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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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1:波乱Ⅹ

 私の高校は妙な場所にある。辺境の地というわけは勿論ないが、長い坂道を介した丘の上に建っている。電車で通っている者は特に、駅が遠く感じる始末だ。その一人が、今私の隣を歩いている狭山である。



 空はまだまだ明るい。人通りも多い中の帰り道だ。


 正直なところ、 一緒に帰ると了承した後にしまったと思った。一緒に帰るというのは口実で、ギルについて色々と聞いてくるのではないか。そう考えることが出来たからだ。


 けど実際は違った。特に懸念した事実はなく、ただの杞憂だったようだ。むしろ変わらず、いったい何処から仕入れてきたのか、坂道を下る間、面白い雑学を聞かせくれるくらいだった。


「何処でそんなこと知ったのやら」

 

 おどけるように言ってみる。


「まぁこれは、俊樹に聞いたんだけどね。あいつ結構本読むし」

「そういえば加奈も結構読んでたっけ。やっぱり私も何か読んだほうがいいかな」

「別に無理に読まなくてもいいじゃん。あの二人は好きで読むんだし。サキリンだって全く読まないわけじゃないだろ」

「私の場合は、大概漫画だけど」


 本であるには違いない。けどジャンルが違い過ぎて、とても読書しているとは言えないと思う。


「僕もそうだって。文字ばっかは目が痛くて疲れるから無理。それに漫画だって結構学ぶこと多いし、いいんじゃない? 武将の名前とか」

「いや武将って……。それ少年漫画。私基本少女漫画しか読まないんだけど」


ふ~んと狭山は横目で見てきた。そして間を措いてから一言口にする。


「……エロいやつ?」

「は……はぁ!? な、何言ってんの。そんなわけないでしょ!」

 

 いきなり変なことを言われてしまう。憤慨しながら反論した。


「いやだって、最近の少女漫画は描写がエロいと聞いたことがあったから」


 確かに最近のは、そういう描写が多いのは知ってるけど。


「わ、私が読んでるのはそういうのじゃないし!?」

「ムキになるとこが怪しいな」


 狭山はニヤリとわざとらしく笑みを浮かべる。疑われてると感じてしまい、より強く主張する。


「ほ、本当に読んでないってば!」


 するとどうしたことか、狭山は口に手を当てて、顔を背けていた。


「……く、くく。やっぱ可愛いなサキリンは」


 完全におちょくられていたようだ。ますます顔が熱くなるのを自覚しながら吠える。


「ば、馬鹿にしてるでしょ!」

「してないしてない。誉めてんの」

「絶対嘘だ」


 狭山は本当なのになぁとぼやく。仮に本当だとしても、その褒められ方は嬉しくない。そうしているうちに駅前へと繋がる道へ差し掛かる。一気に(ひら)けていて、大きいロータリーが見えていた。


「あ、サキリン」

「だから、サキリンって呼ばないでよ」


 陽気さを見せる狭山だが、やはりその呼び方はちょっと待ったと止めに入る。学校ならいざ知らず、今は駅に近い公共の場なのだ。


「えぇ? さっきもサキリンって言ってたのに?」

「え、嘘?」


 そうだったかなと思案するが、定かじゃない。


「あれ? 素で気付いてなかったんだ。これは着々とサキリンが定着化しつつあるのかな。もうそれならサキリンは公認でいいんじゃない?」

「それだけは却下。定着なんかしてないし絶対認めない」


  既に、その呼び名が教室で浸透しつつあることは、この際目を瞑ろうと思う。


「まぁいいけどね。僕が呼びたいんだし」

「あのね……」

「あ、そういえばさ」


私の言い分はあっさり伏せられてしまった。狭山はごそごそとズボンのポケットを探り始める。いったい何だろうと思う頃には、何かを差し出されていた。


「これ……行かない?」


見せられたのは何のことはない。携帯だった。


「これ」というのは、十中八九携帯の画面を指しているので覗いてみれば、今期待が寄せられている映画の画像が出ていた。


 CGをふんだんに使ったSF洋画である。突如地球に侵略してきた宇宙人だが、偶然出会った人間の女の子との絆を見出して、他の侵略してくる宇宙人と戦うとか。いやそれよりもだ。


「な、何で?」


ある言葉が頭をぎる。けどすぐに違うと打ち払った。確かめるように、私は尋ねる。予想した答えは事実となった。


「まぁ、その、行きたいなって。サキリンと」


 間違い無い。デートの誘いだった。いや、女の子ともよく話す狭山なら不思議な光景じゃないはずだ。けれどどうしたことか。狭山は急に口をこもらせ、ポツポツと言葉を紡いでいた。視線もせわしないその様子は、とても手慣れているとは言えなかった。


「……え、あ、いや、でも……」


普段と変わらない調子であったなら、すんなりと断ることが出来たと思う。けどそれとは懸け離れていた。いつもと違い、真剣なのかと思えたためだろうか。私は声を出すのを躊躇ってしまう。


「……私は、そういうの……」


 いや、単純に誘われるということに慣れていないからだ。そのはずだと思う。どう言ったものかと思案するも、答えは見付からない。


「あ、こういうの、好きじゃない? じゃあさ、水族館とかはどう?」


 そういうのと言ったのを、狭山は映画、もしくは映画の内容と解釈したようだ。珍しく慌てた様子である。


「いや、そうじゃなくて……!」


私が強く遮ると、狭山は、打って変わった表情を見せていた。


「……ご、ごめん」


謝られたのが初めてというわけではないが、やはりいつもとは違う。鬱陶しいとも思える程の陽気さは全くなく、今はただ落ち込んだ顔を浮かべていた。

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