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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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2:不穏Ⅲ

 いったい何処で降りるんだろう。全く知らない私は気が抜けない。庵藤の動きを見逃さないようにと、片時も目を離すわけにはいかなかった。


 隣の車両からだと、まず見つかることはないと思う。周りには、座る余裕がないくらい人が乗ってるし、同じ学校の生徒も何人かいる。庵藤は、進行方向を向いて右側の扉の前に立っていた。


 乗っている車両のなかでは一番後ろの扉だ。次の車両の前の方で、私は息を潜める。庵藤の立っている位置は、かなり都合が良かった。 


 また、庵藤は外を眺めていているので、より見付かりにくい。堂々と車両を挟んで見張っていると、さらには携帯をズボンのポケットから取り出していじり出す始末だ。いつも馬鹿にされている身としては、今回は私が優位に立っているなんて思ってしまう。


 何駅過ぎたのだろう。各駅停車の次に早く行ける急行に乗ったわけで、正確な距離感というものはない。実際に停車した駅の五つ目か、六つ目か。もしくはそれ以上か。景色は随分と変わり、より高い建物が駅周りにそびえている。都会っぽい街並みは、私にとって慣れない土地だった。


 複数の線路に乗り換え出来る、大きな駅に到着する。その頃には、車内はより人で溢れていた。庵藤が立つ右側の扉が開き、流れるように庵藤は下車する。私も同じように電車を降りようとするわけだけど、むしろ人の流れに呑まれてしまった。


「ぷはっ。こんなの毎日とか無理」


 電車のラッシュの凄まじさに、あっさり心が折られてしまう。いやそれより、庵藤は何処に行ったのか。恐らくは人が流れる先にいるだろうけど、此処が終着なのか。

 それとも乗り換えるのか。すぐに追い掛けないと。見回すけど、見付からない。まずいと焦るものの、むぎゅっと押し流されるだけだ。


 とてもじゃないが、一回見失ってしまっては見つけられそうになかった。そう半ば諦めかけていた時だ。遠くに庵藤の姿を確認する。駅のホームにいるものだと探していたわけだが、全くの見当違いだった。

 駅のホームには違いないが、いつの間にか庵藤は反対側のホームにいたのだ。予想外過ぎるが、発見出来たのは良かった。私も負けじと人の流れを切り開いて、向こう側のホームへと急いだ。


 再び追い付いた頃には、危うく乗り遅れそうになるところだ。急行で先行して折り返した方が早いということだろうか。あまりにも意外な庵藤の行動に振り回されてしまったわけだが、今度こそしっかり張り付いておこうと私は決心した。


 見失うことはもうなかったものの、庵藤はさらに不可解だった。折り返しで乗った車両もどうやら急行であるようだ。となると、急行で先行して折り返すという私の思惑は完全に外れることになる。結局庵藤は、最初に乗車した学校の最寄り駅からニ駅程しか離れていない駅で降りたのだった。

 

 駅を降りてすぐに目に入るのは、大きなショッピングモールだ。最近出来たばかりで、チェーン店がいくつも入っている。すぐそばというわけではなく、他よりも抜き出ていたので分かりやすい。それを横目に確認しながら、庵藤の後を追い掛ける。先程に比べれば、人の通りは減っており追いやすいものの、見付からないよう注意が必要だった。

 段々と人気がなくなっていく。恐らく殆どの人は、見えたモールへと向かうのだと思う。次第に住宅街へと風景は移り変わり、その頃には隠れ蓑となった人だかりも、随分薄れている。

 ある程度の距離をあけ、細心の注意を払う。見晴らしの良い車道添いに歩くので、振り向かれればすぐに見つかってしまうはずだ。


 不意に、庵藤は小道へと姿を消した。左へ曲がり、路地に入ったのだ。慌てて私も続いた。民家が立ち並び、迷路のように入り組んでいると感じてしまう。庵藤はスタスタと軽やかに進んでいた。右へ左へと曲折を繰り返し、もはや何処をどう歩いているのか分からなくなっていた頃、ついにはまたもや庵藤を見逃してしまった。


「え、あれ……。何処行ったんだろ」


 駆け足になって探してみるが、姿はやっぱり見えない。駅でもたまたま見つけたようなものだ。死角がこれだけ多いと、さっきみたいに偶然見つける、なんていうラッキーにも期待出来そうになかった。諦めるしかなさそうに思い、しょんぼりと私はきびすを返す。そして、自分が何処にいるのか全く分からない状況にいることに気付いた。


「こ、此処何処?」


 見覚えのない光景。いや、初めて来たのだからそれは当然である。むしろ、何処かで見たことあるような、ごくごく普通の住宅街だ。目印になるような珍しいものもない。庵藤を探してしまった分、どっちから自分が来たのか。駅はどの方向にあるのか、さっぱりだ。一瞬戸惑ってしまうものの、冷静になろうと考える。とにかく、まずは入り組んだこの路地から出ることが先決である。適当に真っ直ぐ進めば、何処かには出られるだろうと意気込んだ。


「そっちは何もないぞ。すぐに行き止まりだ」

「あ、そうなんですか。ありがとうござ……」


 背後から、親切な声を掛けられてお礼を言う。誰なのか確認もせず、反射的に。感謝の言葉を口にしてから視界に留める。何と庵藤だった。


「え、えぇ!?」

「えぇ? はこっちのセリフだ。こんなとこで何やってんだ?」


 どうやら庵藤は、回り道して私の後ろを陣取ったようである。


「い、いや別に。何も……。」


 つい視線を逸らしてしまう。


「嘘つけ。お前確かこっちじゃないだろ。いや、そもそも電車に乗る必要もないし。つーか明かに俺の後をついて来てただろ」

「むぐっ!?」


 バレてないと思っていただけに、全てが筒抜けとなっていたことは認めたくない。だが再び庵藤を見やると、これ以上ないくらいに呆れ返った表情だった。これ以上は言い訳をしても仕方ないと思えた私は、諦めて白状することにした。

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