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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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5.復讐を誓う女Ⅴ

「え、何これ」


 隠れ家のような診察室に入ると、飛び込んで来たのは「うひょー」とはしゃぐスカルさんである。

両手には何やらピンクの布を持ち、くるくると回転を加えながら部屋中を行ったり来たりしている。


「つ、ついに届いてしまっタ……。こんな殺風景な部屋、イヤ孤独な部屋ともオサラバデス。これさえあれば、私にもうら若い看護婦さんが……。今こちらの世界では看護師かもしれませんが、そんなことは知りませン。私にはやはり看護婦さんこそが至高。白衣より、この桃衣こそが究極アルティメット!!」


「…………」


「ぜひとも紗希さんに着ていただきましょー。私の目に狂いはナイ。サイズもピッタリ。きっとお似合いに。そしてもしかしたらせ、先生〜。さ、紗希さんなんてことも」


「リアちゃん」

「うん」



 まだ何も言ってないけど、リアちゃんも女の子として気持ちを汲んでくれたようだ。怒りのままリアちゃんが風を巻き起こす。

 刃として精製された風は、スカルさんに向けられる。というよりその手にするナース服に向けてだ。


「ヒョエェェ!?」


 一瞬のうちに裂かれたナース服に、スカルさんは驚きの声をあげた。スカルさんに攻撃したわけではないけど、ボロボロになったナース服を見ると、少しやり過ぎな気がしないでもない。


「さ、紗希さんのナース服が……あ、お二人ともいつの間に」

「いつの間にじゃないです。何やってるんですか」

「いわゆる郷に入れれば郷に従えという奴でシテ、ここが病院となれバ、やはりナース服を着てもらうのがしきたりではないカと」

「いや絶対着ませんよ」

「そ、そんな……」


 どう考えてもスカルさんの欲望としか思えない。あんなのを聞いたあとで、さすがに着ようとは思わなかった。


「残念ですけど、じゃあリリアさんはどうですカ。貴方の分もありますよ」


 そう言って取り出したのは小さなサイズのナース服だ。まさかリアちゃんの分も用意しているとは。


「……は?」


 これでもかというほど冷え切った返事をしたあと、スカルさんが取り出したのとほぼ同時に、小さなナース服が切り裂かれてしまう。細切れになってしまった小さなナース服が、無残にもヒラヒラと部屋中を舞った。


「ああっ!?」


 ただの布切れと化したバラバラのナース服と共に、スカルさんがその場でうな垂れるように腰を崩してしまう。その姿を見ると、さすがにやり過ぎてしまったかと罪悪感が少し出た。


「ボーナス三ヶ月分が……」

「スカルさんにボーナスなんか出てないでしょ」

「マァ、それもそうデスネ」


 反射的に突っ込んでしまうと、スカルさんは気を持ち直したのか。すぐさまいつものように立ち直った。さっきまで少しあった罪悪感はなかったことにしよう。ギルの気持ちが少しだけ分かった気がした。


「……で、今日は何用デ?」


 サササッと箒で部屋を掃除しながら、スカルさんが尋ねてくる。


「今街に潜んでいる氷魔と呼ばれる魔界の住人の件です」

「なるほど」


 箒と塵取りを片付け、スカルさんが腰掛ける。普段から使っているであろう、回転椅子だ。私とリアちゃんも、安置されたベッドを使うように、上に広げた右手で薦められる。大人しく従って失礼することにした。

 おちゃらけた雰囲気はもうない。深刻な雰囲気のまま、私は次の言葉を口にした。


「スカルさんは会ってないですか。女性の姿をした住人みたいです」

「紗希さんも会ったのですカ?」

「……」


 スカルさんは確かに、「も」と言った。つまり、スカルさんは狭山が会った魔界の住人に会ったことがある。スカルさんとも情報の共有をするつもりだけだったために、まさか繋がっていたという事実に驚いてしまう。


「私は会ってません。ただ魔界の住人の情報を聞いただけです。スカルさんはいつ会ったんですか?」

「昨日の夜中デス。私モ街にただ潜んでいるだけの魔界の住人は気味が悪かったのデ、警戒はしていましたヨ。もしかしたら、エルガールのように何か良からぬことを企んでいるモノかもしれない。そう思っテ、妙な動きがないか私なりニ見回っていました。河川敷の方に行った時デスヨ。彼女に会ったのは……」


 着物を着た女だったと言う。狭山の情報と一致する。大人しかったリアちゃんも、そこで疑問をぶつけた。


「その時に斃さなかったの?」

「彼女は傷を負っていました。デスので、私も最初ハ警戒したんデス。敵である可能性のほうが遥かに高い。ただ意外なことに、彼女はよほどの深手だったのか。突然現れた私に対する殺意はかなり薄いモノでした」


 意思の疎通が取れたスカルさんは、その場で事情を聞いたのだと言う。何故傷を負ったのか。誰にやられたのか。何故この街に来たのか。それはまるで診察のようである。


「誰にやられたのかは彼女にも分からなかったと言っていました。突然のことで、不意打ちに遭った様デス。ただ、そんな彼女の狙いは分かりましたヨ」

「……処刑人ですよね」

「そうデス。十中八九ギルさんのことでしょウ」


 ようやく姿が見えなかった魔界の住人の正体が見え始める。狭山と、スカルさんの証言も重なって赤という名の存在が確かなものになった。


「それで、斃さなかった理由は?」


 リアちゃんが責めるように問い質す。


「害意も敵意もない方を攻撃する気にはなれませんでしたヨ。それでも狙いはギルさんなのであれば、止めないわけにもいかない。ですが、処刑人の肩を持つ私に警戒をしたのでしょうネ。あっさりと逃げられてしまいました」


 肩をすくめるスカルさんはやはりどこか陽気さが残る。敵の狙いが分かった。また負傷しているとはいえ、このまま放置しておくわけにもいかない。


「それで赤という人は何処に行ったんですか」

「赤という名前だったんですネ。教えてもらえなかったデス」

「名前はいいですから。それよりも何処にいるのか早く見つけないと」


 ギルにも狙われていることを伝えないといけない。そう思って行動に移ろうと立ち上がる私に、制止するようにスカルさんが押し留める。


「それなら大丈夫デス。おそらく彼女は今夜にでも動くようデスから」

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