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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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3:疑惑Ⅳ

 校舎の一階まで一気に駆け下りる。体育館の裏となると、外靴に履き替えることになるが、私は昇降口とは逆のほうへと向き直す。


 降りた階段の位置から、昇降口に行くより直接体育館の方が近いくらいだ。靴を履き替える時間も惜しいと思い、上履きのままになってしまうが、構わず裏へと回った。


 その途中、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下に、妙な色の跡を見つける。赤黒い液体。それが砂利道にまで及んでいた。臭うまではいかない量ではあるけど、学校に存在しているものとしては、普通ではない光景だった。固まってはいないので、比較的新しいものであると推察出来る。


 体育館の外角を曲がり、体育館裏へと差し掛かる。そこに、見知る人物がいた。私より先に教室を走り出した狭山だ。

 そこは、少しだけ血だまりが出来ていた。体育館の壁から地面にまで付着していて大きな跡となっている。狭山はそれを目にしたまま、動かないでいた。


 じゃり……という砂を蹴る音に反応して、狭山は振り向く。


「サキリン。何でここに」

「そっちこそ。いきなり教室飛び出してったからびっくりした」

「あ、えっと、つい好奇心に駆られて……」


教室での自分の行動を思い出したんだろう。まずかったなと思っていることが見て取れた。狭山の普段を考えるなら、確かに好奇心に駆られることは珍しくないと思う。そんな可能性は十分にある。


 けど、今回はそうじゃない。明らかに普通じゃなかった。恐らくではあるけれど、狭山は嘘を口にしている。


「怪我してたって人はいたの?」

「いや、僕が来た時にはもういなかったよ」

「そう……なんだ」


 確証までには至らないけど、疑念は確かにある。今、追及したい気持ちを、私は無理矢理抑え込んだ。


「もう戻ろうか。授業出ないといけないし」

「狭山。聞きたいことがあるの」

「何?」


 と、尋ねる狭山からは表情が消えていた。少し、含みのある狭山が怖くなる。それでも、やっぱり私は聞かないといけない。


「昨日のことも含めて、隠してること全部」

「ないよ何にも。隠してることなんて」


 やんわりと、否定してきた。柔らかな表情に戻った狭山に、私は、はっきりと言葉にして伝える。問答をしてる場合ではなかったから。


「……後で聞かせて。お願い」


 そして私は、返事を聞く前に駆け出す。


 尋ねたいことはたくさんあった。昨日休んだ理由。教室で何に反応したのか。そして、怪我をしたという人に、本当に会わなかったのか。いきなり飛び出して行ったわりに、随分と落ち着き払ったようにも感じた。


 その様子の違いから、私が来る前に何かあったんだと思う。自分の中で昨日にはなかった、濃厚な疑念が生まれていたのは確かだった。


 それでも今聞き出さなかったのは、怪我をした人を優先した為だ。近くにいるのは間違いなさそうではある。


 問題は、何者なのか。それをまずはっきりさせたい。


 人間の可能性もあるが、もし魔界の住人であれば、絶対に放置するわけにはいかない。負傷しているとはいえ、目的が分からない以上、誰かが巻き込まれ、被害に逢う可能性は十分にある。


 手掛かりはほぼない。血の跡は体育館周りに見られるだけで、辿れそうにはない。あとはもう、血だらけなのであれば、誰かが目撃していないか、手当たり次第に走り回るしかなかった。


 周辺を探索したものの、見つけられない。怪我をしているのが確かであれば、比較的動きは遅い筈だ。

 いや、でももし魔界の住人だったとしたら? 負傷していたとしても、私より速いだろうか。


 色々な可能性を想定しながら、私は駆け抜けた。三限終わりの時間だけあって、周辺には誰もいなかった。教室での待機という指示を守っているのもあると思うけど。

 もう近くにはいないのか。グランドや中庭の方に向かうべきか。次の探索場所へと考えをシフトした時、私の前に黒い影が降り立った。


「紗希。何かあった? 何だが騒がしいみたいだけど」


 何処から飛び降りたのかは分からないけど、華麗に着地したのは黒猫姿のリアちゃんだった。きょとんと首をかしげるリアちゃんに、私は手短に事情を話した。もちろん、近くに人がいないか確認した後にだ。


 事態をいち早く理解してくれるリアちゃんだが、私の話す内容に疑問を抱いていた。


「紗希を疑ってるわけじゃなくて、それならそれで分からないことだらけだから」


 目的は見当もつかず、街に潜伏しているのに動きがないことに加えて、今回のことだ。何故学校にいるのか。何故怪我を追っているのか。


「分からないことだらけだけど、兎に角その怪我人ってのを探してみる。紗希は此処で待ってて、私が全力で走った方が速いから」

「うん、お願い」


 僅かに風が流れたのが分かる。リアちゃんは小さな体を屈めた。駆け出すのかと思うと、リアちゃんは顔だけ振り向く。


「すぐ戻るから。此処で待っててね」

「う、うん。分かった」

「絶対だからね。絶対動いちゃ駄目だからね」

「う、うん」

「怪しい人がいてもついてっちゃ駄目だからね」

「も、もう分かったってば」


 そこまで念押ししてから、ようやくリアちゃんは風になる。もう見えなくなってしまったけど、私は何だが腑に落ちなかった。私そんなに信用ないかな。

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