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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
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3:黒猫Ⅹ

「あ、アニキ……」

「黙れ。やはりお前だけでは無理だったな。私の弟ながら情けない」


 確かに姿はかなり似ている。二人の言葉から、兄弟という関連性が伺えた。


「なるほど、お前らがそうか。ドラコ兄弟ってのは」


 ギルが一人納得していた。魔界では名は通っているようだが、紗希が知るはずもない。紗希にも分かる問題は、新たに現れた兄は、大きい体のガロンを引っ張りつつも、ギルの攻撃をあっさりと避わしたこと。そして、ガロンとは比べられない程、殺伐としていることだった。


「はじめまして。黒い処刑人。私はアシュロン。愚弟が世話になったようだ」


 言葉遣いは丁寧だが、弟以上に殺伐とした雰囲気を出していた。静けさをも含む殺気を放つ。紗希にも感じることは出来たのか、伝う汗を止めることが出来ていなかった。


「あ、アニキ……。待ってくれよ。こいつは俺が……」


 そこまで言って途切れる。アシュロンが直ぐ様振り向き、ガロンを軽々と吹き飛ばした。


「ガ、ァ……!?」

「お前には無理だ。黒い処刑人は私が殺す。お前はリリアを捕まえろ」

「わ、分かった……」


 了承させられたガロンは、命じられたことを遂行しようと立ち上がる。リリアというのは黒猫のことだろう。ここで、黙っていたギルが勇み出る。


「おっと。事情は知らないが、黙って見送るわけないだろう」

「お前の相手は私だ。処刑人」


 ギルが頭上をとられる。アシュロンは、腰に提げていた大きな曲刀を振る。高い位置まで飛び上がっているのだから、本来なら届くわけがない。だが届いた。振るった曲刀の斬撃が飛翔したのだ。しかしギルは、その斬撃を落ち着いて避わした。


「無駄のない、いい動きをとるな」


 上空に飛び上がったはずだが、いつの間にかアシュロンはもう着地していた。素直に感想を淡々と述べる。


「紗希……」


 突然、ギルは紗希を呼んだ。


「な、何?」

「遠くへ離れてろ。こいつは手間がかかりそうだ」


 紗希にとっては願ってもない。此処を離れた方が良いのは一目瞭然だ。すぐさま立ち上がり、紗希は安全を得ようとした。だが……。


「逃がさねぇ!」


 ガロンが迫ってきた。


「ガアアアァアアア!!」


 再度雄叫びをあげ、高温の火炎を吹く。炎の向かうところは、紗希だけではなく黒猫のリリアも同様だった。膨れ上がる炎は、紗希たちを悠々と飲み込もうとしていた。

 黙って喰らうわけはいかない。紗希は何とか横に走り抜けることで危機を脱する。リリアも、ギルのような俊敏な動きを見せて避わしていた。


「…!?」


 炎を盾に潜んでいたのか。回避したと思ったところに、ガロンの残った大刀がリリアに襲いかかった。狙いはリリアにあるのだろう。

 一瞬早くリリアも気付き、それをも回避しようと試みる。しかし間に合わなかった。


「く、ぅ……」

「ハハハハァ! 足に傷を追ってはもう避けられねぇ」


 そう言い放った直後、ガロンは大刀を振り下ろした。


「……!?」


 皆が目を見張る。発端となった紗希でさえも、自身の行動に驚いていた。人間であるはずの紗希が飛び出したのだ。今にも大刀が振り下ろされる最中、自分の危険を顧みることなく他者を助ける。いや、人間が魔界の住人を助ける行為に、この場にいた全員が驚いただろう。


「な、何して……」


 紗希の懐からはそんな疑問が呈示された。一番信じられないのは、間違いなく助けられたリリアであった。


「くそ人間が……!?」


 後ろからはそんな罵倒が浴びせられる。


「助けたの! しょうがないでしょ」

「何で!?」

「体が先に動いてた」


 案の上、頭に血を昇らせたガロンは追い掛けてきた。必死に走りながらなので、言葉は途切れ途切れになってしまう。できればより酸素を多く吸い込むために、話はしたくないのだけれど、黒猫はやめようとしない。


「馬鹿みたい。分かってる? 危うくサキのほうが切られてた」

「今はすごく分かってる」


 危うく斬られそうになった事実。ガロンに追い掛けられている今、紗希はようやく事の重大さを噛み締めていた。そういえば、ギルの時もそうだったと紗希は思い出す。


「全然分かってない。私なんか本当は……」


 そこまで言って、リリアは急に口を噤んだ。何を言おうとしたのかは分からない。ただ、彼女の瞳はどこか悲しく思えた。

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