表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
234/271

2:不穏Ⅵ

 ただ寝ているだけか。それとも何処か出掛けてしまっているのか。


「やっぱ出ないな。仕方ない」


 諦めて今回は帰るのか。中に入れないのでは確かに仕方ない。私の方の用件としては、非常に心許ない状況ではあるが、庵藤の手前、此処は一旦大人しく帰るべきだと思う。なのだけど、庵藤はきびすを返したりせずに自分の鞄を漁り始めた。


「な、何するつもりなの?」

「何をって。中に入るんだよ」


 さも当たり前のように庵藤は言いのける。何やら庵藤は丸く巻いた黒いものを取り出す。それをある程度広げると、ぎっしりと私には分からないものが中に差し込まれていた。いや、幾つかは分かる。ペンチだったり、ハサミだったり。庵藤が直ぐ様抜き取ったのは短い二本の針金だった。

 そして驚くことに、その針金を鍵穴へと突っ込んだのだ。神妙な顔つきで、庵藤はかちゃかちゃと音を立てる。余りに常軌を逸した行動に、私は一瞬途方に暮れるばかりだ。これはやはりピッキングと呼ばれるものだろう。鍵自体がなくとも鍵を開けてしまう、犯罪のテクニックである。


「ほら開いたぞ」

「えぇ?」


 止める間もなく庵藤はあっさりとこじ開けてしまったようだ。何という早業。というか何故手慣れているんだろう。


「何か犯罪じみたことでもやってた?」


 思ったままの疑問を私は口にする。するとどうだろう。庵藤は酷く心外だとでも言いたげに、驚いた表情になった。


「いきなり何なんだ。やってるわけないだろ」

「いやでも、そんなこと普通やらないっていうか、普通出来ないんだけど」


 そもそも家の主が不在かもしれない。その確認のためにじゃあ開けるかという発想もおかしいと思う。私の言い分に多少納得する所があったようで、少しだけ間を措いた。だけど、すぐに庵藤は取り繕う。


「まぁ、昔ちょっとな……」

「いやいや、そんなとこで濁さないでよ。余計気になるでしょ」


 いいだろその話はと、もうこれ以上話したくないのか、話を取りやめてしまう。正直それだけでは、こっちは全く分からないままだ。とりあえず開いたんだからと、庵藤は構うことなく扉を開けようとしている。

 

「でもこれって住居侵入だよね?」

「ん? あぁ。勝手に入るのはいつも通りだ。一階にある郵便受けに合鍵がいつもは入ってるからな」


 外出するしないにかかわらず合鍵はいつもあるはずだが、今日はなかったとのことだ。

 それって、事前に入れないように策を講じたってことなのかな。内心疑問に思いつつも、普段から入り慣れているなら、そこまで問題はないように思う。そう思って庵藤に続こうとした矢先だ。


「うおおおおおおっ!?」


 扉を開けた途端、悲鳴にも近い声が木霊した。それは部屋の住人である狭山に間違いはなく、その急な現れ方に私はびっくりしてしまう。その束の間に、狭山は中からドアノブを持って力いっぱい引っ張っていた。


「ストップストップッ!? 何でいきなり開いたんだよ!」


 鍵も開けてないはずなのにと、突然開かれた扉に酷い狼狽っぷりだった。


「え? 何で閉めるの?」

「いたなら何で出てこなかったんだ。つうか開けろ」


 一応元気そうではあるものの、様子が変(いつも以上に)であることは気掛かりだった。庵藤がドアを開けようとする一方、狭山は閉めようと互いに引っ張り合いになってしまっている。


「いや今はマズいんだ。ちょっと自分でもよく分からない状況にいるもんで、説明もどうしたらいいのか」

「それこそ意味が分からん。全然風邪じゃないみたいだし、学校を休む程だったのか」

「いや僕は健康そのものだけど、……じゃなくて、色々あるんだよ色々。とにかく今はホントに駄目だから閉めさせてよ。マジで」

「あのな。そんなんで納得すると思っているのか」

「マジ頼む。今だけは駄目だから。しかもサキリンも一緒なら絶対無理」

「私?」


 私がいるから余計に無理ってどういうことだろう。狭山がここまで頑なに嫌がるのも珍しいもので、一体中に何があるというのか。少しだけ、逆に私も興味が出てきてしまう。


「いいから、とにかく開けろ」

「嫌だね。絶対に開けるもんか」


 互いの力は拮抗しているらしく、ドアの動きは平行線だった。けどその扉にかかる力具合は相当なモノだと、たまに二人から漏れるうめき声から分かる。


「啓介!」

「な、何だよ!」


 庵藤があげた大声に狭山は少し萎縮したようだ。だけどすぐに、負けじと釣られたように声を張り上げて返答した。


「もう宿題みせてやらないぞ」

「俊樹、そういうのセコクない? 人の弱みに付け込むのはどうかと思うんだよね」

「さっさと開けないお前が悪いだろうが」


 何やら小さな交渉が私の目の前で繰り広げられていた。だが一向に進展する様子はなく、狭山の様子から、よっぽどのことだと推察される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ