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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
5章 闇に渦巻く陰謀
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1:波乱Ⅸ

「むむ、仕方ないデスネ」

 

 渋々といったところだが、承認してもらえたようで良かった。とその時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。


「あ、早く戻らないと」

「授業に遅れてしまいますネ。あ、何なら私が事情を説明しま……」

「いいですから。兎に角見付からないようにだけお願いします」


 いまいちスカルさんの好意なのか、ふざけているのか分からない申し出に、私は両手をぶんぶんと振って即座にお断りした。


「そうデスか?」


 スカルさんにも困ったものだが、何とか分かってもらえたようだ。


「ギルもお願いだから大人しくしててよね」

「分かった分かった」


 適当なギルの返事に心配を覚えつつも、授業に遅れるわけにはいかない。次は移動する授業だったかなと思考を切り替えて、足を速めた。






「あ~あ、私も見たかったな」

「そうね、まさか紗希がね」

「だから違うって」


 教室に戻った途端、ギルについて突き詰めてきたのは優子と加奈だった。

 ちょうどギルがいた時にいなかった二人は、逆に教室にいた皆から事の顛末を聞いていたらしい。それも私から見るに、かなり歪曲した伝わり方をしていると思う。どうも恋愛沙汰となっている。そのせいか、取り調べまがいのような追求に私は冷や汗をかいていた。その時は授業が始まることで難を逃れたわけだが、休み時間になった途端に飛んできた二人によって、再び話が盛り返されているところだった。


「そもそも何でその人は学校に来たの?」


 優子がふと疑問を口にすると、加奈がにんまりと答えを予測した。


「決まってるじゃない。紗希を探してたんだし、紗希に会いたくて仕方なかったのよ。きっと」

「いや全然違うから。学校に興味あったから来ただけだし」

「学校に興味?」

「あ、いや……」


 魔界の住人であり、処刑人であるギルは勿論学校のことを知らない。だけど外見は普通の男の子なのだから、学校を知らなくて興味があるってのは変な話だ。

 むぅ……。

 どう誤魔化せばいいのか悩む私だが、そんなことは御構い無しに、二人は考えを言い合っている。


「それってあれでしょ。紗希が通う学校に興味があったって事でしょ」

「いやいや。というより、紗希が学校でどんな風に過ごしてるか気になったんじゃない?」

「……そこまでは分かんないけど」


そうじゃないと否定したい気持ちを抑え、肯定も否定もしないでおいた。


「絶対そうだと思うな」

 

 それは予想というより期待なんじゃないかと思う。


「それで何処までいったの?」

「は?」


 突然の加奈からの質問に私は戸惑う。テンションが高まる二人は、目を爛々と輝かせ、うずうずと聞きたくてしょうがないといった様子だ。


「いや、だから別に何も……」

「うんうん」

 

 うわっ。絶対何かあると疑わない。早く教えてと目が訴えていた。

 期待されてるようなことは何もない。あえて言うなら、ほっぺを引っ張られたり、頭をキリキリと掴まれたりしてるくらいだ。


ん?

よくよく考えてみると、凄い理不尽な扱いをされてる気がする。やっぱりちゃんと言っておかないと。

 いずれにせよ本当に何もない。それだけは、しっかりと伝えばなるまいと話そうとした時だ。


「あ、チャイムだ」

 

 タイミングが悪いことに、本日最後の授業が始まる合図が鳴った。そそくさと、後でねと席に戻る優子と加奈。追い掛けようとしたけど、ガラッといち早く先生が入ってきた。それも日本史の嶽内(ごくない)先生。くいっと動かす眼鏡から覗く、鋭い眼光には射抜かれたくない。此処はすんなり諦めるしかなかった。放課後にはしっかり否定しようと、心に決めた。


「じゃあ私部活行ってくるからね」

「私も今日は委員の仕事あるから」

「あぁ……」


 しかし、最後の授業が終わった途端に、二人はそれぞれ向かうべきところへ急いで行ってしまった。明日にはちゃんと伝えとかないと。


「サキリン、一緒に帰らない?」

「……む?」


 置いてけぼりを喰らってしまった私のところに、狭山が現れた。鞄を肩に担ぎ上げ、いつでも帰れると言いたげだ。私が一人になったのを見越してきたのかと思うと、自然と身構える。


「今日は敏樹が生徒会の仕事で遅くなるって言うからさ。それで一緒に帰る相手が欲しかったんだ」

「それで私のところって……」

「何で一番に優先してくれなかったって?」

「……違う。何でいつもあしらってるのに懲りずに来るのかと疑問に思ったの」

「そりゃあ……まぁ、好き、だからかな」


いつもと同じように繰り返す言葉。だけど、はにかみながら照れたように口にする狭山は珍しい。というか新鮮だ。いやいや、軽々しく好きとか言うなんて、いまいち信用出来ない。


「それに、いつまでも馬鹿やってる場合じゃないかもしれないしね。なんか今日は、それを思い知らされた感じがする」


十中八九ギルの一件だと思う。狭山も親戚だとは信じていないようだ。基本調子良く振る舞うくせに、今回はそうでもない。何だかこっちまでペースが狂ってしまう。


「さっきも言ったけど、そんなんじゃないよ」

「本当に?」

「本当だってば」

「なら、少し安心した。でも帰る相手がいないことに変わりはないから、一緒に帰ろうよ」

「……まぁ、いいけど」


 勝手について来たこともあったためだが、一緒に帰ったことがないわけじゃない。大して変わらないと思い、了承することにした。

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