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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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1:波乱ⅩⅠ

「ちょっとだけ……焦ったんだと思う」

「ほらサキリンって、そんなに男子と話すことないし。僕が、一番サキリンと接してるって、そう思ってたからさ。だから、今日親戚の奴と仲良かったのを見て……正直ちょっと、焦った」


 本当に、今目の前にいるのは狭山なんだろうか。ふとそんな疑問を抱いてしまう。サキリンと呼び、調子のいいことばかり言う狭山は、ある意味人をおちょくっているのだと、そう私は思っていた。だが初めて見せるだろう今の姿に、違うのだと感じさせられた。


 本気……なの?


 いつもならあっさりと、行くわけないでしょ。と言うはずだ。そんなことを考えた。それを口にすればいいはずだ。何も変わらず、ちょっと怒った顔を見せてそう言葉にすればいいだけのはずだ。

 そのはずだけど、踏みとどまってしまう。眉を八の字に寄せる狭山に、いつも通り言うなんて難しく思えた。ようやく絞り出した自分の言葉は、返答ですらなかった。


「……だ、だから、別にそんな仲じゃないんだって」

「……ほんとに?」


不安と、そうでないであるようにという、希望が入り混じった表情を作る。


「うん。本当」

「……そっか。少し……安心した」


 無理に作った笑顔は、ようやく信じた、というよりかは無理矢理自分を信じさせたように感じる。いつものように、変な言動ばかりしてふざけてる風なことは全くない。今までと違い真剣な空気だった。こういうことに慣れてない私は、どう答えたものか分からない。


「えと、ごめん。怒った?」


 そう言って、無意識にうつむき加減になっていたところ、すっと狭山が顔を覗いてきた。


「……!? な、何でもない」

「そ、そう? いやでも何か顔赤くない?」

「あ、赤くなんかないってば!」

「……あ、えともしかして……照れてる?」

「う、うるさい! 狭山の馬鹿!」

「あははっ。いつものサキリンだね」

 

 それはこっちの台詞だ。ようやく、陽気さを見せた狭山は普段と近くなったと思う。


「変な話だけど、そうやってあたふたしてくれてるほうが、慣れてないんだなって分かって何か嬉しいや」

「別にいいでしょ。そんなこと」


 その通りなのだが、ただ言われるまま認めると、何だか負けた気がするので素っ気なく答えておいた。


「そうだね。サキリンはサキリンだしね」

「……」


 すっかり調子を取り戻したのか、何だか変に納得されてしまっている。私としては、腑に落ちないというか、癪に感じるというか。


「あ、でもさ。行きたいのは本当だから」

「え、あ、うん。ま、まぁ考えとく」

「ホント? やった!」


 思った以上にはしゃぐ狭山。私は焦って付け足した。


「い、いや、考えるって言っただけだよ」

「正直、すぐに断られると思ってたから。考えてくれるだけでも嬉しいよ」

「そ、そう……」


 そんなことで、そんなに嬉しいものだろうか。私には分からないけど、おおさげに喜ぶ狭山に、何だかこっちの方が恥ずかしくなる。


「サキリンは分かりやすいなぁ」

「ち、違っ……」


 指摘されてますます顔が熱くなる。別に私が嬉し恥ずかしいってわけじゃないのだ。


「分かってるって。じゃあ、また明日」


 狭山が颯爽と駆け出す。本当に分かってるのかかなり疑問だ。


「あ……ま、また明日。ってちょっと待った」


 問い詰めたかったのだけど、つい反射で挨拶を返してしまう。


「電車来たから」

「いやまだ来てないし!」


 何時に来るなんて時間まで把握してないが、ロータリーからでも電車が来たかどうかは見て分かる。アナウンスすらされてなかった。


「明日は遅刻しないようにね。サキリン」

「サキリン言うな馬鹿!」


 手を大きく振ることで、狭山は返したつもりのようだ。大声で何てことを口走るんだか。全く。

 でも、最後はいつもの調子に戻ったようで良かったと思う。


 階段を登り、駅内へと姿を消す狭山。すぅっと見えない奥底へと、吸い込まれるように進んでゆく。一瞬、そんな風に見えた。何でそう見えたのか。普通に帰っているだけだというのに。私は変だなと微笑した。


 何のことはない。狭山も、普段と変わらないじゃないか。最近色々とあっただけに、変に考え過ぎているんじゃないかと思うことにした。完全に見えなくなるまで狭山を見送った私は、きびすを返して、同じく帰路に向かった。



「じゃあ、また明日」

 

 確かにそう言っていた。だが次の日、狭山は学校に来ることはなかった。

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