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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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5.復讐を誓う女Ⅹ

「ハァ……ハァ……」


 右腕をダランッと垂れ下げ、痛々しい赤い血を流しているギルは、満身創痍に違いなかった。

 対する氷の女。処刑人のスピードに喰われかけたこともあった。息の乱れもあるし、確かに傷もある。だが、ギルと比べれば幾分か余裕はある状態といえた。


「存外にしぶといやつや」


 ダンッ


「……あんた、誰や」

「ようやく現れたか。貴様が氷魔か」


 現れたのはクランツだ。跳躍して着地する。ギルと女の激しい殺気のぶつかりを察知して飛んできたのである。


「先に質問したのはこっちやで。誰やときいてんから答えてほしいんやけどな」

「執行者……と言えば分かるか」

「なるほど……。けどもう少しで処刑人を殺せるところやねん。そこで待っとき。処刑人を殺ったあとで相手したるわ」

「残念だが待てないな。魔界の住人を狩るのが俺の仕事だ。貴様は俺が相手する」

「……は? 何やと」


 女は違和感を覚える。執行者の役割はよく分かっている。魔界の住人をを殺すのが務めではあるが、それは処刑人である負傷した男も同様である。さらさら殺される気はないが、決着を待って一方が死んでからも遅くはない。むしろその方が合理的だ。

 女の経験則からは信じられないことだが、ある可能性を女は見い出した。


「あんたら……まさか、グルか?」


 処刑人と執行者が組むなんてことは聞いたことはないが、それが合理的だと考えたのだろう。ギルとクランツ両方を敵だと認識すると、女の白い肌から冷気が浮き上がる。殺気を込めた視線を、蛇のような眼に孕ませた。


「笑えない冗談だな……反吐が出る」

「へっ、全くだ……」


 多少気分を害したのか。クランツは固く口を結んで女に視線を集めた。意図的にギルを見ないようにしているようだった。同意したギルも、血を垂らす状態でありながら苦みを含めた笑みを浮かべる。


「ふん……。けど、見知った仲ではあるようやな」

「妙な勘違いをしているところ悪いが、問答をしに来たわけではないんでな。さっさと仕掛けさせてもらうぞ」


 クランツが銃を抜く。両銃が彼の本領であるが、言葉とは裏腹にまずは様子を見るためか片方の銃のみである。氷の女にはその思惑が分かるわけがない。早々に意味深な修飾銃を目にしたところで、むしろ警戒心を強めて迎え打つ準備を行う。女の冷気が再びビル屋上を覆う。


「っ!?」


 女が動く。その瞬間、女の頬を銃弾がかする。ピッと白い肌を染めるように赤い血が線上に走った。

女は瞳孔を開き驚愕した。とてつもない早撃ちであること。動き始める瞬間、動く方向を先読みして撃ち抜かれた。もう少し動くのが早かったら、間違いなく致命傷を負っていただろう。いやそれ以上に……。


「何故、外れた?」


 クランツが疑問を口にする。


「何でやろうな」

「……何か妙な小細工をしているようだな」


 クランツが動く。まともに撃っても簡単には当たらないようだ。さすがにそれは予想の範疇だが、その原因、根拠を探らなければならない。距離を詰めるべく前進するクランツに向かって女は氷の弾丸を放つ。ソフトボールくらいの大きさくらいの氷である。だが、ただの投擲と片付けていいスピードを超えていた。それをクランツはあっさり見極めて回避しながら女へと向かう。


「これが執行者か。まるっきり魔界の住人と遜色ないやないか」

「おい、俺がやるからてめぇはすっこんでろ!」


 クランツに向かって、女とギルはそれぞれの文句を口にする。当然クランツにとっては知ったことではない。問答無用で再度引き金を引く。


「さすがに二回目はないわ」


 女の眼にはもう慣れたのか。銃弾を見切り始める。だが、避けた背後からギルの攻撃が迫る。


「くっ……」


 女は転がるようにして回避して向きを変える。と同時に冷気を一気に放出して応戦する。下から貫く氷の刃がギルを襲う。反射的に飛び退いたギルを確認して、女は迎撃に成功したと見る。その間に、背を向けたところにクランツが銃創を向けていた。


「二対一か」


 冷や汗を垂らして窮地を自覚すると、女はすかさず処刑人と執行者を同時に敵として対処するべく、背後のクランツにも下から氷柱を差し向けた。クランツは自身のスピードで減速がままならない。いや、減速しないほうがいいと判断したのだろう。そのまま氷柱を飛び越えて宙を舞う。女の真上に来ると、ちょうど上空から女に向けて射撃した。

 女は、自身の氷に阻まれてとっさに後退はできない。上を向いて執行者の姿を確認したあと、前進して銃弾の回避を試みる。

 そこに待ち構えたギルがいるが、近距離戦を挑むことになるのは仕方ない。割り切った考え、判断のもと、腕に氷の剣を携えて交戦する。炎を出せない処刑人にとっては、待っていたシチュエーションである。ギルも応戦するべく態勢を整えて、血を垂らして負傷した右腕を無理矢理動かして構える。

 氷の剣は、ギルによって破壊される。一気に優勢に躍り出るが、女の狙いはここからだ。腕の氷はブラフ。初撃と同様に女の主体はあくまで蹴りである。


氷結界ひょうけっかい……霙舞みぞれまい

「ち……またかよ」


 ギルは女を間違いなく貫く。だが、女の体は消え失せる。実体はギルの懐に掻い潜り、隙を生じたギルの腹部を重い蹴りで吹き飛ばすのみであった。


「が……はっ……」


 吹き飛び地を滑る。コンクリートはほとんど凍っており、よく滑った。それでもギルは片手で自身を浮かせると瞬時に態勢を整えた。


「おっと……」


 蹴りこ込んだ女に向かって、もう一度放った銃弾はまたも外されてしまう。


「その銃はもう、かすることもないで……ん?」


 余裕が戻った女だが、処刑人と執行者の様子がおかしいことに気付いたようだ。


「あれだけ隙だらけで外すか普通」

「貴様こそ、得意の近距離で完璧に負かされていたが」

「あぁ? 誰が。てめぇの見間違いだ。つーか。勝手に横からしゃしゃり出てくんなよ。俺だけで十分なんだよ」

「とてもそうは見えないな。仮に今ここで逃せば、また雲隠れされるかもしれないんだ。やるなら確実にだ」

「そうかい。じゃあ分かりやすいな」


 最初の予想通り、結局共闘か。

 会話のやり取りでそう判断する女であるが、いささか早計だった。


「「俺が殺す」」

「……!?」


 同時に放つ宣言。共闘はしない。協力する気などさらさらなかった。この二人には。 

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