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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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2:不穏Ⅱ

「狭山のこと。今日何で休みなの?」


 一瞬だけ、庵藤は驚いた表情を見せる。眼鏡の奥で眼が見開いていた。


「意外だな。神崎も気にかけてるのは。いつもはてっきり、鬱陶しいように思ってると思ってたけどな」


 けどすぐに、普段のような無表情に変わった。


「それとこれとは話が別だから」

「別って……?」


 魔界の住人に巻き込まれているかもしれない可能性。それを知る由もない庵藤は、私と違い、至って冷静だった。


「いいから、質問に答えて」

「俺も分からないな。どうしたのか連絡してみたが、音沙汰なしだ」

「……そう。それって、連絡とれないのってメールで?」

「両方だ」


 電話もかけてみたが繋がらないらしい。中々連絡が取れないのは、いつものことなのか。そうじゃないのか。それだけでも、大きく違ってくる。私が尋ねるより早く、庵藤はさらりと口にした。


「あいつにしては、こんなことは珍しいんだけどな。いつもよく分からん理由で遅刻したりするが、連絡は入れてはいたし」

「……そうなんだ」

「もしかして何か知ってるのか。最近変な事件起きてるけど、それ絡みか?」


 唐突に、庵藤は的確な追求をしてきた。鋭い。というよりは、今までの私がそう思わせてしまったのかもしれない。


「し、知らないよ。分からないからこうやって訊いてるんだし」

「そう……か。まぁ、あいつ、いい加減なとこもあるし、ただ単に休みかもしれないしな」

「普通、そうだって。だから庵藤に訊いたんだし。でも、知らないなら仕方ないよね」

「あいつがちゃんと連絡寄越さないのが悪いんだけどな」

「でも、もしかしたら朝からずっと、寝込んでるかもしれないし」

「ま、そんなとこだろうな。あ、ところで罰ゲームなんだが」


 何故このタイミングで……。テスト勝負に負けたしまったペナルティ。もう少し忘れていたかった。正直嫌な予感しかしないんだけど。


「とびっきり恥ずかしいのと、すんごい苦しいのと、めちゃめちゃ痛いのと、かなり屈辱的なのどれがいい?」


 何故選択式。しかも四択。そしてどれも選びたくない。


「そ、それぞれどういうのか教えてくれないと」

「それ無理。あ、でも教えてほしいなら全部やってもらうから」


 自分で分かってるか分からないけど、今庵藤めちゃくちゃ良い笑顔してる。前々から思ってたけど、庵藤って絶対Sだ。間違いない。


「そ、それは卑怯だと思う」

「じゃ勝手に俺が選んでいい?」

「絶対ダメ!」


 考えるまでもなく、一番酷いことをさせるに違いない。加奈は大丈夫みたいなこと言ってたけど、全然大丈夫じゃなかった。


「じゃあ神崎が選んでくれ。まぁ今はまだ考えとくでもい……」

「考えさせてください」

「……早いな」



 それからの時間は、どうしても気に病んでしまっていた。いや罰ゲームのこともそうだけど、今は忘れることにする。それよりも、身近な人間が巻き込まれているかもしれない。そんな可能性が増したとなると、気持ちは落ち着かなかった。

 その日の放課後。私は一大の決意をすることにした。


「……え?」


 予想はしていたけど、それ以上に優子には驚かれていた。


「ごめん。もう一回いいかな」 

「だから、その……」


 正直二回も言うのは気が引けるんだけど。


「狭山の家を知ってたら、教えて欲しいんだけど」

「ど、どしたの紗希? 休み時間のは冗談だったんだけど、まさかほんとに?」

「それは、ない。けどとにかく教えて」

「そ、そう。でも私も知らないよ。庵藤君なら知ってるんじゃない?」


 それはそうだろうけど、変に感付かれるかもしれないから、出来るだけ避けたい。


「じゃあ加奈なら知ってるかな」


 順当だけど、加奈もけっこう勘はいいし、寧ろ楽しんで詮索されそうだ。出来れば最終手段として残しておきたい。とはいえ、他に手は残っていなさそうだった。


 終わりのホームルームが終わったところなので、周りはガヤガヤと少し騒がしい。おかげで聞かれる心配もなさそうではある。だけど逆に、私の耳には好都合なことが聞こえてきた。


「庵藤。狭山のお見舞い行くのか?」

「あぁ、行く。今日のプリントやらノートやら渡してやらないといけないし、ついでに何で休んだのか追求しないとな」

「おっと怖い。まぁ程々にな」


 追求されると聞いた男子は、ヤバいなとでも言いたげに苦笑った。


「ちょうど良かったじゃん。この際庵藤君に頼んでついて行けばいいね」


 確かに目的を達成する兆しは見えたと思う。でも実際には難しそうだ。庵藤が素直に教えてくれるとは思えない。そもそも庵藤に頼むとなると、少し気が引ける。勝負の借りもあるし。むぅ。


「紗希。何か妙なこと考えてない?」 

「え? や、やだなー。何も考えてないって」


 妙なことは考えていないはすだ。むしろ名案だと思う。庵藤は狭山の家に向かうのは間違いない。なら、その後をこっそりついて行けばいいわけだ。思い付いた私は、今まさに庵藤の後を尾行していた。優子は部活。加奈は委員の仕事で私一人なのが心細いけど。


 途中までは見知った道なので、安心だった。自分がいつも使う帰り道なんだから。そして昨日同様、駅へとやってきた。ちらほらと、他にも下校する生徒がいた為、後を付けても私が目立つことはない。今のところは、庵藤にも気付かれてないと見える。駅のロータリーを回り、階段を登る庵藤に続いた。バレないように距離を空けていると、庵藤は真っ直ぐに進み、そのまますぅと改札をくぐった。


 あ、そっか。庵藤も電車通学だから定期持ってるんだっけ。


 すぐに察知出来たのは良かったけど、これでは何処まで行くのか。幾らかかるのかが分からない。どうしようと慌てている間に、庵藤は改札の向こうに消えてしまった。どっち向きに行くのかも私には分からないのだから、今見失うのは非常にまずい。そのうち電車が来るアナウンスも流れてしまった。


「あぁ、もう」


 背に腹は変えられない。とりあえず券売機に千円札を急いで突っ込んで(恐らくは)多めに切符を買うことにした。

 一瞬見失ったわけだが、庵藤は携帯をいじりながら歩いていたので、ゆっくり歩いていた。おかげですぐに見つかり、むしろ追い抜きそうになってしまった。


 ちょうど良いタイミングで電車が来ると、庵藤はそのまま一番近い車両に乗り込んだ。危うく私も、同じ車両に乗り込みそうになってしまったので、慌てて隣の車両に駆け込んだ。


「駆け込み乗車はお止め下さ~い」

「……あぅ」

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