表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
28/271

3:黒猫Ⅷ

 えーと、完全に覚めてしまったと思っていた眠気は、意外にまだ残っていただろうか。


「何て言ったの?」


 つい聞き返していた。


「だから、お前にも動いてもらう」

「な、何で?」

「簡単だ。うまく見付けられないからだ。どんな奴かは知らねぇが、気配を残しては消えやがるから、特定が難しいんだよ」


 それだけで言うことは終わったのか、それ以上何も言わなかった。私はもちろん断ろうと考える。睡眠を削ってまで、わざわざ怖い思いはしたくない。それを我慢してまで街を徘徊なんてしたくなかった。


「それ……え、えぇ!?」


 それは無理。出来ない。と言おうとしたところ、それは叶わなかった。ギルが私を抱きかかえたのだ。驚いて硬直してしまう。その体勢は前と同じで、……お、お姫さま抱っこだ。

 そのまますんなりと窓から飛び出すギル。必然的に私も窓から飛び立ったことになる。


「ちょ、ちょっ……何するの!?」


 当然ながら抗議の声を上げる。自分の今の格好が何より大問題だった。さっきまでは夢心地の中ににいたわけで、私は寝巻き姿だった。何回かギルには既に見られているわけだが、まだ免疫は出来ていない。そして今は外。真っ暗闇とはいえ、誰にも会わないという確実な保証はあるわけもない。おまけに寒いし。


「着いたぞ」

 

 私が唱えた異論を当然の如く無視して、降りた場所は河原だった。向こうには例の鉄橋が見える。


「最後に分かったのは此処だったからな」


 もちろん誰もいない。いつ魔界の住人が現れてもおかしくない静けさだ。


「……今日はやめない?」

「何でだ?」


 何でって、そりゃ怖いし。こんな格好だし。眠いし。足は裸足だから痛いし。やっぱり恐いし。


「じゃあこのまま力入れるか」


 キリキリキリ……。


「い、いたたたた……! わ、分かったからぁ!」


 反応する頃にはもう頭を掴まれているから、私には対処の仕様がない。そのうち本当に頭を潰されかねないと思った。


「それで、どうするの?」


 私は痛みに耐えかねて座り込み、つい両手で頭を押さえていた。体を丸めながら問う。今までは巻き込まれただけだ。勝手に向こうの方からやって来ただけで、囮と言われても、事実どうすればいいのやら分からない。


「さぁな」


 ギルもこんな感じだった。


「とりあえず待つしかないだろうな」

「えぇ?」


 計画性がなさすぎだと思う。口に出したらまた何かされるから言わないけど。 

 それにしても、う~眠い。帰りたい。

 ギルは、俺がいたら出てこないだろうということで、少し離れたところで身を潜めている。殺気やら気配やらも消しているらしい。しかしこれでは、機会があれば、いっそのこと黙って帰ってやろうかと思っていたが、監視されている気分だ。


「はぅー、眠い……」


 目をゴシゴシと擦り、眠気と必死に戦う。命が危ないかもしれないのに目が覚めないのは、ギルがいるからだろうか。


 眠気はあるものの、紛らすように、私は思考を巡らせていた。いつ現れるかも分からないのに、わざわざここまで出向くのは妙に思える。すぐにでも仕留めたいと考えているのか。ギルは何処か焦っているようだ。自分勝手な行動は相変わらずだけど、いつもの余裕がないような気がする。


 もしかしたら、これ以上犠牲者を出すまいとしてるんじゃ……。もしそうなら、協力しないわけにはいかないか。


 そして、このいつ終わるか分からない待ち伏せは、意外にも早くに終止符が打たれた。



 とても物静かだ。肌寒いとはいえ、あまりに強い眠気に打ち負かされそうになった頃合いだった。


 ガサッ!―

 突如、生い茂った叢で音がした。反応して見ると、あの黒猫がそこにいたのだ。普通なら暗く見えないが、河原は傾斜になっており、その上は道となっている。その道を照らすべく、何本かの電柱が立ち並ぶ。電柱の光が、下の河原にまで届いているのだ。近付いて声をかけようとしたところ、発声は相手の方が早かった。


「サキ!?」

「あ、うん。また会ったね。って何でまた怪我してるの!?」

 

 今度はちゃんとというのも変だけど、怪我によって血が滲んでいた。見ただけで怪我してると分かる。実に痛々しく映っていた。


「また会ったな、黒猫」


 いつの間にかギルが姿を現す。悠長に歩いて、さらに近付く。


「処刑人。こんな時に……」

「あ?」

 

 ドンッ!―

 物凄く大きく鈍い音。地響きがしたような気がした。何処からか降ってきたように「それ」は出現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ