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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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4:交差Ⅱ

「処刑人って知ってる?」


 そう言われて、私は呼吸が止まった。何故、そんな言葉が出てきたのだろう。魔界の住人との関連を疑った私でも、狭山の口から紡がれた言葉は、予測の範疇を大きく超えていた。


 いったい何処から。いったい誰から。何故そんなことを。たった一つの言葉から、私の中で疑問が一気に膨らんだ。それでも、狭山の意図が分からない以上、迂闊なことは言えない。悟られることもないように、私は誤魔化した。


「処刑人って、あの死刑とかの?」

「……」


 一般的なイメージをそのまま口にする。狭山の表情はうまく読めない。今の私に、そんな余裕がなかったからかもしれなかった。


「いや、知らないならいいんだ。ただ……そう呼ばれてる人がいるらしいって聞いたからさ」

「誰に……?」

「……知り合いにだよ」


 私と同じように、狭山も余計なことは言わないつもりのようだ。ただの知り合いなわけがない。十中八九、魔界の住人に関与していると思う。狭山が言う知り合いが、魔界の住人ではなく、新たな執行者の可能性も捨て切れないけど、この場合、最悪の状況を想定するべきだと思う。


 いずれにせよ、狭山が魔界の住人と何かしら繋がっているのは確定したのだ。

 訊きたいことがまた増えたと感じる。狭山の口をどうにかして割るしかない。


「今度はこっちの質問に答えて。早退した本当の理由。それに、昨日休んだ理由も」


 誰から処刑人のことを聞いたのかも尋ねたいところだが、処刑人について知らないと言った手前、憚られる。そのことまで詮索して、余計な疑いを持たれるわけにはいかない。だからまずは、狭山も承知している質問をぶつけることにした。


「何でサキリンは、そんなことが気になるの?」

「狭山がいつもと違うから」

「……そうだね。確かに、らしくないかもね」


 そう言って狭山は自嘲気味に笑う。大きく深呼吸した後、重い口をようやく開いた。


「話すよ、全部。ちょっと、信じられないような話だけど」


 魔界の住人に関わるものであれば、そうなるだろうと思う。今更何を言われても驚くつもりはない。問題は、狭山がどう関わってしまったのかだ。


「話してみて」


 私は了承するように、その先を促した。





 思い切って紗希をデートに誘った日。紗季と別れた後、狭山は軽やかな足取りで帰路を辿った。理由は至極単純である。想定していたよりも、紗希の返答が全面的な拒否ではなかったことだ。少し自分に良いように解釈してしまっているかもしれないが、要は望みがあるかもしれない。

 そう考えると、どこまでもポジティブ思考が働く。まさか、映画だけで終わるとは思いたくない。集合してから昼食、映画を見終わったあとの予定まで。まだ不確定ではあるが、紗希と楽しめるように、その日の計画を念入りに練っていた。


 頭の中で巡らしながら帰宅すると、狭山はリビングに入ると鞄を投げる。鞄はソファに吸い込まれてどさっと収まった。いつもと変わらない所定の場所だ。そのまま奥の部屋へと進み、制服のボタンに手を掛ける。入った部屋は寝室だった。同時に、狭山の衣服を置いている場所でもある。一人暮らしであるが故に、悠々と部屋を活用していた。


インナーも着替えて、ジーンズを履く。すっかり寛ぐ格好に着替えた狭山は、再びリビングを通ってキッチンに向かった。冷蔵庫を開け、缶ジュースのプルタブに指を掛けながら冷蔵庫の中身を物色する。


「あ、ろくなものが残ってないな」


 帰り際にでも買い物に寄るべきだったと、喉を潤しながら後悔の念を募らせる。一人で暮らしているとなると、当然自炊も自分でしなくてはならない。比較的簡単な献立を想定すると、必要なものをメモに書き留める。二度手間ではあるが、上だけマシなのに着替えた後、狭山は買い物に出掛けた。


 自転車に跨がり、向かうのは駅前のショッピングモール。其処には大概の物が揃うから楽だ。ついつい色んな物を見て回り、狭山が買い物から帰る頃には、空はすっかり暗くなっていた。


 暗がりの中で家に戻る。二度手間にはなってしまったが、あとはいつもと変わらない。テレビをつけて音を流し、夕食に取り掛かる。慣れたもので、効率良く献立を仕上げていった。


「……!」


 その時である。テレビの音も鳴る中で、一際大きな音がベランダから聞こえた。何かがぶつかったような音だと狭山は思う。コンロの火を止め、テレビの音も消して、気配を探る。


 同じ大きな音は続かなかったが、代わりに妙な音が耳に届く。何かいるのか。こんな高い階数に泥棒というのも考えにくい。しかし、用心に越したことはない。念のため、中学の時、修学旅行で買った木刀を手にして、狭山は音の出処へと歩を進めた。

 ベランダに繋がる部屋に入る。意を決して電気を灯した。


「……気のせいか?」


 見てみれば何の事は無い。いつもと変わらない。自分の部屋だ。ベランダの外も、何の変哲もないようだ。何か聞こえたように感じただけか。それとも、たまたま近くで音がしたように聞こえただけか。

 異常はなかったと、狭山は戻ろうとした。このまま何もなければ大人しくきびすを返していたに違いない。


 実際は、再度同じように妙な音が聞こえた。何かがぶつかっているような音。そして、何か呻くような声だ。


 やはり何かいる。狭山は思い切ってベランダに飛び出す。部屋の明かりである程度視認出来た。


「何……だ、これ……」

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