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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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4:交差Ⅵ

 念のため、部屋に続く血も洗っていたら、いつの間にか夜は明けてしまっていた。それに、見ず知らずとはいえ、いやだからこそだろう。怪我人を置いたまま学校に行く気にはなれなかった。


「学校?」


 赤は聞き慣れない単語を呟く。携帯も知らないし、学校も知らないようだ。疑問ではあったが、赤の出生に関わることかもしれないと、狭山は深くは尋ねなかった。


「そう、学校だよ。勉強しに行くんだ」

「ふぅん……」


 人間にはそういうものがあるのか。こっちの世界に疎い赤が、初めて触れた人間の生活である。


「お前は行かないのか?」

「もう遅刻だしね。赤さんを置いていく気にもなれないし。今日はサボるよ」

「そうか……」


 赤はそれ以上何も言わなかった。私のことは気にしないで。などと口にする程、赤は殊勝な性格を持ち合わせてはいない。赤にとってはどうでもいいことであるし、本人の自由なのだから好きにすればいい。割り切った考えの下、既に赤は、学校というものには興味が失せていた。

 問題は、その学校とかいうところに関わる仲間の存在である。詳しくは不明だが、連絡が来ているということは仲間はいるだろう。仲間を此処に呼んではいないし、赤の存在も伝えてはいない。狭山が言ったことは事実であるが、赤にとっては鵜呑みに出来るわけもない。携帯と呼んでいるモノが連絡手段であるならば、これをどうにかしないといけないと赤は考える。


 庵藤からのメールに対して、どう返したもんかと悩んでいる狭山に、赤は声を掛けた。


「すまないが水をもらえないか」

「ん、分かった。取ってくるよ」


 狭山はそう言って席を立つ。携帯を置いてだ。連絡手段を持って行ってしまう可能性もあったものの、赤にとっては都合がいい形となる。

 隙を見計らい、赤は狭山の携帯を手に取る。やはり見たこともない。しかし小型の機械には違いない。赤は手に力を込めて握り潰す。画面が割れて、中身が見える。もう使えないだろう。赤は無残な姿となった携帯を懐に隠してしまう。戻ってきた狭山を、赤は素知らぬ顔で迎えた。


 そういえば携帯どうしたっけ。という狭山の疑問にも、赤は涼しい顔で、さぁ知らないが。と返すのみだ。もちろん鳴らしたところで返事は二度と帰って来ない。


 いい加減携帯を探す狭山が鬱陶しくなったのだろう。少し眠ると言って赤は横になる。熟睡など出来る筈もないが、気を張り続けるのも良くない。赤は休める時に体を休めようと気を落ち着かせた。


「それじゃ、僕は居間にいるから何かあったら呼んで。欲しいものがあれば買いに行くし」


 赤の素っ気ない返事を確認すると、狭山はひと息して部屋を出る。今日は暇を持て余しそうだ。ノートパソコンを手にリビングに向かい、どさっとソファに腰を下ろす。ネットを立ち上げると、紗希とのデートコースを練り始めた。



 ある程度時間を於いて、狭山は様子を見るように心掛ける。何度目かになる訪問に、赤はむくっと起き上がって応対した。


「……その、朝に食べたものはあるのか?」


 顔は上げているものの、視線を外す赤。狭山はきょとんとしてしまう。数秒遅れて、昼時だからかとようやく得心した。


「気に入ってくれたの?」

「いや……ただまあお腹は空いた」

「了解」


 何故意地を張るのかは分からないが、狭山は嬉しい気持ちでクスッと笑う。一人暮らしである身分では、誰かに作るなんてことはまずない。上手く作れたのもあっただろうが、女性のお墨付きというのは確かな手応えを感じる。

 デートの時にでも作っていけば、サキリンも喜んでくれるだろうか。それとも、サキリンも意地を張ったりするのだろうか。学校の様子から予想出来ずにいることが、狭山は楽しみで仕方なかった。


 朝の分は残っていない為、狭山は期待に応えられるよう、昼食も腕によりをかけた。出来上がった野菜炒めにも、赤はパクパクと口にする。流石と言うべきなのか。瀕死に陥った怪我などなかったかのように完食してしまう。


「どうだった?」

「ん、まぁ……食べられるものだった」

「そりゃ良かった」


 口にソースを付けていた赤に、ティッシュを渡す。狭山はその折、もしかしてこれが所謂ツンデレって奴なのかなと思う。


 狭山も昼食を取って片付けを済ませると、あとはもうゆったりとした時間が流れる。そのまま一日が終わるようにも感じたが、思わぬ来訪者でそれは叶わないようだ。

 紗希たちである。


 その時も狭山はリビングにいた。まず一人でいた赤が、訪問に気付いた。


「っ……」


 連絡手段は絶った。それでも他に方法があった可能性もある。赤は仲間を呼ばれたのかと、部屋から抜け出そうと試みる。勢い良くベッドを飛び退いたせいだろう。音に気付いた狭山が再び部屋に押し掛ける。


「どしたの?」

「仲間を呼んだのか」

「え? いや誰も呼んでないけど」


 疑いを持たれる狭山。そんな折にインターホンが鳴った。


「ちょっと待ってて」


 誰だろうと狭山が気に掛ける。音を立てないように、慎重に玄関口に進んだあと、狭山はドアの穴を覗き込んだ。見えたのは庵藤と紗希に違いなかった。

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