が抜けてしまっていた。一瞬焦ったけれど、息遣いがあることがすぐに分かり、ホッとした。


 そのあと、リリアは黒猫へと姿を変える。

私はリリアを抱え、自分の家へと戻ることにした。


「いいからほっとけ」

「そんなにボロボロなのに、ほっとけるわけないでしょ」


 どうやらギルはやせ我慢だったらしく、今になって痛みや疲労が見てとれた。嫌がってはいたが、ギルも一緒に連れて帰宅する。


 幸い両親はまだ起きていなかったようだ。鍵はもちろん閉まっていて、出るときは無理矢理で急だったため、持っていない。最後にギルにお願いして、窓へと運んでもらった。


「はい、これでおしまい」


 生々しい斬られたあとがいくつもあった。ぐるぐると包帯を何重にも巻く。


「こいつ殺していいか?」


 不意にそんなことをギルは口にする。こいつとはリリアのことだ。今は処置を終え、ベッドで猫そのものの姿で丸くなっている。


「駄目に決まってるでしょ! そんなことしようとしたらご飯作らないからね」

「……お前な」


 それきりそのことについては触れなかった。意外にギルには、ご飯の有無が効くのかもしれない。


「……んっ」


 リリアが目を覚ました。伸びをしているところを見ると、猫っぽくてもう大丈夫なのだろうと安堵する。そしてその回復力に感心した。


「あ、えっと、ありがとう」

「うん。どういたしまして」


 包帯やらガーゼやら、自分が治療されていることに気付いたようだった。かなり簡単で応急処置の範囲に違いないけど。

 そのあとリリアは幼い少女となり、私の前にチョコンと座った。


 それから色々と事情を聞いた。二匹の恐竜に追われていたのは、あいつらが所持していた、力を宿す宝石を盗んだから。でもそれは、元々はリリアの持ち物だったという。二匹は盗賊で、高価と思われたものは、片っ端から盗んでいく。リリアのそれも、標的にされたというのだ。大事なものである為、リリアは追いかけて奪還を成功させる。しかし、盗賊のプライドなのか、リリアを追い回すようになったと言う。


「そうだったんだ」

「うん。もう、なくなっちゃったけどね。……ねぇ、サキ」

「うん?」


 急に改まってリリアは言った。


「その、時々でもいいから……遊びに来たら、ダメ……かな」


 うつ向いて、途切れながらもリリアはしっかりと言葉を発した。


「うん。もちろんいいよ」


 断る理由なんか何もない。私は笑って受け止める。了解をもらえると、リリアは僅かだけ顔をあげ、呟いた。


「あ、その……ありが、とう」


 その僅かに顔が上がったことにより、リリアの表情が少しだけ伺えた。耳まで顔を赤らめていた顔は、まるでゆでだこのようである。慣れていないのか、何というかすごい照れっぷりだ。

 だからこそ、けっこう可愛いかも。なんて思ってしまう。


「私は神崎紗希かんざきさき。よろしく」

「リリア・アークス」


 今更って気もしたけど、改めて自己紹介する。リリアはまだ照れているようだった。


「そだ。リアちゃんって呼んでもいいかな?」

「……べ、別にサキが好きな様に呼べば、良いと思う」


 私の思いきった発案に、リアちゃんは肯定を示してくれた。けっこう良い娘なんじゃないかと思う。


「二度と来るんじゃねぇよ」


 それまで静かに傍観していたギルが茶化す。


「もぉギル。どうしてそういうこと言うかな」


「貴方には言われたくない」


 リリアも反論を口にした。


「私にサキを取られるのが嫌なんでしょ」

「はっ、勝手なこと言ってると殺すぞ」

「出来るかどうか試してみる?」

「上等だ」


 二人は互いに立ち上がり、既に戦う気満々である。

「わぁあ!ちょっと待ったぁー!?」


 家のなかでこの二人に暴れられたらたまらない。急いで止めに入った。この二人はどうも相性が悪い。私が仲介に入らないといけないみたいだ。



「紗希? もう起きてるの?」

「え!?」


 どうやら親が起きてしまったらしい。私はあせって、二人になんとか隠れるように伝えたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ