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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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3:疑惑Ⅴ

 むぅ……と考えてしまうが、そうしてるうちにリアちゃんはもう戻ってきた。


「ただいま。一応見回ったけど、それっぽい人はいなかった。怪我をしたという人も、魔界の住人も」

「そっか。ありがとう」

「ううん、これくらいお安い御用」


 そうなると、怪我をした人自体、本当にいたのか疑いたくなるくらい、忽然と消えたことになる。いや、実際に血が残っているわけだし、今学校内では部外者が彷徨っている為、待機するようにとの指示が実際に出ている。少なくとも、学校とは無関係で、血を流していた人は確かにいたことになる。

 それが短時間で居なくなってしまったということは、やっぱり魔界の住人と思っていいのか。そこまで考えたあと、そういえばとリアちゃんに尋ねる。


「リアちゃん、そういえばギルは? 今日は見てない?」

「見てない。屋上にもいないし。今日は私に紗希を任せるって言ってたけど」


 今日は学校にはいないのか。リアちゃんがいるから問題はないのだけれど、ギルの意見も聞きたかったのが本音だ。報告しとくべきとも思うが、魔界の住人かもしれない人が怪我をしているとなれば、処刑人であるギルの仕業の可能性もある。


「怪我をしてるってのが気になるけど、処刑人、もしくは執行者かもしれない」

「うん、私もそう思う」


 リアちゃんも同じ事を考えていたみたいだ。ただの怪我人がすぐに動けるとも思えない。リアちゃんの捜索からも逃れたということは、やっぱり魔界の住人だったんじゃないかと思う。そうなると、怪我というのは処刑人であるギルか、もしくは執行者であるクランツに負わされた怪我の可能性が高い。二人には一度確認を取らないといけなさそうだ。


 さっそく、クランツには携帯でメールを打ち込んだ。学校で起きた騒動と、昨日今日で魔界の住人と戦ったかどうかだ。あとはギルの方であるが、携帯があるわけないし、直接連絡の手段はない。今日の夜あたりにでも戻ってくることを願うしかない。


「紗希、とりあえずどうする?」

「う~ん、私は教室に戻ってみる。すぐ戻るようにも言われてるし。現状手掛かりもないからどうしようもないしね」

「分かった。じゃあ私もいつも通り待機してる」

「うん、お願い」

「まかせて」


リアちゃんはそのままシュタッと跳ねて行ってしまった。さっきよりは目に見えるあたり、猫に似せた動きなのかもしれない。まあ普通の猫は、木のてっぺん、校舎の三階の窓の淵、屋上なんてルートはどうあっても無理なんだけど。


 四限の授業のチャイムが鳴ってしまったので、私も急ぐことにした。通常通り授業を行うかは分からないけど、それだけ時間が経ってしまっていることはまずい。上靴のまま外に出た為、靴は泥だらけだ。入り口で泥を落とし、靴下の状態で校舎に入って水道口で水洗いして何とか大丈夫だと思う。



「コラァ!」

「ひうっ」


 教室に着いた途端、赤城先生の怒声が飛んできた。ある程度怒られることは予想はしたものの、予想以上に先生は怒っていた。


「幾ら何でも遅過ぎだ。いつもの遅刻癖か!」

「ご、ごめんなさい」

「ったく、以後気をつけろ。あまり心配させるようなことはするなよ」

「は、はい」


 諭されるように言われると申し訳ない気持ちになる。ただ、魔界の住人に関連することだとそうも言ってられない。もしまた似たようなことことがあれば、うまくやらないと。軽いお説教が終わって自分の席に戻ろうとすると、先生から疑問を投げ掛けられた。


「あ、あと神崎。狭山の奴知らないか?」

「え……?」


 耳を疑う。言われてからようやく、狭山の姿が教室にないことに気付いた。


「戻って、ないんですか」

「ああ、まだ戻ってない。待機の指示が出てるのに何処に行ったんだ、あいつは。ちょっと見てくるから、お前らはちゃんと此処で待っとくように。いいな」


 そう言い残して先生は駆け足で出ていった。教室内は、先生がいなくなったのを契機に、がやがやと騒がしくなる。本来四限の授業時間であるが、待機命令の為に休業状態だ。教室に残ることになっても、大人しくジッとしているわけはない。


「おかえり紗希」

「うん、ただいま」


 席に戻るより先に、加奈が迎えてくれた。騒ぎが起こった時はいなかったけど、私より先に戻っきたみたいだ。加奈に続いて優子も席を離れたようである。


「紗希、どうかした?」

「え、そんなことないと思うけど」


 優子から気遣われてしまう。何とか取り繕うものの、自分でも何が原因かは、はっきりしていた。


「ねえ、狭山が戻ってないって本当なの?」

「戻ってないわね。私が戻った時にはいなかったし」

「うん。急に教室を飛び出した時から、まだ戻ってないよ」


 どういうことだろう。てっきり私の方が戻るのは後になると思ってたけど。そして、教室を出て行った時の狭山を思い出す。もしかして、さっき私と会った時は冷静に振る舞っただけで、まだ何かあったのか。もしかすると、怪我した人というのはあの辺に隠れていたとか。

 そこまで推察してみるものの、自分の考えが酷い邪推だと思えた。あの辺は私自身が探したし、リアちゃんも学校中を見回ってくれたのだ。少なくとも今はもう、怪しい人はいないはずだ。

 いやでも、狭山はそのことを知らない。リアちゃんが来てくれたから、私もまだ早めに戻って来れたけど、私一人ならまだ探している途中だと思う。ひょっとして、狭山だってまだ探しているかもしれない。だとしたら私も伝えに行かないと。どうしていないと分かるのか伝えるのはかなり困難ではあるけど、それは後で考えるとしよう。


「あのさ。二人にお願いがあるんだけど」

「何?」


 優子も加奈も、何だろうと不思議そうな表情だった。再び教室を出る羽目になるのだから、先生に怒られる可能性もある。何とか二人に、誤魔化すのを手伝ってもらいたいと思って申し出る。加奈にも怒られるかもと思いながら、私がその内容を口にしようとした時だ。


「はあぁ!? 早退!?」


 クラス中に響く。廊下にも突き抜けるくらいの大声で、庵藤が怒りを露わにしていた。びっくりしてクラスの皆も、庵藤に注目する。そんな様子に気付いた様子はなく、庵藤は変わらず、携帯での電話相手に声を荒げていた。


「いったいどういうつもりだ!? 大体いきなり飛び出して、今帰ってるってふざけてんのか!?」


 まさかとは思う。このタイミング。庵藤が電話している相手。そして早退という言葉。クラスの誰もが動きを止める中、私は庵藤に素早く駆け寄る。


「謝ってもらっても意味がわかんねぇよ。とりあえず戻って来い! おい! もしもし! くそっ!?」

「庵藤。電話誰?」

「啓介だ。もう切られた」

「……電話なんて?」

「ただ一方的に、気分が悪くなったから早退するんだそうだ。そんでごめんって謝られた」 


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