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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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6:真なる敵Ⅲ

 爆発の攻撃に見舞われながら目にしたのは、大きなショッピングモールである。ドームに見えるその巨大な建造物が、暗い空に君臨していた。


 リアちゃんの風に助けられて、一気に駆け抜ける。爆発の正体を置き去りにして、ショッピングモールの裏口に到着する。


 着いたものの、当然施錠されていた。無理矢理開けようものなら、警備の人が駆けつけるかもしれない。


「任せて」


 そう言ってリアちゃんは風を起こすと、機械ごと扉ごと丸ごと破壊してしまう。鋭い風で斬り裂かれた、防犯の機械は、地面に転がると無残にも真っ二つに割れてしまった。パリパリッと電気が走った。やがて力尽きたように、何も言わなくなった。


「えー!?」

「問題ある?」


 問題ありまくりだけど、もうやってしまったものは仕方ない。機械が鳴ることもなく、というか綺麗さっぱりなくなっているのだけど、一旦目を瞑るしかできない。


「とりあえず謝っとこ」

「ごめんなさい」


 あまり意味のない謝罪だけど、そのまま中へと入り込む。襲ってきた奴も、誘いに乗ってきたらやりようはあるかもしれない。もちろん来ないならそれに越したことはない。


 営業時間であるなら、見通しのいいはずのモールだが、今は真っ暗闇で不気味な空間と化していた。非常口の緑色のランプと、非常ベルの赤いランプだけが頼りとなる。


 侵入したのはいいが、ここからどうするべきなのか。リアちゃんについていくと、ショッピングモールとなればよくある、テナントショップが並ぶストリートに出てきていた。


「ここかな」


 リアちゃんは、衣類やら雑貨品やらが立ち並ぶ店に目星を付けたようだ。シャッターで締められている店もあれば、網でバリケードしているだけの店もある。ちょうど簡易的なバリケードなだけに、侵入は容易だった。


「ちょっと様子を見るのね」

「うん。おおよそどういう攻撃してきてるのは分かったけど、本体がまだ掴めない」


 私も目が慣れてきたけど、それでも夜目のリアちゃんのほうが優れているだろう。


「急に爆発してきたけど、いったいどんな……」

「しっ……きたよ」


 私の質問を遮ってリアちゃんの顔つきが変わる。明らかに敵意を向けた表情を、店の外へと向けた。唾を飲む間もなく、カサカサと妙な音が聞こえてきた。


「ひっ……」

「紗希ッ、ダメ!」


 暗く静寂の中、気味の悪い音が耳を襲う。闇を歩く何かを目にしたとき、危うく悲鳴をあげそうになるところをリアちゃんが止めてくれた。

 私の苦手なモノ。八本の足を生やした蜘蛛がわさわさとすぐ目の前を通り過ぎて行った。ただでさえ苦手な蜘蛛であるのに、それが二匹も駆け抜ける。さらに言えば、明らかに普通の蜘蛛ではなかった。

 僅かに赤く光る体。リアちゃんの黒猫姿と変わらない大きさの蜘蛛である。そんなモノが、暗闇のモールを徘徊していた。危うく意識を手放しそうになる。


「な、なに……、今の……」


 明らかに普通の生き物ではない。紛れもなく魔界の一種だというのは分かる。それでも聞かずにはいられなかった。

 カサカサと小さくなっていく音。離れていくことを確認しながら、私は小声でリアちゃんに尋ねた。


「八つ目の赤蜘蛛……」

「え……?」

「ううん、あれが……爆発の正体……」


 爆発の……?

 狙いすましたかのように私たちを襲った爆発。その正体が、あの鈍く光る大きな蜘蛛だと言う。大きさもそうだが、ただの蜘蛛ではないということだ。


「……それでどうすれば」

「少し様子を見る。蜘蛛はあくまでも媒介物。蜘蛛を操る本体を見つけないと」

「待機すればいいのね」

「ただの待機じゃないよ。ずっと同じ場所だと見つかるから、移動しながらになる」

「移動……」


 ただおとなしく待つだけならいいけど、蜘蛛が這いまわっているところを歩かないといけないと考えると、かなり気持ちが揺らぐ。それでも、今の状況を打破するためだ。むざむざ殺されないために、リアちゃんの言うとおりに動くしかないと心に決める。


「あんまり気が進まないけど分かった」

「紗希……ってもしかして……」

「だってなんか怖いんだもんっ」


 リアちゃんがジト目で視線を向けてきた。自分の苦手なものが人に知られるというのは何か嫌になる。しかも、年下の女の子の風貌をしているリアちゃんに馬鹿にされているみたいで恥ずかしい気分だ。


「……可愛い」

「え、何か言った?」

「……別に。それよりそろそろ行くよ」


 蜘蛛の気配はなくなったようなので動き出す。服が陳列された棚から僅かに立ち上がる。暗さゆえに、どういうジャンルの服か分からないがレディースとメンズが置いてあるようだ。あやうくマネキンにぶつかりそうになりながら、店外に出た。

 赤い蜘蛛も光っているから、比較的私も確認はしやすいはずだ。遠くまで見渡すが近くにはいないようで、見当たらない。暗い闇が続くだけだった。リアちゃんは私よりも早くどんどん歩き始めてしまう。ここではぐれてしまうわけにもいかない。私は慌ててついていくことにした。


「どこに向かってるの?」

「とりあえず上に向かおうと思う」


 身を潜めた店は一階だった。いつ追っ手に見つかるとも分からなかったので、モールに入ってすぐに隠れたけど……。


「どうして?」

「この建物の構造上、下にいると襲撃を受けやすい。頭の上だと死角になるしね。少しでも上に行って、逆に上をとってこっちから仕掛けたいと思う」

「うん、わかった」


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