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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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3:疑惑Ⅶ

 ギリッと、庵藤は歯痒い感情のまま噛み締める。それでも、私は庵藤の訴えに応えることは出来ない。


「ごめん、それも……」

「言えない……か」

「私に任せてもらえないかな」


 随分勝手な物言いなの自分でも痛感していた。けれど……。


「……分かった」


 間違いなく、了承の言葉だ。私が説得して、言わせたようなものなのに。庵藤から紡がれた言葉は、私にも深く突き刺ささる気がした。


「正直納得はしてない。けど、俺が行ってもあいつの顔見たら、らしくないって怒ることしか出来ないだろうからな」


 強く握った拳を、ほんの少し緩めていた。緊張が僅かに緩むと、庵藤はそう呟く。そして、少しだけ笑った。


「ありがとう」

「けど、ちゃんとどういうことか聞かせてもらうぞ」

「え……と、それは……」


当然の言い分だった。せめてそれくらいの要求は呑んであげたいところではある。けど……言える内容なのか分からない現状だ。さすがに何て言ったらいいか迷ってしまう。


「神崎の考えが合ってたらでいいさ。まだ何も確定してないんだ。俺だけ知らないってのが嫌なだけだから、そんなに気にしなくてもいい。もちろん、啓介の口を割るのが一番手っ取り早いけどな」

「……そうだね」


 気を遣わせたしまった。めちゃくちゃなことを要求してしまったけど、とりあえず庵藤は言う通りにしてくるようで有り難かった。


「場所。覚えてるか?」

「うん。大丈夫」


 十中八九、狭山の家のことだと思う。昨日のことだし、それに関しては問題ない。その後、マンションまでついて行かなくていいか? とも心配された。最寄駅からは確かに迷ってしまったけど、今はしっかりと記憶していた。


「それも大丈夫だよ」

「……そうか? 何かあったらまずいから、一応連絡先交換しとくか?」

「……あ」


 そこまで言われてようやく気付く。てっきり、ちゃんと辿り着くか気にしてるんだと思ったけど。そうじゃないらしい。要は、私一人で狭山の家に行くことが、ということだ。女子一人で男子の家に行くという事実を心配しているんだと思う。


「……何だよ」

「ううん、心配してくれてるんだなって。ありがと」

「……ほら、早く携帯出せよ」

「あ、うん」


 何故か妙に急かされてしまう。よく分からないままに促されて、携帯を取り出す。けど、空メールを送ってる途中で、何となく察して顔が熱くなる。学校の校門で携帯番号の交換って何だか変な感じだった。というか、時間は昼だけど皆下校してるから、ずっと横目に見られてた。


 最後は何とも言えない感じになってしまったけど、とりあえず庵藤は、狭山の家に向かわずにいてくれるようで安心した。庵藤とは別れて、私は急いで狭山の家に向かう。ただその前に、学校の屋上を見上げる。それから、駅へと歩き出した。


 駅までの道のりに、私の前を黒い影が横切る。リアちゃんだ。校門前にいた私に気付いて追い掛けてくれた。


「私もついて行けばいいんだよね?」

「うん。気付いてくれてありがと」


周りにはまだ下校してる生徒もいる。ごく自然に、それこそ猫っぽく出て来てくれて助かる。たまたま現れた野良猫を可愛がるように、私もしゃがみ込んで誤魔化す振りを行う。


「それで、何処行くの?」

「クラスメートの家にね。もしかしたら、魔界の住人と関わってるかもしれないから」

「……つまり、敵陣に乗り込むの?」


 う……。明らかにリアちゃんの声が冷たい。いったい何を考えてるのか。と責められていた。


「敵陣なら私も嫌だけど、ちゃんと確かめないといけないと思うの。それに、もし本当に魔界の住人なんだとしたら、助けないと」

「……確かめるだけなら私だけでもいいし。魔界の住人なんだとすれば、それこそ執行者の仕事なんだから、連絡して頼めばいい。紗希がやる必要はない」


 最もな正論を言われてしまう。今までと違って、直接巻き込まれたわけじゃない。今なら、執行者のクランツに頼ることも出来る。それなのに、自分から行く理由があるのかと。

 いや、 私が行く理由はある。


「行くよ。私を狙ってきた魔界の住人なんだから、関係ない人を巻き込みたくない。それに、危険が迫ってるかもしれないなら、私にだって出来ることをしたい」


「……はあ。分かった。前から紗希の頑固さは知ってたし」

「うぅ。ごめん」


 私の我儘を、リアちゃんにも付き合わせているのは間違いない。だから、リアちゃんに言われると居た堪れなくて、何も言い返せなかったりする。


「いいよ、謝らなくても。それにその方が紗希っぽい」


 それって頑固ってことになるのか。それとも我儘って言われてるのか。どっちも良くはないよね。


「ううん、褒めてる」


そう言うリアちゃんだけど、絶対に嘘だと思う。反論したい気持ちになるけど、お願いしている側の私は甘んじて受け入れることにしよう。


「むぅ、ちょっと腑に落ちないけど。でもじゃあ、念の為私について来てくれる?」

「うん。分かった」


 リアちゃんの了承も取れたし、これで狭山の家に行く勇気も出てきた。私が立ち上がって歩き始めると、リアちゃんが後に続いた。

 けどどうも、周りの視線が気になる。確かに首輪もない黒猫がついて歩いてたら目立つのも仕方ないかもしれない。少し悩んだ末、やっぱりリアちゃんとは駅で合流ということで落ち着いた。

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