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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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3:疑惑

「行けたら行くよ」


 随分と歯切れが悪い。およそ似つかわしくない狭山がそう言ったのは、昨日のことだ。何か思うところがあるのだろうとは思うが、無事であることが確認出来た私は、それ以上追求しようとは思わなかった。


 気にならないと言えば嘘になる。魔界の住人に関わっているとするなら別ではあるけど、そうでないなら、無理な追求は気になる以上に、気が引けるというのが正直なところだった。


 だが何のことはなく、学校に顔を出してみると、狭山はいつも通りに登校していた。ちょうど、下駄箱から上履きに履き替えているところだった。


「おはよう」


 自分でも珍しいとは思うが、狭山に声をかけてみた。


「あ、おはよ」


 にこっと笑みを浮かべるが、狭山は何処か落ち着かない印象だった。学校には来たものの、何か抱えているのか、心はここに在らずといったように感じる。


「昨日はごめん。折角来てくれたのに追い返すようになっちゃって……。来てくれたのは、素直に嬉しかったんだけどね」

「そんなに、気にしてないよ。誰にだって話せないことはあると思うし、たまたま都合が悪いなんてこともあると思うし」


 気にしていないのは本当のところではあるが、自分で言いながら思う。まるで自分自身に対してへの言い訳だ。


 魔界の住人に関して、誰にも言えないのは間違いない。けれど、友達にも家族にも、偽りを続けていることもまた事実だった。


「ん~、まぁ今はそう言ってくれたほうがありがたいかな。僕もまだついてってないところがあるし」


 詳しい事情が分からない私はもちろんだけど、当事者である狭山にも分からないとはどういう意味だろう。

 何かあったのはおそらく間違いない。気にしていないとはいったもののの、そういう言い方をされればやはり気になってしまう。

 やはり追求してみようかとしたところ、勢いよく庵藤が現れた。


「あ、この馬鹿。一応今日は来たんだな。昨日はどういうつもりだ?」

「いきなり朝から馬鹿は酷いぞ。サキリンにも言ってたんだけど、昨日に関してはあまり訊かないでほしいな」


 庵藤は私を視界に留める。私にも同じ事を言ったと言われたことで何か思うところがあったのか。いや、言葉にはしなかったものの、庵藤の表情が語りかけていた。神崎はそれで納得したのか?と。


「やっぱり話せないようなことか?」

「まあ、そうだね。それに……」


 狭山はそこで言葉を切る。少し顔を俯かせた。


「それに……何だ?」

「いや、多分信じてもらえないだろうからさ」


 顔を上げた狭山は、困ったように笑みを浮かべていた。どうも歯切れが悪い。学校に顔を見せたとはいえ、いつもの狭山らしくないと感じる。そう思ったのは、やっぱり私だけじゃないみたいだ。


「そんなの言ってみなくちゃ分からないだろうが」


 少々憤慨しているようにも感じる口調で、庵藤は狭山にその内容を促す。だが、狭山にも思うところはあるようだった。


「そうだね。実際に口にしないと分からない。伝わらない。それは承知しているよ。充分なくらい、昔に思い知ったから。でも、この件はやっぱり言えない。今は駄目なんだ。これは僕の問題だと思うから、まずは自分でケリをつけないといけないと思うんだ」

 

 一転して、狭山はまっすぐに見据えた。戸惑っていた様子はなくなり、今はもう吹っ切れたようだ。迷いはなく、決意したかのように放った言葉は確かに力強かった。

 しかしそうなると逆に、庵藤のほうが戸惑いを見せる。そして大きな溜め息をついた。


「ったく、そう言われるとこっちは何にも言えなくなるだろ」

「あはは、ごめん。まぁそうなるように言ったんだけど」

「だろうな。お前は馬鹿やるわりにはそういうところは抜け目ないからな」

「さすが俊樹。よく分かってる」

「嬉しそうにすんな」


 狭山の思惑に嵌り、庵藤としてはしてやられた思いだろう。お返しとばかりに一発、狭山の頭をはたくと、庵藤は「先に行くぞ」と教室に向かってしまった。


「イッテ、あいつも手加減を知らないよな」


 はたかれた頭を擦りながら狭山は愚痴を零していた。だが、嫌そうな顔はしていない。

 確かに自分を心配してくれていること。自分の言葉を信じてくれていること。そのことを実感出来たからこそ、隠し事をしてしまっている戒めで、はたかれたところで問題はない。


 それが私にもよく分かる。共感した。というより、まさに自分のことでもあったからだ。まるで、優子や加奈に言えない私自身を見ているようだった。

 だったら私も、これ以上訊くことは出来ないと思う。


「とまぁ、一応そういうことだから、サキリンもごめん」

「まあ別に私は、元からそんなには気にしてないけどね」

「そう? 全くっていうのもそれはそれで寂しい気もするけど。今はそれでいいや」


 砕けた表情はいつものそれに近くなる。けどそれが逆に、吹っ切れたようにも思えたはずが、取り繕っているんだなと感じた。


 周りに、出来るだけ心配はかけまいと踏ん張っている。今日さっそく来たのも、そう思ったからこそなのかもしれない。狭山のこういうところは、素直に見習おうと思った。



「んじゃまあこの件はこれでおしまいということで、教室に行こっか」

「ん、そうだね」


 あっさりとしたもので、狭山はいつものように振る舞う。自分で納得したのであれば、私から言うことは何もない。とりあえずは丸く収まったようなもので、良かったと思う。


「えへへ。教室までだけどサキリンとの登校デートだね」

「はあ!? そんな恥ずかしいこと言わないでよ。あとまたサキリンって言ってるし」

「だって事実だし。良かったら手を貸しましょうか」


 狭山は何故か得意気に掌を差し出す。一瞬何のことやら分からなかったが、遅れてようやく理解する。これ自分が手を繋ごうとしてるだけじゃないのか。理解してしまうと、妙に顔が熱くなった。いやいや、どうも調子が狂う。


「いらないし。先行くからね」

「ははっ、つれないな」


 先導する形になり、教室に向かう。扉を開けて中に入ったすぐあとに、狭山も扉をくぐる。


「お、復活した途端、珍しく仲良く登校か?」


 先に来ていたクラスの男子が、私と狭山を目にして茶化してきた。


「へっへー。いいだろ。やっぱり僕がいないとサキリン寂しいってさ」

「調子にのるな!」

「ぐふぉっ!」

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