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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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3:疑惑Ⅲ

 狭山の復帰もクラスに浸透し、いつもと変わらない学校生活の風景が続く。だけどそれが、昼前、ちょうど三限が終わった頃に霧散した。突如、クラス内に響いた一声が契機となる。


「おい! 何か怪我人がいるらしいぞ!」


 同じクラスの男子が、休憩時間に教室に戻ってきて最初に放った一言だ。元々騒がしかった教室内だが、全員怪我人というワードに反応した。その場にいた私も、当然その内の一人となる。


 学校内となると、体育で何か怪我したのか。美術で彫刻刀でも扱っていたのか。ある程度想像は出来る。けれど、戻ってきた男子の様子から普通じゃないことが伺えた。


「怪我人って誰が」

「そこまでは分かんなかったよ。生徒じゃないみたいだけど」

「ってことは先生?」

「いや、それが学校の人じゃないみたいだ。それより普通の怪我じゃねぇんだ。見た奴が言うには血だらけだったって」


 学校の人間ではない者が、血だらけで発見された。それだけで、クラス内の喧騒はさらに大きくなる。ここのとこ頻発する事件のせいだろう。またもや何かの事件が起きたのか。犯罪者が侵入したのか。色々な推測が飛び交った。おそらくこの中で、私一人だけが違うことを考えている。思い当たるのは一つしかない。まさか、魔界の住人なのか。


「血だらけって何か怖いんだけど。何があったのかな」

「優子。ちょっとごめん」

「……紗希?」


 休憩時間の雑談中だった優子が声をかけてくれるが、私は席を離れるところだった。優子には悪いけど、魔界の住人の可能性がある以上、一刻も早く現状を把握しないといけない。


 騒がしくなったクラスメートの波をくぐって、血だらけと口にした男子のもとへ駆け寄る。声をかけるその手前、私が辿り着くよりも先に蛮声が飛んだ。


「何処で見た!?」

「え?」


 私も、情報を持っているであろう男子も、いやクラス中に響いた声に皆が驚いた。調子良くふざけることはあっても、怒ったところなど、まして声を荒げることなど見たことがない佐藤だった。今にも男子に掴みかかるかの勢いで迫っていた。


「お、俺が見たわけじゃないんだ。聞いただけだが、体育館裏にいたそうだ」


 同じクラスメートだが、狭山の今までにない様子に男子は気圧されていた。それでもゆっくりではあるが、何とかその答えを口にする。その途端、狭山は何も言わずに教室を飛び出してしまった。後に残るのは狭山のただならぬ様子に、いったいどうしたんだ?という答えのない疑問と不安だけだった。


 私にも分からない。何で狭山が飛び出したのか。何か思い当たることでもあったのか。それにしたって、血だらけの怪我人ということに反応するのはどう考えてもおかしい。いや、考えたところで分かるはずもない。とにかく追いかけないと。突然の事態に少し戸惑ってしまうが、自分が今するべきことを優先するべく足を動かした。

 私も狭山のように、教室から出たところで赤城先生と鉢合わせになる。


「何処行くんだ神崎。ちょっと戻れ」

「あ……」


 先生に止められ、行く手を阻まれてしまった。


「お前らよく聞け! 次の四限は自習になるから教室で待機しとけ。いいな! 他に戻ってない奴がいたら伝えてくれ」

「先生何があったんですか」とクラスの女子が尋ねる。

「俺も詳しいことはまだ何もわかってはいない。とにかく、今は教室で待ってろ」


 さっきの怪我人の話が本当なのか。その疑念が強まり、クラス内はさらにざわつく。私も、此処に留まっているわけにはいかないという思いが強まった。赤城先生が静かにしろと皆を抑えていた隙に、私は廊下に駆け出した。


「あ、こら神崎何処行くんだ。戻ってこい」

「えと……、トイレです!」

「急いで戻れよ!」

「分かりました!」

 

 多分それは無理です。と内心謝りつつ、私はさらに足を前に踏み出す。廊下に出てみれば、どの教室も様子は同じだった。いち早く情報が伝わり、見に行こうかなどと、興味を示す教室もあれば、先生が待機しろと釘を刺しているところもあった。


 私はその様子を横目に廊下を走り抜ける。真っ直ぐ向かうは体育館裏だ。まずはそこに行ってみる。恐らく狭山も同じ場所を目指してる筈だと私は考えた。

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