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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
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3:黒猫Ⅲ

 そう頭のなかで朝の一連を振り返っていると、ギルが右手を伸ばす。これは何だろうと疑問だった。


「何?」

「その猫を渡せ」


 言葉だけならそんなに不自然なこともないと思う。しかし、飾られた雰囲気はただならなかった。


「いったい何するつもりよ?」

「決まってんだろ。殺すんだよ」

「……え!?」


 そりゃ寝てるとこに本棚が倒れてきたら、ギルでも痛いのかもしれないけど、だからって……。もちろん渡すわけにはいかなかった。


「な、何言ってんのよ。そんなことで殺すなんて絶対ダメ。可哀相じゃん。こんなに可愛いのに」


 猫はやっぱり可愛いもので、もう私の中では飼うことに異議はなかった。親がどう言うのかは分かんないけど。


「いいから渡せ」


 さらに手を伸ばしてくる。危機を悟ったのか、黒猫はまたもや腕からスルリと抜け、フローリングに敷かれたピンクのマットの上に降り立つ。そしてそのまま部屋を颯爽と出ていった。


「ちっ……」


 そのままギルも追い掛ける。ことはなく、追い掛けようとしただけで終わった。


「……おいコラ何してる」


 私がガッシリと足を掴んだからだ。ギルは身動きが取りづらそうである。


「駄目って言ってるでしょ!」


 はたから見れば実に滑稽な姿かもしれない。けど私は必死だった。


「あのな……。あいつも魔界の住人なんだよ。」

「えっ……。ホントに?」


 一見ただの猫だったようにしか見えなかったし、嫌な感じもしなかった。


「あっ……」


 振りほどいてギルは猫を追う。さすが早い。私も後に続こうと考えた。


「ちょっと待っ……。あたっ!」


 部屋に散乱している何かを踏みつけ、そして見事床に頭から突っ込んでしまった。痛い。最近どうも怪我が多いように思う。オデコを押さえ、何に引っ掛かったかと思えば、目覚まし時計であった。


「……!?」


 私が踏みつけたからなのか、猫によるものか、壊れていた。まだ幸いか、秒針は動いているわけで、目覚まし時計としての役割は努めていた。ただヒビが入っている。大きなヒビだ。せっかく買い直したたばかりだというのに。

 沈んだ気持ちになったけど、そんなことに構ってる場合じゃなかった。すぐに立ち上がろうとすると、全然時間も経っていないのに、早々とギルが戻ってきて言う。


「もう逃げちまってた。お前のせいだぞ」


 はうぅ。怒ってる。上からこれでもかってくらい睨んでる。あまりのいたたまれなさに正座をしてしまいそうだ。


「……ま、別にいいだろ。また紗希を殺しにくるだろうし」


 えらく軽いのは気のせいか。黒猫を見掛けたら即全速力で逃げる教訓を頭に叩き付ける。黒猫が不吉の象徴なのは本当だろうか。


でも、私を狙ってきたのなら、拾ってから家までの帰路で行えばいい。なぜおとなしかったのか。実際に怪我をしていたからだろうか。気になる疑問が私には残っていた。



 ばふっ!

 ギルがベッドに倒れこむ。


「腹、減った」

「コラコラ。降りてよ」


 掛け布団ごとダイブしたギルをのけようと、掛け布団を持って思いきり波を起こす。


「……」


 効果がなかった。ここで寝られては正直……いや、かなり邪魔である。散らかされた部屋を片さなくてはならないのに。


 黙々と空腹を耐えているらしく、無許可で私のベッドで寝転んでいるギルをよそに、私は黙々と作業を始めた。

 最初はまだおとなしく思えたギルも、数分後には「……腹減った」と何回も呟く。


「もう少し待ってよ。あとでなんかあげるから」

「今にしろ。俺を殺す気か……」


 ……はぁ。溜め息がもれる。見兼ねた私は、いざという時のための非常食としてとっておいた袋菓子を渡す。


「はい。これ食べていいから。なんとかこれでつないどいて」


 聞くが否や、ギルは文字通り飛び起きて袋を開けた。ポテトチョップスピザ味である。


 バリボリ……。

 黙々と平らげていくギルをよそに、私は黙々と再び作業に入る。一番酷いのは本棚だった。位置を横にずらすことでベッドから多少遠ざける。これでベッドには倒れないはずだ。斜めに倒れたら危ないけど。

 最初部屋に入った時は、随分荒らされたと思った。でも溜まったゴミ箱からゴミが散乱したり、机の上の物が落とされたりと、物が部屋の至るところで散らされただけだ。物が壊れたりということは意外にもなかったので、思ったよりは早く終わった。まぁそれでも一時間近くは軽くかかったかな。言うまでもなく、ギルが次のお菓子に手を伸ばそうとしたのを制止していたというのが、大きな要因と言える。



「……!?」

「ど、どうしたの?」


ギルが急に立ち上がって窓から外を見る。窓からは、今日は天候が悪く、また今にも雨が降りそうな濁った空と雲が見えた。


「何か近くにいやがる」


ギルのその一言は、一瞬にして場を緊張させた。敵が近くにいる。それは、警戒を余儀なくされる状況だった。

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