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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
229/271

2:不穏

 この暑い時期に雪が降ったという事実。珍しいという言葉で片付けていいはずがなかった。けどそれに続き、珍しいことが続いたと教室では声が上がっていた。クラスのムードメーカー、兼トラブルメーカーである狭山が、学校を休んだのだ。


「あいつも風邪ひいたんかな」

「庵藤、何か知ってるか?」

「いや、聞いてないな」

「狭山君が休むなんて初めてじゃない?」

「いやいや、また変な理由で遅刻かも?」


 休みであるかどうか確定したわけじゃない。出席を確認された時、狭山はその場にいなかった。連絡は来ていないらしく、遅刻の可能性もないわけじゃない。


 ただ、二時間目、三時間目と授業が終わっても顔を出さないとなると、休みの可能性がかなり高い。


 騒がしい狭山がいないだけで、クラスの明るさが少し曇っているいるようだ。よく話している女子も、一緒に馬鹿なことをしている男子も、今日は物足りないなと顔に出していた。


「何かいつもよりかは静かだね」

「……ん、そうだね」


 それは優子も同じであるらしい。


「何か、紗希も元気なくない?」

「そ、そんなことないよ」


 とは言うものの、私はかなり引っ掛かりを感じていた。遅刻でも、風邪でもないとしたら……。そう考えていたのだ。


 昨夜、私のもとに届いた一通のメール。それに関わっているんじゃないかと、不安がぎっていた。

 そのメールは夜遅くに届いていた。差出人は、執行者であるクランツだ。今も頭の中でメールの内容が思い出されていた。


「今街に魔界の住人が潜んでいる。どんな奴かはまだ見当がついていない。気をつけろ」


 その内容は至ってシンプルであり、必要最低限の情報が送られていた。けど、念のためそのまま部屋にいたギルやリアちゃんにも伝えると、まだ見つけてねぇのかよというのが第一声だった。


「ギルは見つけたの?」

「あぁ?」

「……何でもないです」


 ギルも見つけてないんだと分かりやすい。相当に機嫌が悪かった。


 その後、リアちゃんが残ってくれてギルが捜索に向かったのだ。けど成果はなく、姿どころか気配さえも掴めなかったと言っていた。



 そして今日になってみると、狭山がいないのだ。昨日は駅で、確かにまた明日と言っていた。


 何かしら都合があって休むとは考えにくい。なら、急遽事情が変わったということだろうか。もちろん、まだまだ遅刻の可能性もあるし、単純に風邪で休んだ可能性もある。でも、そうじゃなかったら?


 魔界の住人がこの街にいることは確実だと思う。なら、再び危険が迫っていることは間違いなく、もしも昨日、その魔界の住人に出くわしていたら?


 どうしても、そんな嫌な方へと考えてしまう。



「まさか紗希も、狭山君がいなくて……?」

「へ……?」

「いなくて初めて気付いたこの気持ち……とか?」

「べ、別にそんなんじゃないよ」


 何となく、昨日の一件を思い出してしまう。


「そう? あ、紗希にはあの彼がいるもんね」

「彼?」

「ほら。昨日来てた」

「だから、それも違うって。ただの親戚」

「怪しいんだけどな~」


 全く怪しくない。優子は興味津々といった顔だ。恋バナに興味があるのは分かるけど。


「本当に何でもないって。それより、次は情報だから早く教室に行かないと」


 情報処理の授業で、パソコンを使う為に教室を移動しないといけない。優子の勢いを大人しくさせようと、急ぐように促した。


「あ、誤魔化すの上手くなったね」


 ……思惑はバレバレだったみたいだけど。



 優子と加奈。いつもなら二人と移動しているが、今回、二人には一言言って私は先に向かった。というのも、庵藤に用があったからだ。


 移動教室の場合、それぞれの係が先に、向かう教室の鍵を開けることになっている。


 庵藤はクラス委員ではあるが、別に情報の授業の係というわけじゃない。

 にもかかわらず、庵藤は真面目な性格からか、いち早く教室を移動するのが恒例だった。


 私のクラスの教室は東校舎の三階。パソコン教室は西校舎の四階だった。先に階段を上ったのか、渡り廊下を先に通ったのか迷うところだ。行き着く先は同じなので、勘に頼って渡り廊下に向かってみる。どうやら見事勘は冴え渡っていたようで、先を歩く庵藤の姿を見つけた。


「庵藤」

「ん?」


 駆け寄りながら呼ぶと、庵藤は足を止めて振り返る。


「廊下を走るな」

「いたっ」


 ばしっと近付いたところでチョップをされてしまう。反応して口から零れたのではなく、言葉通り地味に痛かった。


「いったいな、もう!」


 頭を両手で押さえながら抗議するけど、悪びれた様子もなかった。


「神崎の頭が堅すぎてこっちが痛かった」

「何それ! ……じゃなくて、訊きたいことがあるんだけど」


 怒鳴りそうになるのを抑え、手っ取り早く用件を済まそうと思い直す。今はそれよりも、もっと大事なことがある。


「訊きたいこと?」


 自分に何を訊くのかと、庵藤は不思議そうだ。全く思い当たらないのかもしれない。

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